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第5話 死霊の噂 (その1)

 フレデリックが拠点にしている町から北に馬車で二時間ほど行ったところに古戦場跡がある。今からおよそ百年ほど前に大きな戦いがあったところだ。その辺りは土地も豊かではないし、交通の便が悪いこともあって、長らく放置されてきた。だから砦であるとか、武器や装備の残骸等は当時のまま残っている。ところがここ最近の急な人口の増加を受けて、新たに開拓する土地が必要になった。古戦場跡もその候補の一つであった。当然、調査隊が古戦場跡に行って調査をすることになったのだが……。


「出るらしいんだ……。鎧を着たお化けが……。」


 フレデリックはテーブルの向かい側にいるカルナの方に顔を近づけて静かに言った。カルナは、だから何だ、と言いたげな顔をしている。フレデリックは上体を起こして頭を掻く。


「あれ?怖くない?」

「私は元ヴァルキリーだぞ。そんなもの腐るほど見てきた。姉様の方が何万倍も怖いわ!」

「そりゃそうか。まあ、でも普通の人には怖かったみたいで依頼が出てたよ。」

「その死霊を討伐しろ、と?」

「うーん、具体的にどうしろ、とまでは書かれてないけど……。」

「同じことだ。既に死んでいる人間を救うということは、呪縛から解き放ち成仏させるということだからな。」


 流石に元ヴァルキリーの言うことには重みがある。死んでしまった人間を生き返すことなんて誰にもできないのだ。それをすれば世の理が崩れる。この世とあの世の境がなくなってしまう。


「それで、お前はどうしたいのだ?」

「依頼を受けてみようかなって。カルナもいれば、何かわかるかもしれないし。」

「私はもうほとんどの能力を失っている。」


 カルナは自分の髪の毛をいじりながら言った。岩を持ち上げる怪力は、ほとんどの中には含まれていなかったようだ。


「まったく!姉様との約束さえ無ければ、放っておいたものを……。」

「とりあえず行ってみようよ。」


 こうして古戦場跡の亡霊調査の依頼を受けた二人は、馬車を使って現地まで行くことにした。その日はいい天気であった。いや少なくとも町を出るときはそうだった。しかし古戦場跡に近づくにつれて段々と曇りがちになり、たどり着いた時には今にも雨が降り出しそうな天気になっていた。吹き抜ける風も冷たく不安にさせる。


「ここはいつ来てもこんな天気なんですよ。気味が悪いでしょう?」


 馬車を運転してきた御者が言う。腕を組んで不安そうな顔をしている。カルナは古戦場跡を見てボソッと呟く。


「大量にいるな。」

「感じるのか?」

「どうやら感知する力は残っているようだ。戦場特有の怨念が渦巻いている。」


 御者の顔からは完全に血の気が引いている。今にも帰りたさそうだ。そんな御者に頑張って待機しておくよう言い含めてから、二人は古戦場跡の中へと足を踏み入れていった。風が吹き抜ける音がまるで亡者の悲鳴のように聞こえた。激しく拒絶する悲鳴に……。


 中には崩れかかった砦が多数存在していた。あちらこちらに戦いの跡が消えずに残っている。流石に百年前のことなので、人骨のほとんどは風化してなくなってしまったようだが、砦の中にはまだ原型を留めた骨がたくさん転がっている。そんな場所を二人は探索していった。


「百年前のことだけど、ここの事、カルナは知らないのかい?」

「今から百年前なんて、どこも戦争ばかりだったぞ。おかげで仕事は楽だったがな。」


 カルナは転がっている骨を蹴飛ばしながら言う。カルナの言う通り、百年前はどの国も領土を広げるために侵略戦争ばかりしていた。行われた戦の数も、死んだ人間の数も計り知れない。ようやく落ち着いたのは、三十年ほど前のことである。皮肉なことに疫病がはやって、どの国も戦争を止めざるを得なかった。


「まだ怨念を感じるかい?」

「感じることは感じるが……。」


 カルナは辺りをキョロキョロと見回し、首を傾げる。


「この程度の怨念では死霊化しないと思うんだが……。」

「そういうものなの?怨念があったら皆、死霊になりそうだけど。」

「そんなことになったら、この世は死んだ人間とほぼ同じだけ死霊に溢れているぞ。」


 言われてみれば納得である。人間誰しもいつかは死ぬ。死ぬ時に全く何も恨まずに死ねる人間がどれ程いるだろうか。死霊化する怨念というのは、その思いが相当強くなければならない。


 カルナ達が探索を続けているとまだ新しい死体を発見した。古戦場跡でも、とりわけ大きい砦の中である。百年前の砦にしては、しっかりと原型を留めている。死体は盗賊風の男で、肩から腰にかけて一撃で袈裟に斬られていた。


「これは例の死霊の仕業かな?」


 フレデリックが尋ねると、カルナは死体の切口を調べながら言った。


「切口から霊力を感じる。おそらく件の死霊だろう。おそらく周辺にいるな。」

「注意して進もう。」


 二人は慎重に探索を進めることにした。砦の中は広い。おそらく長期間使える拠点として築かれた物だろう。倉庫から厨房、怪我を治療する手当室、兵士の詰め所まで備えていた。部屋を一つずつ丁寧に調べていく。探索の手は、とうとう二階部分の最奥にまで及んだ。その部屋には、妙な空間が広がっていた。部屋の地面には魔方陣のようなものが描かれており、その上に大きな剣と黒い鎧が一式放置されている。随分と高価そうな鎧である。二人が部屋の中に入っても、その状態から変化は無い。


「なんだろう?動くかと思ったけど違うのかな?」

「馬鹿者!不用意に触るな!」

「え!?」


 カルナの言葉は間に合わなかった。フレデリックは調べるために鎧に触ってしまっていた。その瞬間、地面の魔法陣から妖しい光が放たれた。その光が収まると、フレデリックの目の前には先程の鎧が剣を上段に構えて立っていた。まるで中に人が入っているかのようである。


 そしてフレデリック目がけて剣が振り下ろされた。

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