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こうして伝記は『めでたし、めでたし』で終わる。

 妄想が膨らみ暴走した結果。

 私、ノア・ミルフィーユは、エルフとして勇者のパーティーとして選ばれていた。勇者パーティーは、全員で6人のメンバーで構成されている。魔王に対抗するため、国王が国から評判の高く実力のある若者を集めたのだ。

 昔、初めて勇者と出会ったことは今でも忘れられない。

 あれほど衝撃的な出来事は私の人生に一度もなかった。

 13歳ほどであった彼は、絶世の美少年と言ってもいいほど美しかった。

 色素の薄めの金髪の髪の毛、知的に輝くエメラルドグリーンの瞳、形がいい高めの鼻、雪のように白く滑らかな肌。

 勇者は、剣を持ち優雅に立っていた。 

 次の瞬間、大きな風が吹いた。

美少年の髪の毛がふわりと風に吹かれて飛んでいった。

現れたのは、髪が一本もないツルツルの頭だった。

心臓麻痺をおこしてしまいそうなくらいの衝撃を受けた。

「あ……」

 彼は慌ててカツラを追いかけ、地面に落ちてしまったそれを自分の頭にカポリと被せた。

 よほど急いでいたのか、前と後ろが逆だった。

 シーン。

 そういえば、ハゲというよりも上品な言い方を聞いたことがある。

「あなたは、頭皮が剥奪されていたのか」

「違う。これは……地毛だ。

 自分の髪の毛を全部切り取ってカツラにしてはめているだけだ」

 ……そんなめんどうくさいことをする人間がこの世に存在するとは思えなかった。

「……どうして?」

「髪を洗いやすくするため。取り外し可能な方が寝ぐせとかつかないし」

「嘘をつくならもっとましな嘘をつきなさい。もうだめだ。あっはははははは。

 ははははっははっはははははは」

 けれども、彼は笑い転げている私を見ながら深刻そうな顔で呟いた。

「俺は……病気だ」

 そうか。髪の毛が抜けてしまう作用がある病気なのか。

 そんな人間を笑ってしまうなんて悪いことをしてしまった。

「ごめん。無神経なことをしてしまった」

「謝ることはない。ただのカツラを使いたい病だから」

「私の謝罪を返せ」

「それは残念ながらできません」

 その後、勇者はカツラを使いたい病を克服したみたいでちゃんと地毛で生活するようになった。


 ある日、勇者から、旅をしている時に奥さんの話を聞いた。

 この時、勇者の年齢は17歳だった。

「俺には、帰りを待ってくれている妻ができました」

「お前、いつの間に結婚した?」

「一か月ほど前です」

「結婚するなら、私も結婚式によんでほしかったな。

 お前も冷たい奴だな」

「駆け落ちだったので結婚式はしませんでした」

「……お前も大変だな。私に言ってくれれば、協力してあげたのに。

 彼女は、どんな人だ?」

「かわいくて、優しくて、暖かい人です。

 名前は、レオナルドン・ダ・ヴィンチです」

 とある有名な画家に名前が似ているな。きっと両親がふざけて変な名前をつけたのだろう。

「そうか。かわいい彼女が待ってくれているなんて幸せものだな」

「ええ、とってもかわいい彼女です。たまに俺が料理を作ってあげると『べ、別に食べたくなんかないんだからね』って言いながら、食べます。ツンデレ気味だけど、デレルと世界一かわいいです」

 それから勇者に、自分の妻がどんなにかわいいかのろけ話を聞かされた。

 勇者が遠い旅に出るときは『行かないで』と泣きじゃくる話。勇者が料理をおいしいと褒めただけで、何度も同じビーフシチューを作ってくれた話。同じ生地を使って似たような服を着た話。一緒に星空を眺めるデートをした話。夕日の見える丘でキスをした話。

 勇者がケガした時に、『いつか勇者が死んだら、私はもう生きていけない』と泣き出した話はとても感動的だった。

 私も、故郷に残してきたずっと好きだった幼馴染や大切だった家族を思い出して寂しさと懐かしさを感じた。

「そんなにかわいい彼女がいるなら、こんなに長い間離れ離れになるなんてかわいそうだな」

 思わず勇者と妻がかわいそうで、ほろりと泣きそうになった私に向かって勇者は告げた。

「大丈夫です。ただのエア妻ですから」

「お前の脳内はどうなっている!」

 勇者とはしばらくの間、絶交した。


 ある日、あのぐうたら勇者がやる気をだした。魔王を倒し、エリザベス姫を救出すると言いだしたのだ。何か変なものでも食べたのだろうか?

「おい、お前がやる気を出すなんておかしいな。

 何かあったのか?」

「何を言っている、ノア。俺は、いつも勤労の塊みたいな人間だ」

「勤労の塊……。筋肉の塊の間違いじゃないか?」

 勇者のバカ力は凄まじい。細マッチョのくせに恐ろしいパワーだった。

 きっと地面に向かって拳を打ち込んだら地球が半分になるに違いないと思うほどだ。

「とにかく、早く魔王を倒して帰ろう。お姫様も一緒に救ってあげよう」

 勇者は、キラキラとしたエメラルドグリーンの瞳をしながらそうした。

「ああ、そのために今まで頑張ってきたのだから。

 一緒に、正義は勝つということを示そうぜ」

「そうしよう」

 私と勇者は、夕日をバックに握手をした。 

 私が彼との熱い友情を実感した瞬間だった。

 今から7年近くこいつとは、魔王を倒すために頑張ってきた。

 もうじきその集大成に入る。

 大丈夫だ。きっと上手くいく。

 エルフとして勇者を魔王のもとまで導き、最終決戦のサポートをするのだ。

 それが私の役目だ。

 どんな魔物が待ち構えていようとひるむことはない。


 次の日、朝起きたら勇者は消えていた。

 勇者が寝ていた場所には、一枚の紙切れがあった。

 そこには、綺麗な字でこう書かれてきた。


 『やっぱり一人で魔王を倒してくる。お前たちは足手まといだ』


 私は、それをビリビリに破り捨てた。


「何のために勇者のパーティーが存在したんだよおおおおおおおお!」


 私の魂の叫びは届くことがなかった。

 こうして勇者は、俺達を置いていき一人で魔王を倒して帰った

 お姫様は、自力でお城まで歩いて帰りました。

 こうしてか弱く守られていたお姫様は成長を遂げましたとさ。

 めでたし、めでたし。


 読んでくださりありがとうございます。

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