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ノリで秘密結社を立ち上げたら入ってくるやつ全員秘密しかなかった  作者: 恋狸


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入社記念だひゃっほい

Side シャルミナ


 ごくり、と思わず喉が鳴った。

 "我が社の本拠地"。つまりはここのビルはあくまで隠れ蓑であり、本当の活動拠点はここではないことを指している。

 ……異能の気配は隠蔽結界以外にはあまりしていないのだけれど……ボス自体が高性能の隠蔽結界を張れる異能を有しているのかしら?


 そんなことを考えながらボスの後を付いていくと、彼はおもむろに一脚のソファをググッと寄せると、それなりに偽装が施されている床板をペラリと外す。

 すると、中から地下へと通じる梯子が見えた。

 

「……随分原始的なのね」

「"異能"頼りの人間ほど、意外とこういう原始的な偽装が功を奏すこともあるのさ。なにせ、専門的な知識が無ければ発見すらできないからね」

「なるほど……流石ね……」


 本拠地を異能で偽装しているのかと疑ったあたしが恥ずかしい。……そうね、確かに彼の言う通りでしかないわ。

 あたしが追っている存在は数々の異能犯罪を起こしている。だからこそ、使っている構成員のほとんどは異能を有した超常的な化け物であるがために、こういった原始的な偽装が効く。


 外のビルは異能で隠蔽し、中の本拠地は原始的な偽装を施す。ええ、考えれば考えるほど用心深くて良いと思えるわ。

 秘密結社らしいと言えばらしいけれど……。


「さて、付いてくると良い」

「……ええ」


 ボスは慣れた手つきで梯子を下っていく。

 そしてあたしはその後を付いていく。


「ぶっ……!」

「……?」


 するとボスの方から何かを噴き出したような音がしたけれど、下を見るとボスはすでに梯子を下りきってあたしを待っていた。  

 ……きっと気の所為ね。


「単純ではあるが君も道を覚えておくと良いだろう。こっちだ」

「扉が三つ……?」

「右の扉が正解だ。間違っても、他の扉にも入らないように」

「入ったらどうなるのかしら?」

「……考えないほうが私は良いと思うがね」


 これもまた原始的な罠ね。単純ゆえに引っ掛かりやすい。

 "異能者"は基本的に粗野で血の気がある者がほとんどだ。

 

 それゆえにヤツらは待つことを基本的に知らない。

 たとえここまでたどり着くことができても、虱潰しに扉を開けようとするに違いない。

 そんな浅はかな者がどのような結末を辿るのか……あたしでも考えたくないわね。


 少しの鳥肌を覚えながら、あたしは右の扉を開けたボスの後を付いていく。


「──さて、ここが我が【プロトコル・ゼロ】の本拠地だ。資金も人手も無いため、少々寂しい景観ではあるがね」


 そこには円卓と四脚の椅子があった。

 卓上には最新鋭のPCが揃っていて、使われている円卓も簡素ながら質感と光沢が美しく、高級品であることが分かる。


 ──少数精鋭。


 そんな言葉があたしの脳内をよぎる。

 恐らくボスはあまり構成員を入れる気がない。

 

 秘密結社であるためには秘密である必要がある。

 当然裏切りや情報漏洩を常に警戒しなければならない立場のボスにとって、有象無象を加入させても意味がない。


 ……あたしは選ばれたんだ。

 きっとヤツへの強い憎しみが、あたしをあの場に引き寄せた。


 これまでのあたしの人生は無駄じゃなかったんだ。  

 ボスに……同志に会えたのだから。


☆☆☆


 ふぅ……パンツ見えたの、めちゃくちゃ動揺して噴き出しちゃったけど気づかれてないかな。

 よくよく考えたら梯子を先に下ると上を見たらお尻が見えるのは至極当然の話か。やらかしてしまった。


 とはいえ案内する立場で先に降らせるのもなんか違うしな……。


 パンツは不可抗力です。

 純白とだけ言っておこうか。


 ……まあコスプレだし見せパン的なやつだよな。

 そこに動揺するのはあまりにも俺が未熟すぎる。もしも気づかれたら失望されるに違いないからな。何とか隠したけど……仮面しててマジで良かったわ。



 ……さて、ようやく無駄に最新鋭のPCが並んだ部屋に案内することができたけど……あ、そうだ、入社記念に変な骨董品でも渡しておくか。

 

「シャルミナ。君に渡す物がある。少し待っていてくれ」

「え、えぇ……分かったわ」

 

 少し困惑した様子のエルフさんことシャルミナ。

 俺は素早く部屋の隅の壁紙をペリッと剥がし、現れた紐をクンッと少し引っ張ると、宝物庫(笑)に繋がるロフトが現れた。


「そんな仕掛けまで……」


 シャルミナの少し驚いた表情が心地良い。

 そんな仕掛けまで、ってことは演技関係無しに「ここまで仕込むなんて君、やるじゃん!」的な称賛なのだろう。嬉しいね。


 俺はスタスタとロフトを上がり、喫茶店兼バーの準備中にもさらに増えた骨董品をガサガサと漁り始めると、最初のほうにノリで購入した錆びた刀剣が視界に映った。


 ……刀を差してる女の人ってカッコいいよな。

 これにするか。


 錆びてるから実用性とか多分皆無だろうけど。

 研げば使えるようになるんかな? いや、それだと銃刀法違反とかになる? 知らんけど骨董品だし良いでしょ。


 俺は適当なノリのまま刀を手に取りロフトを降りる。

 そして、俺をジッと見つめるシャルミナに一振りの刀剣を手渡した。


 未だに色褪せていない深紅の鞘に入った刀剣だ。

 普通に見た目でかっこよくて買った。


「これは……?」

「君の入社記念、と言ったところかな。由緒ある刀だ。大事にしてくれたまえ」


 手渡した刀をジッと見つめるシャルミナ。

 すると鞘から抜き放った瞬間、驚愕に表情を染めて「これは……!?」と非常に良いリアクションを取ってくれた。


 いやぁ、マジで演技派だな。

 驚く演技が本当に上手いんだよなぁ……。


「──本当に、これを貰っても良いのかしら?」

「あぁ。その刀に恥じぬ活躍を、私は期待している」


 そのセリフを放った瞬間、シャルミナは急に片膝を突いて刀を抱えながら震える声で言った。



「ええきっと。応えてみせます、ボス」

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