星と嗚咽
誕生日、ほしいものは、なに、と聞いたとき、円は薄らと笑った。とても好きな人がいたんです、と口にして。手に入らない、大切なもので、それを愛するために自分は生まれてきたんだろうなって思うくらい、強烈で、けど、手は要らないもの。
円の好きな人は育ての父だと千真は聞いた。
自分たちのためにいろんなものを犠牲にする父を、どうして、好きにならずにいられようか。
人は、自分のために無償で差し出してくれる相手を、好きにならずにいられるはずがない。
ああ、負けた。
千真はそう思った。円の恋人になって、彼の名を呼ぶ特権を手に入れたけれども、その無償の愛を自分はどれだけ差し出せるだろうか。きっと円がはじめて好きになった父と同じくらいは、無理だと咄嗟に思ってしまった。
ときどき、円は意地悪になる。
「じゃあ、なにもいらないの?」
「そうですね。欲しいものといわれたら」
深夜。
二人で手をとって、薄汚れた空気の漂う、どうしようもない街を歩く。散歩は健康にいいと言って、いろんな人がしている。
円と千真の場合は、これがささやかなデート。
仕事ですれ違う毎日で、けれど帰りの時間。
七時半の電車。これだけは二人とも同じだから、駅で待ち合わせをして、二人で歩く。
その日あった一日のことを話して、大変だったね。苦しかったね、と口にする。
子どもから大人になって、一緒に暮らし始めて、いろんなすれ違いから心が擦り切れて作った散歩。
「……ちまさん」
「なに」
「同じように愛してほしいとは思いません。私はもう大人ですから、守られるだけの子どもではないんですよ」
「……かすが」
「だから、欲しいものといわれたらないんです。だって、私にはあなたがいるから、それが欲しいものだったから」
泣いて、しまいそうになる言葉をさらりと告げられる。
うれしい。
「私がほしかったのは、きっと愛せる人、私の愛を受け止めてくれる人。それだけなんです。だから、あなたは、…私にとって、星のようなものなんです」
「俺が?」
空を見上げても、星はなくて
「そう、手にいれたくて、たまらなかった。手を伸ばしたら届きそうで、けど届かない。…愛する人なんて簡単に作れないでしょ?」
苦笑いを浮かべて
手を伸ばされる。
掴まれて、握られる。
「ふふ」
「……なら、かわりに料理する。飯作る。ケーキと、飾りと」
「はい」
「お祝い、する」
「はい。ちまさん。楽しみにしてます」
なんでもないこと
知らないこと
自分もされたことがないこと
憧れていた
自分たちは子どもではないから、もう。そんなもの、しなくたって、そう思うけど
その憧れをひとつ、ひとつ、やっていけるのがいまなんだと、遠く、掠れた星を見ながら理解した




