第0話「これが償いの始まりである」
全校生徒と教師の皆さん、おはようございます。お集まり頂きありがとうございます。これより、臨時生徒総会を始めます。司会は私、生徒会長である小渕稲座が勤めさせて頂きます。
それでは、この春、今日から新たな機関として活動を開始する、〝生徒会執行部〟の概要を説明します。
基本的にこの機関は、〝生徒会〟が担えない仕事や諸事情等の解決を補助する立場にあります。よって、生徒会執行部、以下〝執行部〟としますが、これには絶対的権限は存在しません。伝統である球技大会やマラソン大会等の運営は、例年通り生徒会が行います。承認の方は拍手をお願いします。
……ありがとうございます。
次に、執行部の発足について。
執行部会長曰く、生徒会はとても良く仕事をしているが、その分ピリピリした空気が抜けていない。ついで昨年度の失態を拭う期間が必要。故に今の生徒会には、欠点部分を補う補助機関が不可欠である。
なので、執行部が補助する事により、生徒会はより重要な仕事に重点を置く事が出来る。それに、この山高の生徒の願望書は県で一番の多さである。それらの判断を我ら執行部に任せて貰う事で、仕事の効率がアップするはずだ。との事です。
他にも活動予定はあるらしいですが、ここでは時間の都合上省略します。この方針を承認する方は拍手をお願いします。
……ありがとうございます。
それでは本日より、生徒会執行部の発足、及び活動の開始を生徒全員の承認の下、許可します。
では、以上で臨時生徒総会を終わりに――。
はい? 役員紹介がまだ? そんなの、プログラムにありましたっけ……。
え、勝手に組み込まないでくれます!? こっちにはこっちのプランというのがあるんですよ! ……まぁいいですけど。
皆さん申し訳ありませんが、今しばらくお付き合いください。これから生徒会執行部の役員の紹介を行います。……えー、どうやらスクリーンに直接紹介データを投影するとの事です。
……はい? それも私がやるんですか? いやいや、自分でやって下さいよそんな事。
機材の使い方が解らないなら初めからその方法を盛り込まないで下さい! あーもう、小林君、やって! 私も解らないもん、そんなの! いいからやるのっ、会長命令!
そうそう、初めから素直に従えばいいんですよ!
という訳ですので、皆さん今しばらくお待ち下さい。文句はここに居る執行部会長に思う存分どうぞ。
~3分後~
はい、よく出来ましたね小林君。後で飴あげますよ。
お待たせしました。これより、役員の紹介データを投影します。小林君、どうぞ。
会長・天川三紀
所属・二年三組
年齢・十六歳
性別・ユーモアな男
身長:173cm 体重:63kg 髪:茶髪で男前のオールバック
意気込み・ドントウォーリー! ビーハッピー!
副会長・城古我龍
所属・二年一組
年齢・十七歳
性別・ゲームに命を懸ける男
身長:174cm 体重:55kg 髪:もじゃもじゃ
意気込み・果たしてユクモでアマツは狩れるのか。
副会長・関野恵
所属・二年二組(留年生)
年齢・十七歳
性別・男っぽい女
身体・身長:164cm 体重:47kg 髪:黒の尖がり帽子を被っている為不明
意気込み・歯向かう奴はしばくから覚悟しやがれ。
書記・二ノ宮春香
所属・二年四組(飛び級)
年齢・十五歳
性別・子供っぽい女
身長:152cm 体重:秘密 髪:純白のショートヘアー
意気込み・お金の事なら相談に乗ります!
会計・廣瀬夕菜
所属・二年五組
年齢・十六歳
性別・危ない眼鏡女
身長:167cm 体重:機密 髪:紫毛のロングヘアー
意気込み・WRYYYYYYYYYYYYYYYY
えっと……。なんですか、これ。明らかに門出に相応しくない表現が混ざっているんですけど。特に意気込みの部分、ふざけてるんですか?
え、アドリブ? 意味間違えてますよ! 本当にやる気あるんですか! ある? あるならあるなりの紹介文にしてくださいよ!
……まあいいです。これで本日の臨時生徒総会を終わりにしたいと――。
今度は何ですか!
え、声明発表? 今更要らないと思いますが……。どうしてもやりたいですか……。まあ確かに重要だし……。
じゃあ、手短にお願いします。という訳で皆さん、申し訳ありませんが、もうしばらくだけお付き合いください。いいですか、これで最後ですからね!
それでは、会長である天川さんからお願いします。
「えー、皆さん、おはようございます。生徒会執行部会長の天川です。本日より行動を開始する生徒会執行部ですが─―」
はい、そこまでです。
「えぇっ!? 早くねぇ? いくらなんでも早くねぇ?」
もう一時間目に食い込んでるんですよ。時間調整に必死なんですよ、こっちは。
「でも、ここからが重要なんだけど……」
はい、次に副会長の城古さん、お願いします。
「無視!?」
「あまりめんどくさい願望書は出さないように。以上」
ちょっと待って下さい。早速マニフェスト違反ですか!?
「手短にって言っただろ。何か不満でも?」
先輩にその口調は何ですか! それにさっきの行動方針は何だったんですか!?
「細かい事をネチネチと……。これだから年寄りは」
細かくないと思いますけど!? 一歳しか変わりませんけど!?
「はい、次に副会長の関野さん、お願いします」
それは私の台詞です!
「変な事したらぶっ飛ばす。以上」
何をするつもりですか!?
「結局のところ、世の中は力が絶対なんだよな」
そんな、いきなり究極的な結論を感慨深く言われても! もっと平和的な道もあるはずですよ!
「追加。オレに文句言う奴もぶっ飛ばす」
書記の二ノ宮さん、お願いします!
「えっと、よくわかりませんけど、お金の事なら任せて下さい!」
仕事を金で解決するつもりですか!?
「はい!」
認めないで下さい!
「結局、世の中はお金なんです!」
またそんな話を! ここは世の中の摂理を言い争う場ではありませんよ!
「生徒会長さん、そんなツッコんでばっかりいると、時間なくなりますよ!」
だったらツッコませないでくれます!?
「そういう言い方が、女性として、駄目なんだと思います!」
何だかあなたにだけは言われたくないです!
「むっ! 今すっごくムカッとしましたが、私は大人なので大人しく引き下がります! 私はどこかの誰かとは違いますから!」
どうしてこの人達は三年の私にこうまで威圧的なんですか!?
あぁ、もういいです……。相手するだけで疲れます。会計の廣瀬さん、お願いします。
「…………」
もしかして緊張してるんですか? だったら無理に話さなくても良いんですよ。
「…………」
だからって無言はやめませんか!?
「……クシュンッ」
…………。
「……(ペコリ)」
終わりですか! くしゃみだけで終わりですか!
……えっと、もう終わりでいいですか?
満足ですか、そうですか。私はとても不満ですけどね!
それでは、今度こそ、臨時生徒総会を終わりにします。長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。どうか今度とも、生徒会共々よろしくお願いします。
はあ、疲れた……。
――こうして、彼らの物語は始まったのだ。
――この物語は、どこにでも居る高校生達が、どこにでもある日常を過ごす話。
――よくある風景の、よくある話。