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03.幸福な知らせ/おまけ③

「まあ、お義姉様本当ですの!?」


 ルナリアの大きな声が響いた直後、部屋に響いたのは赤ん坊の泣き声だった。


「あ、ああっ、私ったら思わず大声をあげてしまって…!」


 侍女が連れてきたのは、先日生まれた第一王子、アルライドだ。ルナリアは息子を抱くと、よしよしとあやした。


「びっくりしてしまったのね。」


 アルライドとルナリアを優しい目で見ながら、アイリスは笑った。


「先ほど寝付いたところなのに、私ったら油断しておりましたわ。」


 しばらくすると、アルライドは落ち着いたのか、泣き止んでくれた。


「……お義姉様も、数ヶ月したらこうしてご自分の子をお抱きになるのですね。」


 ルナリアはうつらうつらし始めた息子の頬を撫でた。それは、母の顔だった。


「そうね。まだ、あまり実感はわかないけれど……」


 アイリスは、愛おしげにお腹をひと撫ですると、顔を上げた。


「グレン様と一緒だと思うと、大丈夫だと思えるの。私もちゃんと、お母さんになることができるって。」


「ええ、きっとなれますわ。……おめでとうございます、お義姉様。」


「うん、ありがとう。」


 アイリスの笑顔は、とても美しかった。


「お義兄様は、何とおっしゃったのですか?」


「えーっと……」


 自分の子に嫉妬していたグレンを思い出したが、ルピナスはそういうことを言っているのではないと思い直し、アイリスは言葉を続けた。


「ありがとうって、言ってくださったわ。子ができて嬉しいって。」


「そうなのですか! 良かったですわ。きっとアル様も喜びます。」


 アイリスは、グレンの笑顔を見たことがないと、寂しそうに言っていたアルディーンを思い出した。生に執着することもなく、笑顔を見せなかったグレンが、子ができたことを嬉しいと言っているのだ。それを知ったアルディーンは、喜ぶに違いない。


「ええ、きっと。」


 グレンの笑顔を取り戻して見せると言ったことが、実現できて良かったとアイリスは思った。


「お義姉様、ありがとうございます。」


「え?」


 聞こえてきたのが意外な言葉だったので、アイリスは思わず目を丸くしていた。


「お義姉様のお陰で、お義兄様もアル様も心から笑顔になれたのですもの。お義姉様が嫁いできてくださって、本当に良かったです。」


「ルナリア……」


「私も、お義姉様と姉妹になれたこと、アル様に負けないくらい嬉しく思っておりますわ。」


「私だって、とっても頼れる、可愛い義妹がいてくれて良かったと思っているのよ。……ありがとう、ルナリア。」


 アイリスとルナリアは、顔を見合わせて笑った。


「お義姉様たちのお子と、この子も本当の兄弟のように仲良くなれたら良いのですけれど。」


「そうね。一緒に育てていきましょう。家族は、多い方がきっと楽しいもの。」


「そうですわね。ふふ、生まれてくるのが楽しみですわ。」


 それから、アイリスとルナリアはしばらく子どものことを話したり、夫のことを話したりと、楽しい時間を過ごしていた。

 コンコンと、ノックの音がしたのは、どれくらい時間が経ってからだっただろうか。気付けば、陽が傾いていた。


「アイリス。」


 王妃付きの侍女が連れてきたのは、グレンだった。


「えっ、グレン様! もしかして、もうお仕事が終わったのですか?」


「ああ。ギルバートに確認させたら、アイリスはまだ東の宮に帰っていないというから、迎えに来た。楽しそうに話していたのに、悪かったな。」


 後半は、アイリスだけでなく、ルナリアにも向けた言葉だった。グレンと目が合ったルナリアは、慌てて首を横にふる。


「いいえ、私こそ申し訳ありませんでした。お義姉様とお話するのが楽しくて、こんなに長い間引き止めてしまいましたわ。」


「そんな、ルナリアが謝ることないよ。私も楽しかったし、体調も問題ないもの。」


 アイリスは謝らないでと、ルナリアに言う。それでも申し訳なさそうにするルナリアを見て、グレンが口を開いた。


「妊娠も出産も経験したルナリアといるんだ、そんな心配はしていないから大丈夫だ。男の俺では支えてやれないことも出てくるだろう。お前がいてくれて、感謝している。」


 グレンの言葉を聞いて、ルナリアは安心したように、表情を和らげた。


「そう言っていただけて……心が軽くなりました。ありがとうございます、お義兄様。」


 そして、一呼吸おいて、ルナリアは笑顔を見せた。


「それから、言うのが遅くなってしまって申し訳ありません。……おめでとうございます、お義兄様。お二人のお子が、元気に生まれてくることをお祈りしておりますわ。」


「ああ……ありがとう。」


 穏やかな表情で、グレンは答えると、アイリスの方にゆっくりと視線を移した。帰ろうと言われているのだと察して、アイリスが立ち上がろうとすると、グレンは彼女に腕を貸す。一連の動作があまりにも自然で、ルナリアは思わずほうっと息を吐いた。


「お二人とも、きっと素敵なお父さんとお母さんになられますわ。」


 こんなに夫婦仲が良ければ、子どももさぞ嬉しいだろうと思う。自分とアルディーンとはまた違う仲の良さに、ルナリアは頰を緩めた。


「まだ実感はないが……アイリスと一緒なら、大丈夫だと思える。……俺もきっと、父になれると。」


「まあ!」


 グレンの言葉は、アイリスの言ったことと同じだった。それに気付いたルナリアは声をあげ、アイリスは頬を染めて微笑んだ。それから、二人は顔を見合わせて笑い合う。一方のグレンは、なにが起こったのか分からずきょとんとしていた。


「素敵ですわ、お義兄様!」


「うん? なにがだ?」


「とってもお似合いのご夫婦です、ということですわ。」


 ルナリアの言葉にグレンは首をかしげるが、彼女はそれ以上なにも言ってはくれなかった。助けを求めてアイリスを見るが、妻は嬉しそうな表情で見上げてくるだけだった。


「……アイリス?」


 教えてはくれないのかと、困った表情でアイリスを呼ぶと、彼女は笑った。


「私も、グレン様と一緒なら、ちゃんとお母さんになれるって思えます。ありがとうございます、グレン様。」


「アイリス……」


 グレンは、アイリスの額に口付けを落とした。そのまま、額と額をくっつける。


「感謝しているのは俺の方だ。……ありがとう、アイリス。」


 幸せそうな二人を見て、ルナリアはにっこり微笑んだ。


「次は是非、お義兄様もご一緒してください。……あ。アル様には内緒ですよ? きっと拗ねてしまわれますもの。」


「ああ、分かった。」


 グレンは困ったように笑いながら承諾した。ルナリアから妊婦との接し方を学んでおくのも、アイリスの助けになるだろう。アルディーンには仕事を恙無く終わらせてもらうため、ルナリアの言う通り黙っておくのが良い気がした。


「じゃあ、またね、ルナリア。今日はありがとう。」


「はい、お義姉様。また近いうちにお話ししましょう。」


 アイリスとルナリアは手を振り合い、本日の茶話会はお開きとなった。


 後日、ルナリアとアイリスとグレンと、三人で集まっていると、どこから嗅ぎ付けたのか、アルディーンがやってくることになるのはまた別のお話。

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