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05.王兄一家の日常 前編

 皆さん、初めまして。アルド=オル=ラカントと申します。九歳です。今日は、僕の一日を紹介したいと思います。


 朝、いつものように、庭に出てストレッチを始めます。今日は僕が一番乗りだったから嬉しくて、思わず鼻歌を歌いそうになったところに、眠そうな声が聞こえてきました。


「あ〜〜眠た〜〜……あれ、アルド。おはよう。今日はお前が一番か、偉いな。」


「はい、兄上! おはようございます!」


 登場したのは、十六歳になられたアレン兄上です。ストレッチを中断して駆け寄ると、頭を撫でてくださいます。嬉しくてにやけてしまいますが、これは仕方がないのです。兄上の頭なでなではとても気持ち良いんですよ。


「よし、じゃあ俺もストレッチするか〜〜」


 そう言った兄上は、パンッと両手で両頬を叩きました。そうしたら、眠そうだった時と空気が変わって、とってもかっこよくなります。僕の尊敬する兄上に変身です。寝起きと、婚約者のマリアさまの話をする時の兄上はちょっと残念な感じになりますが、そんな兄上も大好きです。

 兄上と一緒にストレッチをした後は、ランニングです。体力作りが大切だという父上の教えを守り、毎日欠かしません。


「おはよう、アレン、アルド。」


「父上!」


 ランニング後、タイミングを見計らったように父上が来られたので、僕は思わず駆け寄って抱きつきました。父上の頭なでなでも好きなのでそれとなくねだってみると、撫でてくださいました。満足です。


「おはようございます、父上。」


 ゆっくり歩いてきた兄上の頭も、父上は撫でておられました。兄上と目が合うと、照れたように笑っておられました。やっぱり父上のなでなでは兄弟みんな大好きなようです。

 それからは、模擬剣を使って父上が手合わせをしてくださる時間です。


「アルド、踏み込みが弱い! もう一回!」


「はい!」


 いつも優しい父上ですが、この時間はスパルタです。泣きたくなることも何回かありましたが、強くなるために我慢です。必死に父上に攻撃を仕掛けますが、全てかわされ、最後には剣を弾かれてしまいます。


「ああ……」


 飛んで行った剣は、兄上が拾ってくださっていました。


「アルド、攻撃は悪くないから、もう少し相手の動きを見るといい。がむしゃらに剣を振るうと、体力を奪われる。」


「は、はい! ありがとうございました!」


「お疲れ、アルド。」


 父上に挨拶をすると、兄上が頭をポンポンと撫でてくださいました。はい、と返事をして、僕は隅の方に移動します。今から父上と兄上の手合わせです。

 兄上は、普段は宰相様のもとで働いておられます。なので、体を動かす仕事ではないのですが、こうして鍛錬は欠かされません。さすが兄上、すごいなあと思って、どうして続けられるのか理由を聞きましたが、マリアに惚れてもらうため、という返事が返ってきたので聞かなかったことにしました。

 とは言え、兄上はとっても強いです。鍛えている理由さえ知らなければ、本当に本当にかっこいいです。父上と兄上の手合わせは、毎日見ているのですが、速くて二人の動きについていくのに必死です。今日は兄上が優勢…? と思いながら見ていましたが、突然二人の動きが止まり、首元に剣を突きつけられていたのは兄上でした。


「あー…、今日はいける気がしたのに。」


「俺も今日は途中まで負ける気がしていた。詰めが甘いな。」


「……はい。精進します。」


 父上は、兄上の頭をポンポンと撫でられました。


「さて。朝食の時間までに汗を流してしまおうか。」


「はい!」


 朝の鍛錬が終わると、三人でお風呂場に向かいます。この時間も、僕は大好きです。


「今日の朝ご飯はなんでしょうか。コーンスープがあると良いなあ。」


「アルドは甘いのが好きだなぁ。」


 兄上は「可愛いなぁ」と言いながら僕の頭をわしゃわしゃとちょっとだけ乱暴に撫でます。可愛いと言われたのは心外ですがわしゃわしゃは好きなので許します。


「でも、コーンスープは一昨日出たから今日は野菜スープじゃないかと思うけどな。」


「や、野菜スープ……」


 兄上がポツリと言った言葉に、僕は思わず落ち込んだ声を出してしまいました。……決して、決して野菜スープが嫌いなわけではありません。コーンスープが好きなだけです。


「ニンジンもちゃんと食べるんだぞ?」


「た、食べられます! 僕もう九歳なんですから!」


 そう言うと、兄上も父上も笑っておられました。……心外です。本当にちゃんと食べられるのに。美味しくはないですけど。

 そんなことを言っているうちに、お風呂場に到着しました。兄上と、よーいどんで服を脱ぎ始めて、どちらが早く洗い終えるか競争です。


「よしっ、僕の勝ち!!」


 両手を挙げて喜んでいましたが、その後父上に髪の毛を洗っていただきました。……自分でも洗ったんですが、速さを求めすぎていたのでしょうか。

 汗を流し終わったあと、兄上と水を掛け合って遊んでいるとドンドンドンとお風呂場のドアが叩かれました。


「いつまで入っているんですか! 先に朝ご飯食べちゃいますからね!」


 聞こえてきたのは、一つ年上のカンナ姉様(姉上ではなく姉様と呼ぶよう言われました)の声でした。


「なんだ? カンナも一緒に入りたいのか?」


 兄上はそう言いながら、僕に不意打ちで水をかけてきました。ずるい。


「ばっ、バカなこと言わないで! 全然、これっぽっちも、羨ましくなんてないんだから!!」


 カンナ姉様は大きい声で言い放つと、ドシドシと足音を立てながら出て行かれました。……羨ましいんですね。


「あのお転婆も、いつか淑女になるんですかねぇ。」


「時と場はわきまえる子だ。兄弟を前にすると、素が出てしまうんだろう。仲が良いのは良いことだ。」


「まあそうですね。」


 兄上は笑っていました。僕も、毎日楽しいのは兄弟みんな仲が良いからだと思うので、父上の言葉に同意です。


 さて、汗を流してサッパリした後は、お待ちかねの朝ご飯です!


「おはよう、アレン、アルド。今日も朝から頑張ったのね。」


「おはようございます。」


「おはようございます、母上!」


 部屋に入ると、母上がにこやかに迎えてくださいました。母上の横に座っているカンナ姉様は、まだ少し不機嫌です。

 父上が母上のおでこにキスをした後、母上の隣に座られました。兄上と僕も、それに続いて席に座ります。父上の前に兄上が、その隣には姉上が座っていて、僕はカンナ姉様の前の席が定位置です。みんなで食前の挨拶をして、待ちに待った朝ご飯の時間です。


「兄様、今日は惜しかったね。もしかして兄様が勝つかもしれないと思って見ていたの。」


「えっ、ルピナス見ていたのか?」


「うん、私の部屋から見えるんだもの。アルドも頑張っていたよね。お疲れさま。」


 十三歳の姉上は、いつもニコニコ話をしてくださいます。とっても優しいです。


「はい! ありがとうございます!」


「私も、今度見てみたいわ。頑張ってね、アレン、アルド。」


 母上がそう言ってくださったので、僕と兄上は声を揃えてはいと返事をしました。

 こんな風に、朝ごはんの時間は和やかに過ぎていったのですが、カンナ姉様の機嫌が直っていないのが少しだけ気掛かりです。


 午前中は、カンナ姉様と一緒に勉強の時間です。今日の授業は歴史です。先生はなんとお祖父様! お祖母様と仲良く隠居生活(と父上が言っていました)を送っておられたのですが、孫に会いに戻って来られて、そのまま僕たちの家庭教師をしてくださっています。


「カンナ! アルド! 会いたかったよーう!」


 お祖父様は、部屋に入ってくるなりカンナ姉様と僕をぎゅっと抱きしめてくださいます。


「お祖父様、苦しいわ!」


「カンナってばまたそんなこと言うんだからー。もっとぎゅってしてあげよう!」


「もう、お祖父様! 私苦しいって言っているのよ!」


 そう言いながらも、カンナ姉様はとても嬉しそうです。僕も大好きなお祖父様にぎゅっとしてもらうのは好きなので、おとなしくしています。それからしばらくぎゅうぎゅうと抱きしめてもらっていると、コンコンとノックの音がしました。そして、返事をする前にドアの開く音。誰が来たのかと思ったら――


「――父上。」


「やあグレン。仕事はどうしたの?」


 お祖父様が顔をあげて振り返ったので、僕もお祖父様の腕の中から、顔をあげました。そこにいたのは、執務室にいるはずの父上でした。


「子どもたちがきちんと勉強しているか、確認するのも父としての務めかと。」


「やだなあ、心配しなくても勉強はちゃんとするよ? 今ちょっと久々の再会を喜んでいてだね、」


「頻繁に会っておいてなにが久々の再会ですか。適当なことを言っていないで早く始めてください。」


「もう! そんなにカッカしてたら子どもたちから嫌われちゃうんだからね!」


「!?」


 お祖父様の言葉に父上は固まっておいででした。でも、お祖父様は父上を見向きもせず、勉強の準備を始めていきます。僕は椅子に座る前に、父上のところに行って、父上の手を握りました。


「父上。僕、父上大好きですよ? ねえ、カンナ姉様もそうですよね?」


「! 〜〜っあ、当たり前じゃない! 大好きに決まっているわ!」


「そ、そうか。」


「僕たち勉強頑張るので、父上もお仕事頑張ってください!」


「あ、ああ……ありがとう。」


 父上が喜んでくださったので、僕もとても嬉しかったです。よし、勉強頑張らなくちゃ!

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