いきなりお姫様はやってきた。
うにうにー。
ある日、家へ帰ろうとすると、玄関の前に信じられない人がいた。
金髪の縦ロール、空を切り取ってはめ込んだような青い瞳。
人形のような美しさ。
絵姿で見たことがあるエリザベス姫がそこにいた。
そして彼女の周りには、20人近くの下僕達が控えている。
「え……。どうしてエリザベス姫が……」
勇者に救出され自力で家まで帰ったはずのエリザベス姫がなぜここにいるのだろうか?
ちなみにこの人は勇者以上に伝説を作った女として有名になった。私は何度も絵姿を見たことがある。
「わたくしは勇者に用があるのです。勇者を今すぐ出しなさい」
勇者は、私の部屋かその隣の部屋で引きこもってゴロゴロしている。
引きニートみたいな生活を送っている最低な奴だ。
「勇者なんてもう二度と関わらない方がいいですよ」
こんな綺麗なお姫様を魔王城に一人で置いて帰るとか、もうクズとしか思えない。
「お黙りなさい、そこの貧乳」
貧乳呼ばわりされました。地味にショックです。
だったら、私は心の中であなたを爆乳とでも呼んであげます。
……いや、逆に負けたみたいで惨めだ。くそっ。
今度会うときは、胸に林檎を詰めて見返してやろう。
エリザベス姫は、私がそんなことを考えているなんて知りもせず罵倒してきた。
「勇者をたぶらかすふしだらな女のくせに、生意気ね。
勇者は私にこそふさわしいわ」
エリザベス・クリスティン。この国のお姫様。
確かに見た目だけなら二人はお似合いのカップルだろう。美男美女だ。眩しすぎる。
でも、エリザベス姫にはぜひとも言ってやりたい。
あなたには、絶対もっといい人がお似合いですから。
こんなバカにこだわる必要なんてないわ。
世の中の男は、ルーカスだけではないのよ。あなたは、素敵な男性とつきあって幸せになるべきですからああああああ!
ふっ。気合が入り過ぎて心の中で絶叫をしてしまった。
しかし、騒ぎに駆け付けたのか勇者が窓から飛び降りて出てきた。
「リア。これは何の騒ぎだ?」
「エリザベス姫があなたに会いに来たらしい」
エリザベス姫は熱っぽい瞳をしながら、ルーカスの手を情熱的に握った。
「あなたをお慕いしています。あなたはわたくしを魔王から救ってくださった王子様です」
……しかし、その後、勇者において行かれ自力で魔物を倒しながら帰ったエピソードを知っている私としてはその告白にツッコミをいれたくてたまらなかった。勇者は、外道中の外道ですから。こんな人間に惚れるなんておかしくないですか?こいつの見た目だけで騙されるな。
「なあ、ダイアナ。お慕いってどういう意味?」
「それくらい知っていろ。
……好きですってことだよ」
エリザベス姫は、もう一度告白しなおした。
「勇者様。わたくしはあなたが好きです」
「俺も同じ気持ちだ」
ええ……。まさかの両想いか!
エリザベス姫は美しいしさすがの勇者も心を動かされたのだろう。こ、これで私が勇者から解放される。あの勇者の嵐のような愛情がエリザベスに移っても私には関係ない。勇者と無関係の生き方ができるなんて……最高だわ。
しかし、勇者は勇者だった。
「俺も俺が好きだ」
「まぎらわしい言い方をするな」
私は勇者を殴った。
「どうか、わたくしと結婚を前提につきあってください」
そんなかわいい天使のようなエリザベス姫に対して勇者は即答した。
「ごめん。俺はリアのことが好きだから無理」
「あほか!そんな告白の断りしたら、私が恨まれるでしょうが」
「え……」
そんなことは考えたこともなかったというように、勇者が固まった。
「いい。あんたに惚れた女の子によって私が殺されたりしたらどうするのよ!」
「絶対に君の敵はとるよ」
「私が死ぬことを前提にしないでよ!」
「とにかく、俺はリアが好きだ。
だから、お前とはつきあえない」
それを聞いたエリザベス姫はあまりの屈辱に顔を真っ赤にさせながら罵るように言葉を吐き捨てた。
「あなたみたいな変態だと噂のある男なんて、こっちから願い下げだわ」
そう言って、エリザベス姫は馬車に乗って帰って行った。
こうして私の家に無事、平和が訪れた。
「どうしてあなたが変態だという噂が流れているのかしら?」
「心当たりがないな」
「どうせあなたが悪いのよ。白状しなさい」
「……そういえば、間違えて女の子のトイレに入ってしまった」
「間違えるな!」
子供だってそんなバカなミスはしないはずだ。
「ちゃんと、トイレットペーパーを三角に追って綺麗に見えるようにしたのに」
「そんなことどうでもいい。ルーカスは、きっといつか、変質者として警察につかまる運命なのよ」
「大丈夫。俺は勇者だから、何とかしてもらえる」
「……世の中はそんなに甘くない」
しかし、チート的な強さを持つ勇者を見ているとこの言葉がひどく薄っぺらく感じた。
「いざとなれば、牢屋をぶっ壊して君に会いに行くよ」
「……来なくていい」
しかし、勇者はエメラルドグリーンの瞳をキラキラ輝かせ、自分だけの世界に入った。
「障害がある恋は、すごく燃えそうだね」
牢屋をぶっ壊して会いに来るとか、燃えねぇよ。
「あと、前から思っていたんだけど、もっと人に迷惑をかけない告白の断り方をしなさい」
「例えば……」
「うーん、そうね。『俺は、誰ともつきあうつもりがない』とか『今はそういう気分じゃない』とかそういう感じでいいと思う」
「いや、でもそんなこと言いながら次の日俺がリアとつきあっていたらその子達は傷ついてしまうんじゃないか」
「うーん。そうねって、私、あなたとつきあったりしないはずだから大丈夫よ」
「そんなことない。未来は何が起こるかわからないよ」
「ないものはない」
結局こうなった。
とある晴れた日、勇者が花屋の娘に告白された時の返事だ。
「私、ルーカス様のことが大好きなの。つきあってください」
「ごめん。俺、ロリコンだ」
「え?」
「俺は、発達しきっていない少女の未熟な体にしか欲情しない。小さな女の子の服を見ながら、心の目でツルペタナイスバディを眺めることが趣味だ」
「……。なんか愛が冷めたわ」
こうして花屋の娘は去って行った。きっともっといい男をつかまえるだろう。
よしっ。これこそ、一番平和的で、みんなが幸せになれる解答よ。
自分が天才過ぎて怖くなる。そして、こんな恥ずかしいセリフをスラスラとしゃべれるルーカスはある意味すごい。勇者だ。
読んでくださりありがとうございます。