表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

第5話 気持ちが通うとき

出張の帰り、二人は居酒屋に立ち寄った。

紗香はグラスを片手に、積もりに積もった愚痴を吐き出す。


「もう、あんな担当者ばっかり……。

女だからって軽く見られるの、本当に腹が立つ」


紗香の愚痴が止まらない。

言葉には、怒りと疲れが入り混じっていた。


悠馬は黙って聞き続ける。


やがて紗香は、ぽつりぽつりと弱音を漏らした。


「若くはないって、自分でも分かってる。

仕事ばっかりで……それでも……」


「紅林さん、飲みすぎですよ」


悠馬は、コップの水を差し出す。


「ありがと」


紗香は、それを一気に飲み干すと、

そのままテーブルに突っ伏し、酔いつぶれてしまった。


悠馬はため息をつく。

勘定をすませるとタクシーを呼んだ。




***




紗香を宿泊先のホテルまで連れていく。


部屋に着くと、紗香がか細い声で懇願した。


「もう帰るの? もっと飲もうよ」


「酔ってますね」


悠馬は、はぐらかそうとするが、紗香はさらに問いかける。


「こんな年上の酔っ払いは……嫌い?」


悠馬はドギマギしながら答えた。


「そんなこと言われたら……」


返事はない。

気づけば紗香は静かな寝息を立てていた。


「やれやれ……」


悠馬は布団をかけ、そっと部屋を出た。




***




翌日、紗香は何事もなかったように振る舞う。


悠馬は、覚えていないことに安心したような、

どこか、がっかりしたような複雑な気持ちを抱いた。


その後の引き継ぎは順調に進み、紗香は笑顔で言った。


「もう峰くんに任せても安心ね」


その言葉に悠馬は小さく頷いた。




***




紗香の送別会の前日。

悠馬は灰田に呼び出され、居酒屋へ向かった。


灰田はビールを一口飲むと、唐突に切り出した。


「俺、紅林さんに、告白した」


悠馬は驚いた顔を見せない。

灰田が不思議そうに眉をひそめる。


「なんで驚かないんだ?」


「だって、新入社員の時から、ずっと好きだって。

まだ、告ってなかったのかって感じだよ」


灰田は苦笑し、肩を落とした。


「見事にフラれたよ。好きな人がいるって言われた」


寂しそうな声に、悠馬は黙って耳を傾ける。


「だからもう、遠慮するな」


悠馬が口を開きかけると、灰田は遮った。


「俺はもう行くわ、頑張れよ」


そう言って席を立ち、先に店を出ていった。


悠馬は残ったビールを見つめ、心の中で呟いた。


「……時期が来たんだ」


そして一気に飲み干した。




***




送別会の帰り、二人でカクテルバーに立ち寄る。

グラスを傾けながら、悠馬は口を開いた。


「紅林さんがいなくなると、さみしくなります」


「ありがとう」


紗香は微笑む。


「向こうではプロジェクトリーダーですね」


「もっと現役でやりたかったのに。

管理職なんて柄じゃないんだけどな」


紗香は少し残念そうに言う。


「そうかな。紅林さんは、リーダーに向いていると思います。

僕だって、ちゃんと育ててもらいました」


「マイペースで手がかかったけどね」


紗香は笑った。




***




お酒が進むにつれ、紗香がぼそっと呟いた。


「あの時の返事……まだ、聞いてないんだけどな」


悠馬は飲んでいたカクテルを、思わず吹き出しそうになる。


「お、覚えていたんですか?」


紗香の真剣な眼差しに、悠馬はその視線に引き込まれる。


「聞かせてくれる?」


「……はい」


悠馬は静かにカクテルを飲み干す。

紗香はそれをじっと見た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ