手掛かり
「────ようやくだ。"ヤツ"への手掛かりを見つけた。……とはいえ細い道であることに変わらないが……」
「……あの研究所のボスのことね」
「ああ。彼はあの時『俺はあの暗黒武術をあの方から修めた武人だ』と言っていた。恐らく彼の指すあの方という存在こそが我々が追っているヤツに違いない」
──午前3時。
【プロトコル・ゼロ】の定期会議にて、俺とシャルミナは薄暗い部屋の中で円卓に座りながら重々しい様子で会話をしていた。
幾らごっこ遊びと言えど、俺たちは一応『ヤツ』という裏社会のやべーやつを追っている設定で活動をしている。
まあ、何の目的も無く過ごすよりはガチ感が出るから、目標を立てることはマジでめちゃくちゃ良いことなんだよな。
それこそさっきの研究所襲撃の時のように、敵組織のボスが俺たちの追っている存在を示唆する事を言い残す……みたいなうまうまな展開を作り上げることもできるしな。
いやー、相変わらず厨二病をよく理解してらっしゃる。
やっぱりさ、シャルミナのバックに厨二病アドバイザー的な専門家がいたりしてもおかしくないと思うんだよね。……いや、むしろシャルミナこそが専門家である可能性もある。
自身を実験体に使って派手に厨二病研究に勤しむとは、実に向上心があって素晴らしいことこの上ないね。
これには『精神的に向上心のないものはばかだ』という名言を残したKさんもニッコリである。
「……警察のほうでは背後関係を洗ったそうだが、どうやらあまり情報を握ってはいないようだった。何やら【洗脳】の異能を持つ特別協力者による尋問でも我々が持っている情報と大差がないようだ」
「……くっ、相変わらず情報を隠すのが巧いヤツね……それでも、細いことには限りないけれどヤツへの糸口を見つけたことは確かよ。あたしたちの調査は無駄じゃなかった」
シャルミナがグッと拳を握って悔しさをあらわにするが、一転して彼女は希望を見たと言わんばかりの強い決意に満ちた瞳で俺を射抜いた。
確かにちょっとずつ真相に迫っている感はある。
俺的には第二章に入るのは一年後とかがベストかな……とは思ってる。その頃には構成員も粗方揃っているだろうし、勝手が分かってスムーズに進めるためのノウハウも育っているに違いない。
「そうだ。私たちの……君の働きに一切の無駄など存在しない。一つ一つがヤツを追い詰めるピースとなり、それはいつしかヤツの喉元を食い破る刃となる」
「ええ、焦ってはダメね。ヤツが逃げないような警戒網を張った上で事に及ばないといけないわ」
「ああ。そのための調査だ。……まあ尤も、結局は武力行使に頼らざるを得ない部分はあるがね。こればかりは仕方ないだろう」
「うっ……あたしがもっと隠密調査が上手ければ良かったのだけれど……大抵何かしらの犯罪現場に出くわしちゃってるのよね」
シャルミナがバツの悪そうな表情でしょんぼり俯いた。
なんだその主人公みたいな性質は!! 羨ましいぞ!! 代わってくれ!! ……いやあかん、俺が戦闘したら振るった武器が足に当たったりして悶絶するクソダサムーブをカマしてしまいかねん。
戦闘畑の人に大人しく任せるしかないねんな……。
俺が超人武術を破門にされなければ……ッッ。
また今度何かの構えとか技を教わりに行こうかしら……。
「それだけ君が未然に異能犯罪を防いでいるということだ。悔やむことはない。むしろ誇るべきことだろう。君はよくやっている」
「ボス……じゃ、じゃあ、今日の任務を無事に終えたら……また褒めてくれるかしら?」
シャルミナは美しい翡翠色の瞳を上目遣いにして、モジモジと照れたようにそんなことを言ってきた。
褒める? あー、確かそんなこと言ってたな。
頭を撫でるとかは流石に冗談だろうし、言葉で褒めることくらいなら全然やるよ俺は。自己肯定感を上げるのもボスとしての仕事だからな。
てかむしろ偉そうにふんぞり返ることと、部下を褒めることくらいしかやることないんですが……。あとは骨董屋でそれっぽい武器とか骨董品を買い漁るくらいかしらね……。
あ、そろそろ新商品とか入荷したかな。
最近行ってなかったし行ってみよ、
「幾らでも褒めるさ。お世辞など使わずとも、私の心は君への賛辞で溢れているからね。お安い御用というやつさ」
「……ふふ、ボスったら」
シャルミナはふんわりと笑って俺の腕を少しつついた。
……うおっ、急な身体接触。会話はともかく接触は慣れてないので勘弁しやがれください。
……さてさて、一旦冗談はこの辺りにしまして……。
秘密結社【プロトコル・ゼロ】の活動開始だ。
「……さて、ではシャルミナ。君に任務を言い渡す。どうやら最近、ここから車で二時間ほどの西十字辺りで異能犯罪の形跡アリ、とのことだ。どうやら組織立った動きではなく個人の活動の可能性が高いとされている。君にはその異能犯罪者の調査、及びヤツへの手掛かりを発見して欲しい。──いつも通り、非常時以外は戦闘禁止だが……まあ、これは最悪どうとでもなるから良しとしようか」
ちなみになんかネットで探すのが難しすぎて、今回は近くに絞って地域を分類分けし、スマホのアプリでルーレットを作成して適当に選んでみた。無作為に抽出というわけだ。
ある程度自由裁量があったほうがシャルミナ側も手配しやすそうかなとか思ったりね。
まさか適当に選んだ場所に怪しげな建物とか形跡があるとか、そんな漫画やアニメじゃないんだからあるわけねーし。
あとのことはシャルミナ!! 君に任せたぜ!!
俺は骨董屋でおっさんと戯れながら設定と企画の考案しておくからよ!!
「……西十字……最近、特異の実力者が異能犯罪者に襲われて大怪我をしたエリアね……あたしも最近知ったばかりなのに相変わらずボスの情報網は流石だわ……」
シャルミナがボソボソと独り言を喋りながら俺にキラキラ輝く瞳を見せつけてくるんだけど、もしかして何らかの正解でも踏んだのだろうか。やれやれ、シャルミナパイセンの思考を理解するのは相変わらず難しいな。
そんなことを考えながらシャルミナが退出して一人きりになったプロトコル・ゼロの活動拠点内で、俺はふぅとため息を吐きながら色々なことを考えていた。
「うーん、活動の範囲を広めるのはアリだな。このまま調査からの……何らかの手掛かりを掴んで攻めに出る……っていうフェーズが続くとそれはそれで飽きそうだし。常に新鮮さを求めていきたいところではあるよな。……げほっげほっ!! んだ風邪か? 最近鼻炎っぽくもあるし一回病院でも行っておこうかな……」
シャルミナに移したら大変だしな。
マスクがマスク代わりになってる説はあるけど、それでも用心するに越したことはない。
ここから近い病院ってなんかあったっけか?




