プロローグ
4月。
春のうららかな陽気に―――っていうんだったらいいんだけど、今年の1年は可哀想だ。大雨。せっかくの新しい制服も濡れてしまう。靴だって新しい奴が多いのに。靴下とかヤバい。
めんどくさいな…と思って自分の靴下を見ると。…穴が空いている。
ついてないな、と思いつつ、上履きのかかとを踏みながら、俺は2階にある音楽室へと向かった。
階段を上ると、「おはようございます」、と、俺に挨拶してくる下級生。「おう」って返して、音楽室に入る。
「おはよう、太一!」
俺に挨拶してきたのは、肩まであるストレートの髪がきれいな…。
「あれ、お前髪切った?」
「いえーす! 私、安斎帆奈は、新しく1年生を迎えるに上がって、髪を短くしました!」
佐倉高校吹奏楽部部長、安斎帆奈。肩まであったストレートの髪はどこかへ消えてしまった。Oh,no!
「というか、そうじゃなく。遅刻なの! 早く楽器準備して体育館来て」
「はいはい、了解です部長さまー」
「ほんと、今の3年の男子は…。久保田も遅刻だし」
仁科君とか純一郎とか見習えっての、と小言をこぼしながら、光るトロンボーンを持って帆奈は階段を下りて行った。
おばさんくさいな。本当に中3かよ。
部室に行くと、同じ遅刻組の涼がいた。
「涼ー」
俺が抱きつこうとすると、涼はそれをするっとかわした。
「朝からキモイ、やめろ」
手に持ったバリトンサックスを大事そうに抱えながら、涼が言った。
「そう言うのは安斎とやってろよ。ハグでもキスでもさ。あーあーきもいきもい、リア充とかマジ爆発しろ」
「っるせぇな」
それをここに持ち込むなっていう…。ハグもキスもしたことないし。
「いいんだよ、俺には大事なバリトンサックスがいるんだ。マジ愛してる。大好き。一生一緒だーーー!」
「お前っていたい奴だな。いや知ってたけど…。自分で地雷踏んでんじゃねぇよ」
「リア充。リア充くそ太一」
「涼だって、好きな人いるんだろ? 告ればいいのに」
「……。うるせ、ほっとけ!」
始めの…、なんなんだよ、気になる。
「早くいかないとマジ遅れる。ってか遅れてる。置いてっていい?置いてくからね? 行くよさよなら」
「待って!」
俺は急いでテナーサックスを組み立てて、どうにか涼に追いついた。
「今年の1年、どんな奴入ってくるかな」
「知らね」
いつもどおりの返事。さっきのは本当に何だったんだろう。
「去年もこんな話してたよな」
「そうだな」
「去年は確か、…1年に可愛い子入ってきてくれるかな、とかいってたっけ」
「今の聞かれたらお前安斎にブッ飛ばされんな」
涼を睨む。
「ごめんごめん。……けど結局、お前は同じ学年の奴と付き合ったよな、って話」
「俺だって、まさかだよ。でも1年と付き合うのもまさかだけどな」
「灯台もと暗し、ってやつだな」
なにそれ、ちょっとおじさん臭いー。中3って、急に年をとる生き物なんだろうか。
「とりあえず、今日の入学式の演奏でさりげなく目立って、新入部員ゲットしちゃおうぜ」
「おぅ」
俺と涼はお互いを見て笑った。
今年の1年と俺たちの1つ下の後輩が、ちょっとした恋愛劇を繰り広げてくれたら面白いのに、と思いつつ。
読んでくれてありがとうございます!
まだまだ未熟ですが、ぜひ続きも読んでもらえたら、と思います。