メイドor妻
重々しい扉を開ける。うちのほうが豪華な扉だわ、なんて失礼なことを考えていると、奥から声が聞こえた。
「おかえりなさいっ」
「ただいまロザライン! 帰ってきてたんだね!」
出迎えたのは、息をのむほど愛らしい少女だった。ジュリエットよりも少し小さいくらいなのに、その少女はだれからも愛される雰囲気があった。ジュリエットの完成された美しさとは違い、未完成の魅力がある。ジュリエットは感嘆のため息を吐いた。
「ロミオ様がロリータコンプレックスでも仕方がありませんわ。とても可愛らしいのね、ロザライン、貴女って」
「おいおい今グサッと来たぜ」
ロザラインはふふふ、と笑ってロミオに向き直った。
「昨夜はご心配おかけしました。でも苺を食べた罪は消えないんだからねっ」
ロミオはたじろいで、少しうつむいた。それからロザラインはジュリエットを見て礼をした。
「ご機嫌麗しゅうお姉さま」
「お、おね……?」
「おにぃさまとお付き合いしているんでしょ? 羨ましい限りですわ、素敵な方よ、おにぃさまは」
よくわからないけれど、なんだかお互いに誤解があるようだ。
「違うよロザライン。この人は今日からメイドとして働くことになった、ええっと……なんだっけ?」
「ジュリエットですけど……え? メイド?」
「ジュリエットだ」
ロザラインは口許に手をあてて目を見開いた。
「まあ。てっきり恋人かと。あんまり綺麗だったから。よろしくね、ジュリエット」
「え……でも私……」
メイドではないというか、なんというか。
いや、そんなことより大切なことがある。
「おにぃさまってどういう意味ですの!?」
二人が驚いたようにジュリエットを見る。それから困ったように顔を見合わせた。
「おにぃさまはおにぃさまだわ」
「ロザラインは妹だ」
ジュリエットは一瞬ポカンとして、それから密かにガッツポーズをした。はしたないその行動も、恋する乙女がやれば微笑ましい。
なんだ、二人は兄妹でしたの。それなら私にもチャンスがありましてよ!
「で、メイドさーん」
「はいぃ……」
愛しい人の声に、思わず返事をしてしまってからジュリエットはハッとした。
「いいえ、私、メイドではありませんの。家事はやりますわ。でも、メイドはロミオ様とちゃんと話すこともできません。どうかしら、私を妻にしたら……」
「却下で」
少し食いぎみでロミオは言った。これでこそロミオ様、とジュリエットは頬を赤らめた。
「えー? あたしはいいと思うんだけど……」
ロザラインが微笑む。その姿は本当に輝いていて、天使が降臨したようにジュリエットには見えた。
「なんにもよくないよロザライン。見てみろ、耳まで赤くなって、さっきからモゾモゾ……芋虫みたいな動きをしてるぞ」
い、芋虫……
これにはさすがにジュリエットもショックを受けた。
「あらおにぃさま、淑女らしいと言うのよこういうのは」
ロザラインが言うと、ロミオは吐きそうな顔をした。それを憐れむような瞳で見てから、ロザラインはジュリエットに告げた。
「じゃあ、お友だちから始めてはどう? 貴女は家事のお手伝いをする。花嫁修行としてね。そしておにぃさまとはお友だちから始める。貴女が頑張れば、花嫁修業も無駄にならないわ」
ジュリエットはしばらく考えてうなずいた。ロミオ様にお側にいられるのなら、と。対してロミオは不服らしい。眉をひそめている。
「ロザライン、何を考えてるんだい?」
ロザラインはまた微笑んだ。
「いいえ、何も考えてませんわ、お兄様」
そんな二人の間で、ジュリエットはこめかみを押さえていた。一つだけ、ジュリエットには大きな懸念があったのだ。
一体いつ言い出せばいいのかしら? 料理が壊滅的だってこと……!
小悪魔系妹ロザラインちゃん登場。