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第6話 死霊の噂 (その2)

「うわ!?」


 フレデリックは反射的に剣を抜いて受けた。しかし力任せに振り抜かれ、壁に叩きつけられてしまった。ゴンという鈍い音が部屋に響く。


「な、なんて力だ……。」


 フレデリックはよろよろと立ち上がりながら口にする。鎧は動きを止めず、フレデリックの方にガチャガチャと音を立てながら近づいて来る。そして再び剣を上段に構える。


「ちっ!!」


 カルナは面倒くさそうに舌打ちをして、足元にあった石を鎧目がけて投げる。カルナは怪力である。鎧の脇に当たった石は、鎧を大きくへこませる。その衝撃で鎧はバラバラに崩れた。やはり中に人はいない。フレデリックはホッとした顔でカルナに礼を言った。


「ごめん。助かったよカルナ。」

「礼は後でいい。逃げるぞ。」


 カルナは鎧から目を離さず口早に言う。フレデリックが鎧の方を確認すると、バラバラになったはずの鎧が再び組み合わさり、人の形を成していた。へこんだ部分も、まるで霧が集まるように濃度が濃くなり修復されてしまった。二人は脇目も振らず、砦の入り口目がけて走り出した。


「何で……。」

「鎧や剣は実体化して見えるが実際は霊魂なのだ。霊魂にダメージを与えなければ意味がない。」

「今の僕達じゃ……無理かな?」

「無理だな。こんなことなら装備品一式もまとめてパクってこれば良かった。」


 苦い顔をしながらカルナは言う。仮にそれが出来たとしてもフロリアに回収されていただろう。そんなことを思いながら走るフレデリックの耳に声が聞こえた。


≪許さ……戦場……全て………死ん…………めのため≫


 二人は砦の外に飛び出した。鎧の死霊が追ってくる気配は無い。フレデリックは改めて胸を撫で下ろす。安堵するフレデリックをよそにカルナは首を傾げていた。


「どうしたのカルナ?」

「やはり、おかしい……。」

「おかしいって、何が?あれが間違いなく鎧の死霊だと思うけど……。」

「それがおかしいのだ。あれには死霊化するほどの怨念は感じなかった。」

「うーん。じゃあ誰か別の人の仕業とか?」

「部屋にあった魔方陣が気になるが……戻って調べる訳にもいかんしな。どこぞのアホが触るから……。」

「ご、ごめん。」


 二人の間に少し気まずい空気が流れる。カルナは大きく溜息をついた。


「それで?この後どうするのだ?もし解決するならば、あの死霊の怨念、その源を断つしかない。」

「だとしたら、この周辺を探索してみたいんだけど……。」

「そうなるか……。やれやれ力さえ失っていなければ、問答無用で成仏させているものを……。」


 こうして二人は辺りを探索し情報収集をすることにした。うまくいけば何か原因がわかるかもしれない。二人が探索を続けていると、古戦場跡に隣接する小さな村の後を見つけた。人口は百人にも満たなかったであろう。相変わらずほとんどの家は戦災の影響か残っていなかったが、村の奥にかなり古ぼけた屋敷が一軒だけ残っていた。おそらく村長の家であろう。よく残っていたものである。


「この村も百年ぐらい前に滅びてしまったのかな?」

「というよりも村人に捨てられた、と言うべきだな。特に大量の霊がいるわけでもない。」

「一応、村の中を調べてみようよ。」


 調べるべき場所はそんなに無かった。古い家の残骸は調べようが無いし、他は原っぱのようなもので大昔の墓石がいくつかあるくらいだった。調べ甲斐がありそうなのは奥の古い屋敷くらいか。二人が屋敷の扉に触れると、扉は年代を感じさせる音を立てて開いた。特に鍵はかかっていなかったようだ。小さな村とはいえ、それなりに大きい屋敷だ。一通りの部屋は揃っていそうだ。


 その中の一室。書斎のような部屋があった。中は大量の本で埋め尽くされている。本を調べながらフレデリックは言う。


「この本は……ほとんど医学書だ。」

「こんなに大量にか……。よほど難病の者でもいたのかもな。」

「こっちには机もあるね。ん?駄目だ、引き出しに鍵がかかっている。」

「鍵など……」


 カルナは力いっぱい引っ張った。バキっという音を立てて引き出しは開いた。


「ちょっと乱暴すぎるよ、カルナ。」

「持ち主はもう死んでいるだろう。問題は無い。」

「そういう問題じゃないと思うんだけど……。……これは、日記帳?」



 〇月×日 晴天

  待望の赤子が生まれた。女の子だった。ココと名付ける。妻も喜んでいる。元気に育ってくれるといいが。


 △月□日 曇り

  ココは無事に育っている。妻と同じく体が弱く病気がちだ。大病に罹らずに済むと良いが……。心配だ。


 ◇月△日 雨

  妻が死んだ。流行病だった。不治の病だった。私は泣いた。だが娘のためにも私がしっかりしなければ。



 その後も日記は続いている。どうやら病気がちの娘は何年間かは大病にも罹ることなく育っていったようだ。日記は最後の方へと差し掛かる。



 ▲月×日 曇り

  ココが病気に罹った。妻が亡くなったのと同じ病だ。だが医学の進歩のお蔭で、薬があれば助かるようになった。妻の死も無駄ではなかった。幸い金ならある。無事治ってくれるといいが……。


 ●月◇日 雨

  ココの病気はまだ治らない。薬が尽きかけていたので、町の薬屋に依頼を出しておいた。村の近くで戦が始まった。国に食料を提供することで村の損害は防げそうだ。


 ◎月▽日 雪

  ココの病気はまだ治らない。薬が尽きた。頼んでおいたのに。村の近くが戦場になったせいで薬が届かない。召使いを取りに行かせたが戻らない。やめてくれ!そんなところで戦わないでくれ。


 ■月〇日 雪

  ココの病気は悪化する一方だ。苦しそうだ。薬は無い。医学書を調べてはいるが、私にはどうしてやることもできない。相変わらず戦は続いている。収まる気配はない。眠れない。どんどん村から人が離れていく。私は動かない。動くわけにはいかない。神よ!私はどうしたらいい。娘を救ってくれ。


 ▼月×日 大雪

  ココが死んだ。私は結局何もできなかった。神などいなかった。何故だ。何故、何の罪もない娘が死ななければならなかったのだ!何故、こんなところで戦をしているのだ!私は全てを恨んだ。だが無力な私には何もできない。村人は誰もいなくなった。もういい。もうどうでもいいのだ。私には生きている意味が無い。だが許さない。戦場の人間も全て……。お前達のせいで娘は死んだのだ。私に力があれば復讐できるのに。



 日記はこれで終わりだった。フレデリックはそっと日記帳を引き出しに戻した。同時に砦から逃げる時に聞いた声を思い出した。


「戦争の犠牲者か……。あの鎧の死霊も……。娘を助けたくて……。」

「親心というやつか?私にはよくわからんがな。」


 感傷に浸っているフレデリックをよそに、カルナは淡々としている。


(そういえば神に親なんているんだろうか?)


 そう思いながらも、フレデリックは自身の親のことも思い出していた。いつかは、きちんと話をしなければならないと。


 探索を再開した二人は屋敷の二階にある最後の部屋の前まで来ていた。


「これで最後だね。何か解決方法が見つかるといいけど。」


 フレデリックが部屋のドアを開けると、突然椅子が飛んできた。


「うわ!?」


 思わず飛び退くフレデリック。カルナは飛んできた椅子を平然と受け止めた。


「一々面白いリアクションをとるな、お前は。」

「いや、普通はびっくりするでしょ。」


 二人の会話に割って入るように、部屋の中から声がする。


「だれ!?」


 二人が部屋の中を見ると、声の主がいた。部屋の隅のベッドの上に。ゆらゆらと揺れながら……。

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