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03.幸福な知らせ/おまけ①

 コンコン、とドアをノックすると、すぐに中から返事が聞こえてきた。今日は、何事もなく入れそうだと思いながら、グレンはドアを開けた。


「ごきげんよう兄さん。」


 出迎えてくれたのは、弟のアルディーン。側近のユリウスも、その側で頭を下げていた。国王の執務室は、今日は平和らしい。


「兄さんが僕に用事ってどうしたの? なにかあった?」


「ああ。報告しておきたいことがあってな。」


「あ、じゃあ、座って兄さん。そっちで話を聞くよ。」


「わかった。」


 アルディーンに促されるまま、グレンはソファーに座った。


「それで、どうしたの?」


 アルディーンが話し始めると、タイミング良く運ばれた紅茶。アルディーンは、さも当然のようにそれを手に取った。相変わらず、紅茶を飲む姿も絵になる弟だと思いながら、グレンは口を開いた。


「さっき、アイリスから聞いたんだが。」


「うん。」


「……子が、できたようなんだ。」


「……。」


「……。」


 しばし固まるアルディーンと、紅茶を飲むグレン。しかし、静寂はそれほど長く続かなかった。


「えええええええっ?! ほんと? ほんとに!? 兄さんそれほんとなの!?」


 アルディーンの声が響いた直後。分厚い本が飛んできたと思うと、鈍い音がしてアルディーンの頭に命中した。

 それを見たグレンとギルバートは、顔を引きつらせた。国王の執務室は、今日も平和ではなかったらしい。


「おや、申し訳ありません。陛下の大きな声に驚いて、手が滑ってしまいました。」


 悪びれた様子もなく、しれっと言ってのけたのはもちろんユリウスである。


「大事ありませんか? 別にありませんよね?」


「う、うん、大丈夫。いやー、でも今日のは結構痛かったかなぁ。」


 アルディーンは頭をさすりつつも、笑顔だった。


「……ユリウス。本は大事に扱え。」


「ああ…、そうですね、申し訳ありません。」


「え、ちょっと兄さん! 僕の心配は?!」


 大丈夫だとは言ったが痛いものは痛い。アルディーンは頭をさすっていた手を止めて、抗議の声をあげた。


「ああ…、ユリウスの不興を買わないよう気を付けろ。」


「そうじゃないでしょう!!」


「ああ、悪かった悪かった。頭は大丈夫か? ……おい、こぶができているんじゃないのか? 医務室に行った方が……」


「んー? 平気平気、多分大丈夫〜。」


「多分とはまた、軽いなぁお前は……」


 グレンは呆れているが、兄に頭を撫でられて、アルディーンは満足そうだった。


「頭は大丈夫か、と言うと、違う意味のように聞こえますね。陛下相手ですから余計に。」


「ゆ、ユリウスさん、それは思っても言っちゃいけませんよ…!」


 側で見ている従者二人の会話は聞こえなかったことにした。


「それで、先ほどの話だが。」


「あ、そうだったね。ごめんちょっと驚きと嬉しさのあまり思わず叫んじゃって言いそびれてた。おめでとう、兄さん。」


「ああ、ありがとう。」


 グレンの柔らかい笑みに、アルディーンも自然と頬が緩んだ。グレンがこんなに幸せそうな笑顔を浮かべるようになるとは、数年前には考えられなかったことだ。


「出産に向けていろいろと準備していかないとね。」


「ああ。」


「僕も協力するから、任せて!」


「よろしく頼む。」


 子はいらないと言っていたグレンがこうして父親になる決意を固めていることが、アルディーンは嬉しかった。


「陛下の第一子もこの間無事お生まれになったところですし、おめでたいことが続きますね。」


 先ほどアルディーンに投げつけた本を回収し、本棚に戻しながらユリウスが言った。


「ああ、そうだな。」


 ルナリアが生んだのは男の子だった。ルナリアに似た女の子の誕生を心待ちにしていたアルディーンだったが、可愛いことに変わりない。その溺愛っぷりはもちろん尋常ではない。


「殿下はくれぐれも陛下のようにならないようお願いしますね。」


「ちょっとユリウス、それどういう意味ー!?」


「そのままの意味ですが、なにか?」


 にっこり、ユリウスは笑った。


「なんでもないです……。」


 しゅんとしてしまったアルディーンを見て、グレンは思わず笑みをこぼした。


「ちょっと兄さん、なに笑ってるの!」


「いいや、なんでもない。」


「なんでもなくないでしょう!!」


「陛下、うるさいです。」


 きっと、生まれてくる子はここにいる皆から暖かく迎えられるのだろう。その日がとても、待ち遠しく思えた。

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