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アナザースカイと黒い太陽  作者: ALK
アポロン襲来編
3/12

王冠殺しと情報屋

酒場『アダム&イブ』


「それにしてもアポロンJは何してやがる」


そう愚痴っているのは、真っ赤な髪をツンツンに固めているアシッド・ボーイ。

この酒場はアシッド・ボーイの勢力が多くたむろする場所であった。


電話をかけた日から随分と経過しているがアポロンJは一向に現れる気配がない。


「アポロンJにクラウン・サイドの馬鹿な幹部が接触したとの情報があります」


そう報告するのはスーツを身に纏った男。そう、以前車を運転していた男である。

名をレグレス・クライアンという。


「王冠殺し(クラウン・サイド)が最初の接触をすることになりそうだな」


アシッド・ボーイはそう呟くと笑みをこぼす。


「いえ、現在ここに向かっていると思われます」


「なるほど、先手は打てるかもな。クラウン・サイドは後悔するぜ。ただの金ずるを幹部にしていることをな」


アシッド・ボーイはそう言うとグラスの中に入っていた酒を飲み干した。


王冠殺しのクラウン・サイド。そう呼ばれる様になったのは5年前だった。まだ子供であったクラウン・サイドだったが、次々と王族と呼ばれる者だけを殺していった。


この世界には人間に限りなく近づいた人形ひとがたのロボットと言うものが何処にでも存在する。それこそ一家に一台という数は当たり前である。


王家は勿論、そのロボットを何台も所有している。クラウン・サイドはそれを利用したのだ。

人形ロボットはその所有者を認識し、その命令を聞くようにプログラミングされている。

そういった情報は、ロボットを売り出した企業のデータバンクで管理されているのだが、クラウン・サイドは国に存在するすべてのロボットの所有者情報を、企業のデータバンクにハッキングすることで書き変えた。そして死を恐れない、魂なき軍隊を作り出したのだ。



アシッド・ボーイはアーバンスの有力者で、最も頭が切れるのはクラウン・サイドだと思っている。

だがクラウン・サイドの不死の軍隊ロボットどもは確かに脅威だが、人間の部下は非常に愚かなものだ。


その点でクラウン・サイドは人を見る目が無いとも言える。

アシッド・ボーイがそんなことを考えていたその時、


「よう」と


気だるそうな声と共に酒場が静寂に包まれる。

そして次には再び騒がしくなる。


「てめえ、何しに来やがった」


酒を飲んでいた男が黒づくめの青年に絡んでいく。


―やれやれ騒がしい奴らだ。

アシッド・ボーイは呆れたが、このままでは酒場が戦場へと変わってしまいそうなので、声を張り上げる。


「やめろ!」


アシッド・ボーイの一喝により、再び静まり返る酒場。


「久しぶりだなアポロン」


にんまりと喜びを表情にだすアシッド・ボーイ。それに対して少なからず驚きを隠しきれない取り巻き達。

何故ならば数日前の出来事、所謂いわゆる酒をアポロンの頭にぶっかけて帰らしてしまったことが頭によぎったからである。

このアポロンと呼ばれる男がアシッドと親友の関係であった場合、その出来事を言われればとんでもないことになる。

取り巻きの額から冷や汗が落ちる。


そんなことを周りの取り巻きが考えているとは知らないアポロンJは、アシッド・ボーイとは対照的に、別段嬉しそうにはしていなかった。


「この街にアナザースカイがあるっていうのは本当だろうな?」


アポロンはカウンターに座っていたアシッド・ボーイの隣に腰かけると、質問をぶつける。


「確証はない。だが俺はブラウン・ボム、クラウン・サイド、ドレッド・フェイスの中の誰かが所持してると踏んでいる」


自信ありげにアシッド・ボーイは言う。


「アナザースカイ、存在してはならない魔導具。アポロンよぉ、何が目的なんだ?」


「目的なんかないさ、趣味の範囲だ」


「まあいいさ。目的なんざどうでもいい。アポロン、今のこの街の状況を知っているだろう?」


アシッド・ボーイの問いに、アポロンJは彼を一瞥すると首を縦にふる。


「力を貸せ」


短く、はっきりと端的に目的を発するアシッド・ボーイ。

確かに利害は一致しているように思われる。


アシッド・ボーイは他の連中を消したい。アポロンJは他の連中が消えることによりアナザースカイを手にいれる。


普通であったらここの返答はYesだ。

だが彼は普通ではない。


「Noだ」


アポロンJはアシッド・ボーイの誘いに拒否という結論を出した。

アポロンJの予想外の拒否発言に酒場からはどよめきが起こる。


「理由を聞こうか」


そう言うアシッド・ボーイの顔には、先程と違い全くの笑みが見られない。

酒場にも緊張が走る。


「アシッド、俺は誰にも従属しないことを知っているだろう」


「……」


「だが、クラウン・サイドは確かに邪魔だな」


「知ってるぜ、お前の宿の店主、クラウン・サイドに借金してんだってなぁ」


「まあな」


アポロンJはアイザックから宿の詳しい話を聞いていた。クラウン・サイドから借金していることも含めて。

アポロンJはアイザックの為に動くつもりは毛頭ない。

だがそこにアナザースカイが絡んでくるなら話は変わってくる。


クラウン・サイドを消すことでアイザック及びアシッド・ボーイに貸しを作ることが出来るなら、動く価値はある。



アナザースカイ、もうひとつの空を求めてアポロンは動き出す。





それは何にもする気が起きないただの平凡な日に起こった。


日中のものすごく天気がいい日、黒を身に纏った青年が一人で気だるそうに歩いていた。

アポロンJである。


青年が街を意味なく歩き回っていたそんな時


「きゃっ、やめて」


路地裏の方から、なんかテンプレ的な出来事を連想させる声が聞こえてきた。


―まじかよ


アポロンJは迷う。助けるか助けざるか。この青年は自分で自分を善人ではないと自負している。

しかし目の前で“よろしくないこと”が行われるのを見逃すのもどうかと思う。


―あー、まじで出歩くもんじゃないな


アポロンJは無意味に出歩いていた事を後悔しつつも、“よろしくないこと”を防ぐために路地裏に入っていった。



路地裏ではいかつい顔のチンピラが三人、そしてチンピラに囲まれるようにして一人の美女が立っていた。


―なんかテンション上がってきた


美女を見て目の色を変える青年、実に単純である。

加えて美女は目で助けてと訴えかけてくる。


―ついてるかも。やっぱり出会いは出歩くに限るわ、まじで


さっきと全く考えが変わっているアポロンJ。

しかしそれもしょうがないとも言える。何故ならばその絡まれている女性、絶世の美女であったからだ。


肩まで伸びた水色の髪、そして水色の瞳、それらは男に無視させることを許さない。何より背が高く、スタイルがいい。

これはアポロンJのタイプであった。


「なんじゃ、貴様?」


思いっきりガンつけて近寄ってくるチンピラ達。

そのチンピラ達に対して、アポロンJは中指を突き立てる。


「貴様らの様なクズは、神に変わって俺が罰を加えてやる」


今だかつてないテンションのアポロンJは止まらない。

チンピラの一人の懐に入りアッパーカットで沈めると、続けざまに回し蹴りでもう一人を沈める。


「てめぇ!フレイムアロー」


炎の矢の魔導を使ってきたチンピラにはそれをかわし、


「お仕置きだ」


頭突きで仕留めたのであった。




「上々だな」


アポロンJは倒れているチンピラを見てどや顔を浮かべる。

対して美女は一瞬の出来事だったためか放心状態だ。


「君、大丈夫?」


アポロンJは美女に近寄ると、これでもかと言うくらいの笑みを浮かべる。


「はい、ありがとうございます」


放心から解放された美女は柔和な笑みでそれに答える。


これまでアポロンJにとって、アーバンスとは糞、位にしか思っていなかったが認識が変わった。


―最高だわ、この街


この様にしてアポロンJの心境の変化が、ただの平凡な日に偶然起こったのであった。



路地裏の悲劇を未然に防いだアポロンJは先程の美女と共にランチを食べていた。

彼女曰く、お礼がしたいだとかで…


現在二人はレストランでまったりとトークをしている。


彼女の名前は、レイナ・アヴィ。情報屋をやっているそうだ。

この街にいるクラウン・サイドの情報を集めている最中、その部下に見つかり後はご存知の通りだ。


何故彼女の様な美女がそんな危ない仕事をやっているのかは謎だが、こういう世界ではあまり他人の事情を聞くべきでないと言うのがマナーである。


故にアポロンJはそのことについては言及しなかった。


「で、何でクラウン・サイドを探ってたんだ?」


何気なく彼女の情報に探りを入れてみる。


「依頼者から頼まれたの。詳しいことは言えないわ」


「だろうな」


―依頼者…か。

―誰だ、一体。この街でクラウン・サイドのことを探ろうとする奴なんてまともじゃない。

―俺以外にもクラウン・サイドを狙っている奴でもいるのか?


しばらくアポロンJは思考する。しかしあまりにも情報が少ないため、ここは一旦考えるのをやめることにした。


「ねぇ、アポロン」


レイナが机に体を乗り出して、アポロンJの耳元で囁く。


「あなた、アナザースカイを探しているんでしょう?」


その瞬間、アポロンJは背筋が凍るような悪寒を覚えた。

―この感じ、あの時の……


「情報屋は伊達じゃないってことか。何処でその情報買った?」


冷や汗が頬を伝うのをアポロンJは感じていた。


「言えないの知ってるでしょう?」


にんまりと笑みを浮かべてレイナは言う。

先程の悪寒はすでに感じられなくなっていた。


「アナザースカイの情報、売ろうか?」


「……。いいだろう、買おう。いくらだ?」


「1つでいいよ。ブレスレット型の魔導具1つ」


「だったら今ちょうど持ってるけど」


アポロンJは現在腕に着けてあったブレスレット型の魔導具を取り外そうとする。

しかし


「私が欲しいのは、ただの魔導具じゃないんだなぁ~」


レイナは間の抜けた声で、アポロンJの行動を止める。


「私が欲しいのは、アナザースカイ」


―レイナ・アヴィ。この女、一体何を言って…


「私がアナザースカイの情報を売る。その情報を元に貴方はアナザースカイを手にいれる。だけど私の情報に対する報酬がアナザースカイ。あなたはアナザースカイが欲しいんなら、私から奪うしかない」


「だがそういう後払い制だと、お前に報酬を渡さずに逃げるかもしれないが?」


「私は情報屋」


「なるほど」


―この取引、乗るべきか乗らざるべきか。

この取引に乗ることで得られるメリットは1つ。アナザースカイの所有者の特定。


―確かにこのままこの街のあてのないアナザースカイを探すよりは、他のアナザースカイをレイナに渡して、“2つ確保”出来るのは大きい…か。


「乗ろう、この取引」


「頭の好い人は好きよ」


レイナはそう言って笑う。しかしアポロンJは正直笑えなかった。

と言うのも、レイナが予想以上に得体が知れなかったからだ。


―警戒しておいて損はないな


アポロンJはそんなことを心で思いつつ、レイナの情報を買うのだった。






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