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勇者はのこのこ帰ってきた

 エリザベス姫がかわいそう……。

 こうして勇者は魔王を倒し、私、リアの元へのこのこ帰ってきた。

 しかし、勇者の極悪非道伝説はうわさになっていた。

「おい、エリザベス姫を置いて帰るとかお前鬼畜すぎるだろう!」

 大人しく病弱。深窓の姫君と呼ばれている少女、エリザベス姫。

 病弱で死にかけているらしいということも聞いたことがある。そんな人を魔物がうじゃうじゃいるとこに置いて帰ってくるなんてひどい。ひどすぎる。

「でもあの人が熊を倒したことを見たことがあります」

「どこが深窓の姫君なのよ!」

「見た目があまりにもはかないイメージがあったので深窓の姫君という噂が立ったらしい」

「人は見た目が9割と言われていることを実感したわ」

「ちなみにエリザベス姫の趣味は、動物虐待だ」

「何かここまで予想を裏切る人も珍しいわね」

「だから、俺が魔王を倒した後は、エリザベス姫は魔王中の魔物達と戦いながらたくましく家に帰ったらしい」

「……たくましすぎるだろう」

 そういえば、魔王はとても強く残酷で美しいと聞いたことがある。

 勇者と魔王の間には、どんな戦いがあったのだろうか?

 きっとあんなに強い魔王を倒すなんて、血と感動の壮絶なドラマが繰り広げられたのだろう。

「そういえば、魔王をどうやって倒したの?」

 しかし、勇者はしゃあしゃあと答えた。

「左アッパーで一発でした」

 ……。

 私の頭の中で、魔王と勇者の最終決戦の絵がガラガラと崩れ落ちた。

 勇者、剣くらい使えよ。

「魔王は10秒立っても起きなかったので、KO勝ちでした」

「ボクシングかよ」

「手加減したつもりなのに、魔王はそのまま一生起きませんでした」

「……それで、殺したのか」

「殺すつもりはなかったのに……」

 いや、世界平和のために殺せよ。

「しかし、噂とは違い弱い魔王でした。あんなに弱いのに魔王にされてしまうなんて、きっと貧乏くじでもひいたのでしょう。優しい私は魔王をかわいそうに思い、お墓を作ってうめてあげました」

「勇者」

 何だ、こいつもけっこういいところがあるのね。見直したわ。

「しかし、お腹がすいていたのでやっぱり掘り起こしてたき火で焼いて食べました」

「……お前、悪魔だな」

「冗談です。あんな奴、食べたら私のお腹が痛くなるじゃないですか。

 ちゃんとみんなの仇をとるために、燃やして埋めて踏みつけました」

「……そうか」

「とにかく、約束は守ってください。

 明日は、俺とデートしてください」

 ……本気で夜逃げしようかと思った。

 

 望んでもいないのに、次の日はやってきた。

「今日は、リアとデート、デート!

 ああ、流れるのは二人の愛の時間。育まれるのは、世界で一番美しい愛の結晶」

 勇者は、朝から私の家の台所で嬉しそうに歌を歌っていた。

「何も流れないし、育まれないわよ」

「さすがツンデレ。そこに痺れる、憧れる。さあ、リア。この服を着てほしい。君のために用意した」

 勇者の手に握られているのは、ヒラヒラとしたゴスロリだった。

 レースがたっぷり使われている。しかし、私は庶民だ。レースのない、いつもの地味な服で十分だ。そんな服を着たら、ピエロにでもなった気分になるだろう。

「絶対に嫌だ」

「……せっかく、一か月かけて用意したのに。ダイアナのスリーサイズも調べたのに。

 パンツも透けるように工夫したのに!」

 勇者の声は今にも泣きそうなくらい落ち込んでいた。

「そんなものは今すぐ捨てろ!」

「そんな、もったいない。捨てるくらいなら俺が着るよ」

 もったいないという言葉が今日ほど恐ろしく感じたことは今までなかった。

「……勝手にすれば」

 案外、似合っていた。髪の短い美少女と言っても通用するだろう。

 何こいつ、私よりもかわいくないか。

 絶世の美少女と言っても通じるだろう。

 ただし、一言もしゃべらなかったらの話だ。

 ちなみに、パンツは透けていなかった。

「パンツが透ける工夫はどうしたの?」

「ああ、風が吹くとパンツの周りの布だけめくれるようになっている」

 私は風が吹かないようにと死ぬ気で祈った。

「さあ、デートに行こう」

 い、行きたくない。こんな最低なデートに行くくらいなら死んだ方がましだ。

「ごめん。頭が痛くなってきちゃった。今日のデートは中止にしましょう」

 必殺、仮病だ。これで諦めろ。ふふふふふ。

「そんな。君が死んだら俺は生きていけない。

 一日中看病するよ。ご飯、食べられないなら、ちゃんと口移ししてあげるから心配しないで」

「……さあ、行こうか。その代わり、人前では絶対にしゃべらないでね。

 私が女装男子と一緒に歩いているなんて知られたくないわ」

「わかった。ずっと黙っている」

 しかし、この瞬間、私たちは悲劇への一歩を踏み出していたのだ。


 読んでくださりありがとうございます。

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