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ロミオの親友?

 クビ。クビというのは人間、いや動物あるいは生物全般に使うこともある。頭部の下のか細く弱い部位、または頭部そのもの。足首や手首のように、血管が集まっていて細いところも言う。しかし、しかしである。ジュリエットに言い渡された『クビ』というのは、もちろんそのクビじゃない。


「クビ……クビってあれですわね? あの、使用人なんかが不始末をしでかして屋敷から追い出されたりする……」

「というよりそのものだ」


 やっぱりそれだった。ジュリエットは、新鮮な驚きを感じていた。今までは、クビを言い渡す側の人間だったからだ。しかしそれも束の間、ジュリエットに絶望感が襲った。

 クビになったら、追い出されたら、ロミオ様のおそばにいられませんわ!

 ガクガクと震えているジュリエットに近づき、ロザラインは微笑んだ。


「大丈夫よジュリエット。考えてごらんなさい。貴女は使用人じゃなくって、お友達だわ。クビなんて、ないんだから」


 ロミオには聞こえないように囁いたロザラインは、もはや天使というより女神に近かった。歳は下のはずなのに、ジュリエットはロザラインを拝まずにはいられない心境になっていた。


「……人を死んだみたいに拝むの、やめてくださる?」


 その時だった。けたたましく鳴り響くドアのベル。ジュリエットは耳をふさいだ。


「一体誰ですの? まるで限度を知りませんわ!」


 かつ、かつ、かつ、と確かな足音。扉が開き、現れたのは背の高い男だった。短い髪に、切れ長の、ナイフのようにひかる瞳。しかしジュリエットの脳裡のうりに焼きついたのは、その驚くほど機械的な表情だった。無表情なのだ。無表情に驚くなんて、驚きだ。


「よおロミオくん。元気かい?」


 ジュリエットは拍子抜けした。男の声が、なんだかすっとんきょうで明るい色を帯びていたからだ。しかし依然として無表情である。あまりにちぐはぐだ。


「マキューシオ……」


 ロミオが呆然と呟いた。それから眉をひそめ、男とジュリエットを見つめた。


「どっちから片付ければいいのかわからなくなっちゃったじゃないか!」

 片付ける、とは物騒な響きだな、と男は呑気に言った。無表情のままで。


「こちら……どちら様ですの?」


 ジュリエットが尋ねると、男は上品に帽子を取って軽くお辞儀をした。

「俺はロミオくんの親友で、マキューシオという」

「死んでしまえ」

 ロミオが毒づく。

「ふむ。時にロミオ、この…乙女は?」


 マキューシオはジュリエットを見て首をかしげた。ジュリエットはふふふ、と微笑んで上目遣いでマキューシオに答えた。


「乙女だなんて、マキューシオ様はロマンチストですのね。わたくしは……」

「君、良い子を産みそうなからだをしているな」


 パァン───。

 気づけばジュリエットはマキューシオに平手を食らわせていた。わなわなと震えるジュリエットを尻目に、マキューシオはふむ、と頷いた。意味がわからない。


「……お父様にさえ、殴らされたことないのに……」

「大抵の家は父親に殴らされることなんてないと思うわ」

 ロザラインは突っ込む。

「それで? この逆アムロちゃんは一体誰かな?」

 マキューシオの言葉に、ジュリエットは胸を張った。


「私、ロミオ様のお友達ですわ」

「お友達をクビになったジュリエットさんだ」


 すかさずロミオが言う。マキューシオはほおほお、と何度か頷いた。と思いきや、首を振り始めた。


「しかし、しかしだ、ロミオ。友にクビという制度はない。お前は俺をクビには出来んし、俺もお前をクビには出来ん。わかるだろ、ロミオ?」

 ロミオはきょとんとした。


「そうだったかもしれない」

「……お前」


 マキューシオはなにか言いかけ、止めた。なにを言おうと思っていたのか、その無表情からは測れなかった。


「時にロミオ、聞きたいのだが、そのジュリエットというお嬢さんは、もしかしてキャ……ぐっ……」


 マキューシオが腹を押さえた。ロザラインが脇腹に肘を入れたからである。


「キャットフードを食べたいとおっしゃってますわ。もうっ、マキューシオさんったらお茶目ですわね。ちょっとこちらにいらして? ジュリエットも」


 呆気にとられているロミオを残し、ロザラインはマキューシオを無理矢理引っ張って歩いた。ジュリエットもそれについていく。


「一体、どういうことなのかな、ロザラインちゃん」

「どういうこともなにも、こうなったのよ、仕方がないわ」

「仕方がない? 俺には楽しんでるように見えるね」

「それは貴方の目が濁りきってるからだわ」


 年にあわない辛辣な言葉を言い放つロザラインに肩をすくめ、マキューシオはジュリエットに向き直った。


「どうしてお嬢さんはこの屋敷にいる? ここがどこだか、知らない訳じゃないだろうね」

「……ええ」

「一体……どうしてこうなったんだ。ロザライン、君ならわかるはずだろう」

「でもっ」

「ロミオだって、いつか必ず気づく。その時、どうするつもりなんだ?」

 ロザラインは不敵に笑った。


「あたしはお兄様が好きだったわ。貴方もそうじゃない、マキューシオさん?」


 マキューシオは頭をかいた。俺はあいつも好きだけどねぇ、と呟く。


「可愛い顔してるのに、油断のならない子だね、君は」

「失礼な人ね」

「そうかい? どうもね、可愛い子のことはいじめたくてね」

「貴方こそ、油断のならない人だわ。ジュリエット、気をつけてね、この人いつもこんなだから」

「よろしく頼むよ、ジュリエット」


 二人してちぐはぐなことを言う。ジュリエットが曖昧に頷くと、二人は満足そうな目をした。


「まあ、困ったことがあったらいつでも言ってくれ、麗しの姫」

「麗しの姫……って、私のことですの?」

「他に誰がいる?」


 ジュリエットはロザラインを見た。ロザラインは少しだけふてくされたような顔をしていた。


「ロザラインは、愛すべき俺たちの妹だ」

「貴方の妹になった覚えはありませんけどね」

 ロザラインの冷ややかな視線を交わし、マキューシオはジュリエットに首をかしげた。


「それで、困ったことはないかい?」

 ジュリエットは覚悟を決め、言った。

「料理が…料理が壊滅的ですの!」

 ロミオ様がなかなか出てこないことへのストレスが計り知れない(笑)

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