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第1話 恋も仕事も戦いだ

五月の連休が終わり、社内には少し湿った初夏の空気が漂っていた。

みね悠馬ゆうまは、全社導入研修を終え、営業部での配属研修に参加していた。


「峰、今日もよろしくな。俺は負けないからな!」


隣に座った灰田はいだ圭太けいたが、唐突に声をかけてきた。


「……勝ち負けじゃないと思うけど」


悠馬が困ったように返すと、灰田は逆に闘志を燃やしたように笑う。


「その余裕も、今の内だぜ」


導入研修で悠馬の冷静な判断力を見て以来、勝手にライバル心を抱いているらしい。

悠馬は、曖昧に笑うしかなかった。


会議室の扉が勢いよく開いた瞬間、参加者に緊張が走る。


「よし、始めるぞ!」


現れたのは古参のあらし課長。

営業一筋の現場主義者という印象。

背広は少し派手めで、ネクタイの色も妙に鮮やか。

声は腹の底から響き渡る。

まるでバブル世代の営業マンがそのまま現代に残っているような豪快さだった。


「営業はいくさだ! 数字を取ってナンボの世界!」


いかつい顔で、机を軽く叩きながらしゃべり出す。

その姿は、一見するとパワハラを絵に描いたようにも見える。


だが不思議と憎めない。

勢いと熱気、時折、見せるチャーミングな笑顔。

新人たちは思わず引き込まれる。


(まだこんな人がいるのか)


悠馬は呆れながらも、目を逸らせなかった。


バブルの残り香をまとった課長――時代遅れなのに妙に説得力がある。

その豪快さは、今の時代には合わないはず。

なのに、なぜか場を動かす力を持っていた。


続いて紹介されたのは、研修担当の先輩社員――紅林くればやし紗香さやか

会議室に入ってきた瞬間、空気が変わった。


後ろでアップした黒い髪、白いブラウスに紺のタイトスカート。

清楚な印象を与える装いなのに、歩みは鋭く、視線はまっすぐ。

柔らかさと緊張感を同時に纏った姿に、悠馬は思わず息を呑んだ。


「この時期はお客様の入れ替わりで忙しいのに、

なんで私が新人の面倒を見なきゃならないんですか」


小声で漏らした不満が耳に届く。


嵐課長は笑いながら、


「君もリーダーとして部下を持つ立場になるんだ。これも勉強だ」


と諭す。


紗香はため息をつき、壇上に立つと新人たちに向かって言い放った。


「営業の極意は『侵略すること火のごとし』!

先輩方に迷惑をかけないよう、一刻も早く戦力になるように!」


その檄に、会議室の空気が一瞬張り詰める。

悠馬は「激しい人だな」と思いながらも、どこか頼もしさを感じていた。


「かっけ~……」


灰田が感嘆の声を漏らす。

悠馬は横目でその顔を見て、彼が何を考えているのかを察した。


灰田の視線は紗香に釘付けになっている。

研修が終わると、灰田は悠馬に宣言した。


「俺、絶対に紅林さんを落とすから!」


悠馬は目を丸くし、言葉を失った。


「……いや、そういうのは自由だけど、仕事に集中した方がいいんじゃない?」


「仕事も恋も戦いだ!俺は攻める!」


灰田の直球すぎる言葉に、悠馬はただ苦笑するしかなかった。


研修での紗香の颯爽とした姿を思い出す。


あの格好よさなら、灰田の気持ちも分からなくもない。


(ダメだ、ダメだ。今は仕事が第一)


慌てて、紗香の残像を打ち消すように首を振った。

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