表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザースカイと黒い太陽  作者: ALK
アポロン襲来編
6/12

空に

ホテル『ソルティー』のエントランスにて…



対峙するマリアンヌとアポロンJ。


まず動いたのはマリアンヌ。

持っていた血塗れのナイフを投擲とうてきする。


しかしアポロンJはそのナイフを身体を半身反らすことでかわす。


――見失ったか


アポロンJはマリアンヌから視線を全く逸らさなかったにも関わらず、彼女を見失ってしまった。


「ゲームセットかしら?」


その言葉と同時にマリアンヌがアポロンJの背後に現れる。そしてアポロンJの首もとにはナイフが当てられていた。


「いや、まだゲームセットは早い」


アポロンJはマリアンヌに言う。


「アナザースカイを渡せ」


「貴方、今の状況分かってる?」


「ああ、勿論だ」


アポロンJは答える。その彼の表現は焦りなどを全く感じさせない、まさに無表情であった。

その余裕を醸し出しているアポロンJに、少々苛ついたマリアンヌ。


徐々に首もとのナイフを皮膚に突き刺していく。そして遂にアポロンJの首から、血の雫が滴り落ちる。


「アナザースカイを何?」


マリアンヌは突き刺していくナイフを止め、再びアポロンJに問う。

彼女は青年の命乞いする姿を予想していたのだろう。

しかしその予想は裏切られることとなる。


「アナザースカイを“よこせ”」


強調するアポロンJ。


「そう…。命乞いでもすれば助けてあげたのに。まあいいわ」


マリアンヌはそう言うと、止めていた手を再び動かす。


「さようなら」


そして彼女は青年の首を刈り取った。




そう、刈り取った筈だった。しかし青年は立っていた。何事もなかったかの様に。


「馬鹿な」


今日初めてマリアンヌが動揺を見せる。彼女の額から汗が滴り落ちる。


「お前はアナザースカイを分かっていない」


アポロンJはマリアンヌに変わらぬ無表情で言い放つ。


「知っているわ。現に今使っている」


「そうだ。知っているが分かっていない」


「何を言って…」


マリアンヌは動揺をもはや隠しきろうともしない。


「アナザースカイとは、禁忌の魔導具。この世のことわりすら容易く曲げてしまう。そしてそれを使う人間すら曲げてしまう。

全うな人間が使う物じゃない」


アポロンJは言う。その瞳には若干の“弱さ”を感じさせた。


「それでも、それでも私はやらなくてはいけない。アシッド・ボーイを殺さなくては。家族の仇は必ずとる。そしていつか…」


――もう一度家族皆で笑いたいの


そう言ってマリアンヌは悲しげに笑った。


そして続ける。


「その為に必要なの。死者を蘇らせるアナザースカイが、魂を保存するアナザースカイが。それを邪魔するなら容赦しないわ」


笑ったのも束の間、直ぐに真剣な表情へと戻る。


「そうか、だが容赦は出来ない。お前のアナザースカイは頂くぞ」


マリアンヌとアポロンJが同時に地面を蹴る。マリアンヌが何処からかナイフを取りだし、それをアポロンJの心臓に向けて突き出す。


しかしそれはアポロンJが体勢を低くすることでかわす。

そしてその体勢の状態から膝蹴りを繰り出す。


その膝がマリアンヌに触れようとした瞬間、アポロンJは再びマリアンヌを見失う。


周りを見渡すアポロンJ。すると次の瞬間、背後に微かな気配。

後ろを確認するとそこにはナイフを振りかざすマリアンヌがいた。


アポロンJはそれを横っ飛びする事でなんとかかわす。


「お前のアナザースカイが何を保存するか分かった」


立ち上がったアポロンJはマリアンヌに告げる。


二人の視線が交差する。


「お前のアナザースカイは時を保存する。まず、アシッド・ボーイの部下の血で真っ赤なお前が白くなったのは、時を過去に戻したから。そして先ほど俺がお前を見失ってしまったのはその瞬間を保存、つまり時を止められてしまったからだ。そして時を保存している状態でお前は俺の死角に移動する。そうすれば俺にお前を見失わせるのは簡単だ。勿論時が止まっている状態で俺に傷をつけることは出来ない。時が止まっているからなぁ」


「……。その通りよ。私のアナザースカイは時を保存する。」


時を保存するアナザースカイ。それを使われては、彼女にとってアシッド・ボーイの部下なんぞゴミ同然であった。


そう、彼女にとってアシッド・ボーイなどゴミと同義なのだ。だから排除する。


しかし彼女は気づいていない。




彼女も今やアシッド・ボーイと変わらないことに。


彼女も今やアシッド・ボーイと同じ目をしていることに。


彼女も今やアシッド・ボーイと同じく世界の敵だと言うことに。




「刺せ」


突然アポロンJは両手を広げてその場で止まる。


「何を企んでいる?」


マリアンヌはアポロンJのその行動を怪しんで、迂闊に動かない。


「何も企んでないさ。ただ、お前を哀れんだだけさ」


「私の何を哀れんだと言うんだ?」


「お前そのものさ。お前は確かに家族を殺されたかもしれない。だがそれを恨んでいいのは、全うな人間だけだ。人を殺したお前にその権利はない。ましてや家族と笑うだと?人殺しがおこがましいことを言うんじゃねえ」


「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ」


激昂したマリアンヌはナイフを構えてアポロンJへ向かって突進する。

依然アポロンJは動く気配がない。


そしてマリアンヌのナイフがアポロンJの心臓へと突き刺さった。



筈だった。



マリアンヌはアポロンJに触れることなく二人は交差する。

アポロンJは決して一歩も動いていない。


アポロンJは魔導具から拳銃を解放するとそれをマリアンヌへと向ける。

そして躊躇うことなく引き金を引いた。


乾いた音がエントランスに響く。


銃弾はマリアンヌの脇腹を貫いていた。

そしてマリアンヌが自身の服を初めて己の血により染める。


力なく倒れるマリアンヌ。


彼女から止めどなく血が流れ続けている。


――即死じゃない。だが怪我が再生する気配がないとこを見ると、自分に対しては時を戻せないのか。


アポロンJが思考していると、血塗れの彼女が立ち上がろうと必死にもがいていた。

しかし立ち上がれない。


すると彼女は地を這いつくばってアポロンJの下へと近づいてきた。


彼女その表情を見た時、黒い青年は初めてこの女に恐怖を感じた。


何故なら彼女は泣いていたのだ。

楽しそうに笑いながら。

狂気を振り撒きながら。



彼女は想像しているのだろうか、家族と笑うその時を。


彼女は悟ったのだろうか。家族と会えないその現実を。



彼女のその姿に、自分に恐怖を感じさせたその執念に、アポロンJは敬意を表す。


そしてアポロンJは這いつくばる彼女の頭に銃口を向けた。


「貴方は間違えた。貴方の家族はこんなことを望んでいなかった筈なのに。

この銃弾は俺からのせめてもの慈悲です」



乾いた音と共に彼女は絶命した。



――――――



この世界はとんでもなく醜い。


そして空は人を咎人へと誘う。


それでも人はこの世界を生きている。



生きられなかった彼女の家族、そして空に狂わされた彼女に、せめてもの敬意を表して願おう。


「次の人生は幸せに」


と。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ