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アナザースカイと黒い太陽  作者: ALK
アポロン襲来編
1/12

アポロン

ここは悪党が屯する街、アーバンス。

この街に常識など通用しない。

この街に法などない。


生き残りたければ、騙せ。

生き残りたければ、殺せ。


善など無用。

偽善を疑え。



さもなくば死あるのみだ。





ここは死の漂う街アーバンス。

ここに一人の来訪者があった。


「湿気た街だなー」


そう呟くのは黒髪に黒目、服すらも黒の青年だった。

この街に立ち入るにはあまりにも“無知”であるように思える。


アーバンスは寂れた街という訳ではない。

ただ、住人に問題があるだけで街自体は大層華やかだ。


街を眺めていた青年にふと衝撃がかかる。


「いってー」


黒い青年は衝撃の正体を確かめる。

原因はなんというテンプレートか。


いわゆるチンピラに絡まれたのだ。


「骨折れたじゃねーか」


あり得ない言い掛かりをつけてくるチンピラ。

しかし青年は怯まない。


この黒い青年、実は賞金稼ぎであった。

ある理由があって無法者の街、アーバンスへやって来たのだ。



数分後、のされたチンピラが道端に転がっていたそうな…



アーバンスを暫く歩き続けていた黒い青年であったがふと古い木製の建物、所謂酒場を発見した。

酒場と言えば情報が集まる典型的な場所である。

休憩を兼ねて青年は酒場に入ることを決める。


酒場の名前は『アダム&イブ』

なんとも洒落た名前である。


しかしそんな洒落た名前とは裏腹に酒場の中は酷く騒がしい。


そんな酒場を黒い青年は平然と歩き、カウンター席に腰掛ける。


「見ねえ顔だな。何て名だ?」


そんな青年に酒場の店主は声をかける。


「名前はないさ。アポロンじぇいとでも呼んでくれ」


この青年、アポロンJと言うらしい。

アポロンJは続ける。


「この街にアシッドがいるって聞いて来たんだが知らないか?」


アシッド、その名を聞いた瞬間店主の顔に焦りが浮かぶ。

そして騒がしかった酒場が一気に静まり返った。


「おい、貴様」


そんな中屈強な、如何にも戦士といった風貌の男がアポロンJに声を掛ける。

勿論それは親しいものが掛けるそれではない。


「アシッドに何の用だ?」


「用があるのは向こうだ」


賞金稼ぎは決して怯えることあらず。

アポロンJは視線だけ男に向けている。

その表情は馬鹿にしているように見えなくもない。


次の瞬間、酒場に笑い声が響き渡る。


「アシッドがテメェに用だって?笑わせる。アシッドはこの街の有力者の一人だぞ。」


アシッド・ボーイ。


ブラウン・ボム。


クラウン・サイド。


ドレッド・フェイス。


この四人はアーバンスの実質的な支配者である。この四人を知らない者は世界中に存在しない。

要は世界中にしれ渡るほどの大犯罪者ということだ。


その四人が1つの街に集結しているというだけでも異常である。


そしてその一人のアシッド・ボーイに会いに来たと言うアポロンJ。

信じないのが普通であろう。


突如アポロンJの頭から液体がこぼれ落ちる。

酒だ。


男がジョッキを傾けてアポロンJにかけていた。


「帰んな。テメェみてえなのが来る場所じゃねえんだ」


酒場に再び笑い声がこだまする。


結局その後、アポロンJは酒場を後にした。




アポロンJが街に来て3日が経ったある日のこと……


「最近、アシッド・ボーイのことを探っている者がいるそうです」


とある高級車の中にて、スーツを纏った運転手が助手席の男に話しかける。


助手席の男、この男こそアシッド・ボーイ。

燃え上がりそうな赤髪、見られただけで気絶しそうな鋭い赤目。


「特徴を教えろ」


「全身が黒づくめとのことです」


全身が黒づくめ、それを聞いた瞬間アシッド・ボーイは笑みを浮かべる。


―来たな、アポロンJ


それは喜んでいるのであろうが、運転手からすれば急に笑いだしたアシッド・ボーイは不気味でしかなかった。


「その男消しますか?」


運転手は問う。


「無駄だ。止めとけ。だが街の何処にいるのかは調べておけ」


「はい」


車は依然として街をひた走っている。アシッド・ボーイはタバコを取りだし口に加える。


「昔話をしようか」


タバコに火をつけたアシッド・ボーイは何処か遠い目をして運転手に語り掛ける。


―昔、まだ俺が駆け出しのガキ、要するにまだ人も殺したことのない時だ。つっても、喧嘩の強さには自信があってな。

そんな時だ。アポロンJに会ったのは。

今は知らんが当時の奴の目には光が灯ってなかった。

あの目はまともな奴のする目じゃねえ。

みっともねぇことにビビったのさ。この俺が。

だが認めたくなかった。

その頃からだ。俺が人を殺し始めたのは。


殺して殺して殺して、ある時また出会ったんだ、奴と。


久しぶりにアポロンJの目を見て思ったんだ。


『今の俺と同じ目だとな』


その途端抑えが効かなくなってな。奴を殺そうとした。だが殺せなかった。


何故なら奴は死なねえからだ。


――



タバコの煙を口から吐き出すアシッド・ボーイ。

その隣では運転手が変わらずハンドルを握り続けている。


「あれ以来、何度かりあったよ。だがそれが無意味だと気づいた時にはお互いを他人とは思えなくなってたな。犯罪者と賞金稼ぎ、立場は違えど親友でもあった」


まぶたを閉じたアシッド・ボーイ。

そしてゆっくりとそれを開く。


「アポロンJをこの街に呼び寄せた」


その瞳は一般人が出来るものではない。一切の光を許さず、希望すらも抱くことを許さない。まさに狩人の瞳。


「何でか分かるか?」


その問いに運転手は首をかしげる。


「今の均衡を破る」


「まさか、他の派閥を消す気ですか?」


運転手の額から一筋の汗が流れ落ちる。

今までアーバンスは微妙な力のバランスで成り立っていた。そこをアポロンJという新参者を用いて崩そうと言うのだ。

運転手も気が気でないだろう。


「だがアポロンJは簡単には動かない。しかも他の奴等につく可能性もある。」


「じゃあ一体……」


ニヤリとアシッド・ボーイの口が三日月型に変わる。




「アポロンJを味方につけたものが、この派閥争い、必ず勝利する」



西暦2197年、歯車は動き出した。

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