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アナザースカイと黒い太陽  作者: ALK
アポロン襲来編
2/12

魔導科学と王冠殺し

西暦2117年、日本の科学者“冴島良介”が魔導科学の開発に成功。数年後には魔導科学は全世界に浸透し、そして大犯罪時代がやって来た。


魔導科学とは、冴島良介は別名として“保存術”と呼んでいる。


保存術とはその名の通り保存するものだ。それは有機物でも無機物でも可能である。


冴島良介曰く、保存術の定義とは保存したいものを“サーモア”という物質に閉じ込める、ひいては別次元に閉じ込めるということらしい。

そしてサーモア、それを解放するために必要なものが、キーとなる言葉だ。

キーとなる言葉を発することで、サーモアが反応し保存を解き放つ。

ナンバー式の南京錠の様なものだ。


サーモアから解放された物質は三次元に解き放たれ、再びサーモアに保存される。


ただし1つのサーモアに保存出来る物は1つだ。



サーモアは所謂宝石の様な形をしている。

それは指輪やらブレスレットやらにサーモアを付属させることで身につける。

そしてサーモアが付属されたそのアクセサリーなどを魔導具と呼ぶのである。



これが魔導科学である。最もこれが本当の話なのかは天才、いや神とまで言われたマッドサイエンティストにしか分からないが……



アポロンJがアーバンスに来てから四日が経った朝。


アポロンJは寝間着からいつもの黒い服装に着替えていた。

彼はこの街に来てからずっと宿屋で生活していた。金銭的には全く問題はない。


というのもこの宿、所謂ボロ宿である。これからしばらくこの街に滞在することを考えてアポロンJは節約を実行したのだ。最も高級ホテルに泊まれるだけの金銭はもっているのだが。



着替え終わろうとしていたそんな時、アポロンJの携帯電話の着信音が鳴り響く。

アポロンJは携帯を手に取り通話ボタンを押した。


「もしもし」


「俺だ、アシッドだ」


電話の主はアシッド・ボーイその人であった。


話の内容はこうだ。

―『アダム&イブ』に来いとのこと。


(自己中すぎだろ)


内心ではそう思ったアポロンJだが、この街に来たのもそもそもがアシッドに会うためなので仕方がない。


まずは朝飯を食べるために宿の食堂に向かった。


「よう、アポロン」


食堂で気さくに声を掛けてくるのはこの宿屋の店主のアイザック・フォーグ。見た目的には50歳位に見える。しかし体格は良く、力比べしたら間違いなく負けるだろうとアポロンJは思っていた。


「飯を頼む」


この四日で随分とアポロンJとも仲が良くなっていたアイザック。


食堂にいるのはアポロンJとアイザックのみであり、閑散としている。

四日間この宿で宿泊しているアポロンJだが、自分以外の客を見たことがなかった。


というのも……


「おーい」


間の抜けた声と共に突如店の入り口の扉が突き破られる。

そこに現れたのは、いわゆるチンピラ共。至るところにピアスが確認できる。


「何しに来た?」


威嚇するようにアイザックは言う。それを聞いて、チンピラのリーダー格であろう男が前に出てくる。


「今月の金はどうした」


「待ってくれ。来月一緒に払う」


「待てないなぁー。今回はボスの命令で来てるんだよねー」


ゲラゲラと下品に笑うチンピラ。それを合図に取り巻き達も笑い出す。

その時、チンピラのリーダーとアポロンJの目が合う。


嬉しそうに近づいてくるチンピラ。


「この宿に泊まるのはやめた方がいいぜ」


「なんでだ?」


チンピラの忠告にアポロンJは本当に意味が分かっていないようで、その理由を問う。


「なぜならこの宿には借金があってな、まともなサービスが受けられないんだ」


両手を広げて語り掛けるように話すチンピラ。その姿をアポロンJは汚物を見るような目で見ていたのだが、チンピラは気が付かない。


「だがら?」


「は?」


「だから、それが何って聞いてんの」


流石に馬鹿にされているのに気が付いたのか、チンピラの額に青筋が浮かんだのが分かる。


しかしアポロンはその程度では怯まない。アポロンには恐れという感情が欠落しているのだ。


チンピラが手を前につき出す。すると次の瞬間、彼の手から炎が吹き出した。

魔導科学の使用である。

何らかのキーワードとなる言葉はアルザックにもアポロンJにも聞き取ることが出来なかった。


チンピラの炎はアポロンを吹き飛ばし壁に激突させる。そのあまりの衝撃に壁は破損してしまった。アポロンのダメージも相当あるように思われる。


「あまり調子に乗らねえことだ。この街で長生きしてえならな。まあ聞こえてないか」


チンピラはピクリとも動かないアポロンを見て満足げな表情を浮かべる。


「オッサン、また来る。次はないと思えよ」


チンピラはそう吐き捨てると宿屋を後にした。


「おいアポロン」


アイザックはチンピラに吹き飛ばされたアポロンJに駆け寄る。アポロンは気を失っていた。


無理もないだろう。魔導科学とは人類とは逸脱した力の行使を可能とする。人間が自然災害に無力な様に、生身の人間では魔導科学には無力だ。

それを改めてアイザックは痛感した。


チンピラにアイザックが手を出せないのには理由がある。

1つは自分の娘が人質とされていること。故に自分が手を出すことで娘の安全が危ぶまれることを危惧しているのだ。


そして最大の理由。それはあのチンピラがクラウン・サイドの組織の幹部の一人であるということだ。


大犯罪者、王冠殺しのクラウン・サイド。この街を牛耳る猛者の一人だ。逆らうことは己の死、娘の死を意味する。


かつては他の街で名の有る賞金首であったアイザック。アーバンスにやって来て多少の金を街にいた“チンピラ”から借りた(カツアゲ)アイザックだったがそれが不幸の始まりだった。


そのチンピラがクラウン・サイドの手の者だったのだ。


アーバンスでお痛をしでかした者は、ただではすまされない。運が良かったのはクラウン・サイドがあまり“過激“ではなかった点だろう。


しかしそれ以来、アイザックはクラウン・サイドに金を払い続けている。

それは正当ではない。だがしかし、それがこの街の流儀というものなのだ。


金を払うことで自らの身を守る。アイザックはそれを選択した。

予想外だったのは、他の街にいたはずの娘の情報がクラウン・サイドに割れていたことか。


とにもかくにも、アイザックは気を失ってしまったアポロンJに対して、罪悪感を覚えるのだった。




そして2日後


全く高級さを感じさせない一室、そこのベットでアポロンJは睡眠を取っていた。


(ん?)


意識が戻ってきた彼は体を起こそうとする。

しかしアポロンJはベットにいる状態から体を起こそうとする動作で、妙に体の痛みを感じた。

しかし無理やり体を起こすと、枕元に置いていた携帯へと手を伸ばす。


携帯電話、それは昔から現在にかけてあまり進化していなかった。かつて学校で習った歴史の授業では、今自分の持っている携帯電話と昔の携帯電話では大差が無い。


というのも人類は2050年以降、そんなに進歩していないとアポロンJは思っている。

それは勿論魔導科学は例外としてだが…


進歩していない代表例の携帯電話を起動させたアポロンJ。そこで日付が自分の記憶と食い違っていることに気づく。


(あれ?)


しばらく頭を悩ませるアポロンJ。そして悩むこと数秒、チンピラの魔導に沈められたことを思い出す。

その日から二日が経過していた。


チンピラに沈められたことは何とも思っていないアポロンJだが、ふとアシッド・ボーイとの約束を思い出す。


本来ならアシッド・ボーイとの約束を忘れるなど、死を恐れない馬鹿しかやらない所業だ。

しかしそこはアポロンJが大物であった。また行けばいいと位にしか彼は考えていなかった。


とりあえずアルザックの様子を確認するために、アポロンJは身支度を整える。

そして部屋を出て食堂へと向かった。


「よお、アポロン」


食堂にいたアルザックは何時もと何も変わらなかった。この手の事には慣れているのかもしれない。


「すまなかったな」


しかし明るい顔をしていたのも一瞬、アルザックは浮かばない表情をして青年へ謝罪をした。


「いや、別にいい。てかどうでもいい」

「だがしかしなぁ、こちらとしても心苦しい」


アポロンJのどうでもいい発言は意外だったのか、アルザックは若干呆気に取られた表情をしている。


実際、アポロンJは何とも思っていないのだろう。彼は良くも悪くも器が大きい。故にこの程度・・・・の事は取るに足らない事なのだ。しかし…


「だったらしばらく、無料で泊まらせてくれ」


金銭面は抜け目がなかったのであった。




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