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アナザースカイと黒い太陽  作者: ALK
アポロン襲来編
7/12

現れた王冠殺し

―一体何をしたのかしら、アポロン


レイナは壁越しにマリアンヌとアポロンJの戦闘を見ていた。


あの瞬間、マリアンヌがアポロンJにナイフを刺したようにレイナにも見えた。


しかし実際はアポロンJには傷ひとつ無かった。


レイナは携帯電話で時間を確認する。


―そろそろね。



レイナがそんなことを考えていると、ホテルのエントランスの入口の開く音が聞こえる。


―さあ、せいぜい楽しませてね、アポロンJ





エントランスの入口が開く音を聞き、アポロンJはそちらに目を向ける。


「どう言うことだ、これは」


そこから現れたのは、真っ赤な髪を逆立てたアシッド・ボーイだった。

その彼の表情は、最早怒りを通り越して無表情だ。


「アポロン、手を出すなと言ったはずだが?」


「ああ、そうだな。だがアシッド・ボーイ、お前に従属する気はないと言ったはずだが?」


「なるほど。まあいい」


アシッド・ボーイはそう言うとうつ伏せに倒れているマリアンヌへと近づく。

そしてその手がマリアンヌへ触れるかと思われたその瞬間、手が止まる。


「何のつもりだ?」


そこにはアシッド・ボーイへと銃口を向けたアポロンJの姿があった。


「その女にもう手をだすな。死んでいるんだぞ」


「だから何だ?死体を見るだけで反吐が出そうだ。こいつの死体は跡形もなく消す」


「そいつは敬意を表するに値する奴だった。お前が手を出していいやつじゃない」


交差する二人の視線。

お互いの殺気のためか、二人は空気が重くなる感覚を覚える。



「言うじゃねえか。もしかしてやる気か?」


アシッド・ボーイは問う。


「お前がそれ以上堕ちるなら」


「なるほど」


アシッド・ボーイはマリアンヌに触れかけていた手を引く。そしてアポロンJと対峙する。


「……お前とやる気はねえよ。確かにこいつは消したいが、お前と殺り合うのは不本意だからなあ。あいつの掌で踊らされてる様で。なあ、出てこいよ」



アシッド・ボーイはエントランスの壁の陰になっている方へ向けて声を出す。


そしてしばらくして、そこからレイナが出てくる。


「あら、気付いてたのね?」


「当たり前だ。今回はお前が仕組んだ事だな?」


「人聞きの悪いこと言わないで。それよりアポロン、アナザースカイを取って頂戴」


アポロンJは契約を思い出し、アナザースカイをマリアンヌの手首から外す。

そしてそれをレイナへと渡すため近づこうとしたが、それをアシッド・ボーイに止められる。


「それをあの女に渡すな。後悔するぞ」


「俺は既に情報を買ってしまったからそれは聞けない。契約違反になる」


アシッド・ボーイが止めたにも関わらず、アポロンJはレイナにアナザースカイを渡してしまう。


「お前の今回の狙いはアナザースカイだったわけか?




なあ、王冠殺し(クラウン・サイド)」


その言葉にレイナ、もといクラウン・サイドはニヤリと笑う。


「今回の本当の狙いは、アポロンが貴方を殺す事だったんだけど、まあいいわ」


一人状況についていけないアポロンJ。


―レイナがクラウン・サイドだと。じゃあ今回、俺は奴の思惑に踊らされてたのか…


その事に気付き、歯軋りするアポロンJ。



「今回は完敗だよ、クラウン・サイド。まさかもうアポロンを利用してくるとは思わなかったぜ。これで一歩リードされたな」


アシッド・ボーイはクラウン・サイドを睨み付ける。


「いいえ、実力的には四人の中で私が一番劣っていた。これでイーブンよ」


アシッド・ボーイの言葉にクラウン・サイドは飄々(ひょうひょう)と答える。


―違うぜクラウン・サイド。お前は実力で劣りながらも俺たちと互角に渡り合って来た。そのお前が実力で俺達と互角になったら……


アシッド・ボーイはこれからのことを思うと冷や汗が流れるのを感じた。


「レイナ、貴様」


アポロンJはクラウン・サイドに怒りを剥き出しにする。


「利用しようとしたことは謝るわ。だけど分かったでしょう?これは貴方の探すアナザースカイじゃない」


クラウン・サイドのその言葉に思わずアポロンJは言葉を失う。


―この女、一体どこまで知ってる…


「安心して、アポロン。私は貴方の敵じゃない」


「信用出来るかよ」


「どちらにしても、貴方は強い。また協力してほしいときはお願いするわ」


クラウン・サイドはそう言ってエントランスから出ていった。


「アポロン、俺達も行くぞ。『keeps 』が来たら面倒だ」


二人もエントランスを出ていく。

しかしアポロンJの心情は穏やかでない。


別に利用されたことに怒っているのではない。

ただクラウン・サイドという女の情報が何処まで本当か分からなくなったのだ。




数分後、アシッド・ボーイと特に何もなく別れたアポロンJは宿に戻ってきていた。


そこにはクラウン・サイドから借金をしていたアルザック。

彼はアポロンJを見つけると喜んで近寄ってくる。


「聞いてくれアポロン。借金が免除されたんだ。さっき連絡があって、もう払わなくていいってさ」


喜ぶアルザック。それを見てアポロンJも何となく溜め息をつく。


―せめてものお礼のつもりか、レイナ。いや、クラウン・サイド


これからのことを考えるとアポロンJは、楽観的には考えられなかった。


アシッド・ボーイ、ブラウン・ボム、クラウン・サイド、ドレッド・フェイス。


この街は異常だ。それがクラウン・サイドを見て分かった。


アナザースカイを手に入れるには少なくともブラウン・ボムかドレッド・フェイスと対峙しなくてはならない。


それがもしクラウン・サイドみたいな癖のある奴だったらと考えるとアポロンJはとても笑う気にはなれなかった。


「よし、俺はこの街を出る」


「は?」


急にそう言い出したのはアポロンJではない、アルザックである。


「宿はどうすんの?」


「別に構わん。こんな危険な街にいるよりは他でのどかに暮らすさ。この宿はお前の好きにしていいぞ」


「はぁ」


思わずアポロンJは再び溜め息をつく。




これから彼に待っているのは、間違いなく困難な道だろう。


しかし彼は立ち止まれない。


アナザースカイを手に入れるために、己の野望を叶える為に。


だから彼は進んでいく。


例えそれが破滅の道だったとしても。





その翌日、アーバンスである情報が駆け巡った。それは勿論クラウン・サイドのアナザースカイ獲得である。


何故そんなに早く情報が回るのだろうか?


それはクラウン・サイド自身がその情報を流したためである。


これにより彼女はこの街を浮き足立たすのを狙ったのである。


しかし…


街のある酒場にいた赤い男は


―借りは返すぞ


闘志を燃やした。




また、街でギャンブルをしていた謎の男は


―面白い


あくまで楽しみとして扱った。




そしてある宿にいた黒い男は


―障害となるなら消すぞ、王冠殺し


確かな決意を固める。



結局、クラウン・サイドの思惑は失敗に終わったのだった。




とにもかくにも、この街は普通じゃいられない。

何故ならばここは死の漂う街、アーバンスだからだ。



この後、クラウン・サイドのアナザースカイ獲得により、勢力均衡が破られるのかはまだ誰にも分からない。



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