第8話 魔の海域 (その1)
燦々と降り注ぐ太陽が海面に反射して、キラキラと輝いている。ゆっくりと押し寄せる波が船体を心地よく揺らす。潮の香りと海鳥の鳴き声が、ここが海の上であることをさらに強調する。
(仕事でなければ最高だよな。)
フレデリックは周囲に広がる水平線を見つめながら思った。先程から容赦なく照り付ける太陽のお蔭で、服の中が汗でべとついている。そう、フレデリック達は今、海の上に来ていた。もちろん依頼である。
古戦場跡の死霊を祓った功績は、フレデリックの名声を高めることに少なからず寄与した。もっともゴーストバスターとしての名声だが……。それからというもの亡霊やら死霊やらの依頼が引っ切り無しであった。今回はその中の一つ、魔の海域に関する依頼である。
フレデリック達が拠点としている町グレナードから見て西にある港町トルン。昔から漁業が盛んな町で、様々な魚介類を獲って生計を立てていた。活気あふれる町であったが、少し前から漁獲高が落ち込むようになってきた。トルン周辺の漁場は二種類の海流が交わる潮目になっている。その影響で魚がたくさん獲れていたのだが、最近潮の流れがおかしく、思うように漁獲高が上がらなくなってしまった。また以前は滅多になかった沈没事故まで頻繁に起きるようになってしまい、町に打撃を与えている。町の人間も怯えて船が出せないと言うのだ。海神様の怒りだとか、その昔、近海で猛威を振るった海賊の亡霊の祟りだとか、色んな噂が飛び交っていた。
当然このままにしておく訳にはいかないトルンの町の上層部は、金を出し合って依頼を出すことになった。そこで白羽の矢が立ったのがフレデリックであった、というわけだ。
フレデリックは目を船上に向けた。船上ではカルナが骨付き肉を焼いている。直火である。
「船の上で火を使うなよ……カルナ。無理言って出してもらったんだから。」
「私は、今、肉が、食いたいのだ!」
カルナは涎を垂らしながら答える。だらしないこと、この上ない。ココはココで、肉が焼けていく様子を熱心に見つめている。こうして見ると普通の女の子だ。
「それにしてもココの姿が町の人に見えてなくて良かったよ。もし見えていたらパニックになっていたかも。」
「まあ非常に弱い霊だからな。お前に見えているのが奇跡みたいなものだ。はぐ。」
カルナは焼けた肉を頬張る。すごい幸せそうだ。
「ココはうみをはじめて見ました。すごいです!」
ココはふわふわ浮きながらはしゃぐ。すごい嬉しそうだ。
「まあ楽しむのはいいけど……依頼も忘れないようにね。」
カルナの感覚を頼りに、フレデリック達はある場所を目指していた。その昔、海神様を祭ったとされる海上の祠だ。トルンの町から船で半日ほど行った所にある。
「子供の頃は今ぐらいの季節になると、町の人間は船を出して祠までお参りに行ったもんです。たくさん魚が獲れますように、安全に漁ができますように、ってね。でもその風習も廃れてしまって……今知っている人間もどれだけいるか……。」
船を出してくれた船長は、そう言っていた。
「忘れ去られた祠か……。」
どこか不気味な響きがする。
(自慢じゃないけど、僕は運が悪いからなぁ……)
フレデリックは今回もただでは済まないと感じていた。