目潰しは鉄則
隠密行動と言ってもやることは精々周囲を警戒しながらちょっとずつ進むだけである。
映画とかでよく見る天井裏に潜みながら進むだとか、人が来た瞬間天井に張り付いてやり過ごすとか……生憎とそういう技能は持ち合わせていないし、入れそうな天井裏に繋がる道というのも発見することができなかった。
シャルミナのことだから用意してくれてるかなぁ、とか思ってたけど流石にそれは求めすぎだったようだ。良くない良くない。
そんなわけで俺とナインはコソコソと動き回りながらやたら滅多ら広い研究施設を彷徨っていた。
侵入して5分。敵はまだいない。
このまま敵がいない中突き進むのはちょっとロマンに欠けるかもしれんな……まあ、でも演者の数が足りていないなら仕方ないだろうし、あくまでメインで戦闘するのはシャルミナと女刑事だ。
ワガママばっかり思うのは本当に良くない……と心中で反省していると、不意にドタバタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「……ボスさん、敵です」
「ああ、分かっている。随分と早かったな」
キタコレ!!! ワガママ言って良かった!!
まあまあ、一人くらいは流石に用意してくれると思ったぜまったく……もしかしたらシャルミナじゃなくてナインが秘密裏に用意してくれた可能性もあるが……まあ、どのみち給料は弾む予定だから楽しみにしてくれ。
「なっ、お前は──実験体!?」
「ちがう。わたしはナイン」
なんか俺の存在がフル無視されたんだけど。ひどくね。
悲しみながらゴホン、と咳払いをする。
すると、ようやく白衣を着た如何にも悪そうな顔をしている演者が俺に気付いてビクッ! と体を震わせた。
「《感知》の異能を持つ俺がまったく気づかなかった……お前誰だ!! ナインを手引きしたのはお前だな!?」
「さあ、どうだろうな」
俺はそこで素早く袖口に隠し持っていた超強力懐中電灯を起動させ、研究者に向かって眩い光を放出させる。
「まぶしっ!!」
「ナイン、今だ」
「うん【念力】」
ナインが研究者に向かって手をかざすと、凄まじい勢いで吹っ飛んで行き壁に激突するとその場で沈黙した。どうやら気絶する演技をしているらしい。
──これが俺の最新兵器、目潰しである。
まあ……人に向かって強力な光を放出させるのは非常に危ないから本来はやるべきではないのだが、前回俺に向かってえげつない光量を浴びせた意趣返しというヤツである。
アレ、普通に一歩間違えたら失明するレベルの光だったからな? しばらく目しょぼしょぼして大変だったんだぜ?
あとは研究者がメガネというか……防護ガラスみたいのを目に纏っていたのが目潰し作戦をやる決め手になった。
付随して直接目に向けるのではなく、目をくらませる目的で少し下に光を当てるようにしている。
……うん、まあ後でお叱りを受けたら封印するけども。
ナインも何も言ってこないし作戦自体にきっと問題はない。
……いや、それにしてもあの研究者すごい勢いで吹っ飛んでいったな……自分から後ろに倒れ込んでもあんな感じにはならないだろうし、もしかしたら見えないようにロープとかを体に付けていて、合図があったら後ろに引っ張るようにしてる……的な仕掛けだろうか。うーん、実に大掛かりで素晴らしい。
さて……きっとここからは敵はあまりいないに違いない。
一人こっちに来ただけでシャルミナ側もだいぶん譲歩してくれてるだろうし……そもそも外から見た研究施設の広さ的に大人数を収容できるスペースなんて無いだろう。
──と、思っていたのだが、俺はシャルミナを舐めていたらしい。
☆☆☆
「「「いたぞ!! 侵入者だ!!」」」
──多くね?
「「「ぐわぁぁあああまぶしい!!」」」
「【念力】」
「「「ぐわぁぁぁあああ!!!」」」
コイツら馬鹿なんか?
5人くらい来たのでまとめて懐中電灯の光をぶっ放したら、まったく同じ姿勢で目を押さえた研究者たちがナインの【念力】で簡単に崩壊していった。
仮にも白衣着て研究してる奴らが単純な目眩ましに引っ掛かってるのはバカとしか言いようがないが、モブに知性を求めてもそれはそれでちょっと解釈違いなので良いことにしよう。
「ボス、情報を聞き出したり……しないの」
「この手の奴らは命欲しさに情報を売らないだろう。むしろ偽の情報でハメられるのがオチだ。どのみちここで悪事を働いている人間は殲滅する。虱潰しに探すのが一番の近道だ」
「そっか……」
このバカさ加減を見ていたら案外簡単に情報を吐いてくれるような気はするものの、あまりにも簡単に見つかったらそれはそれでロマンに欠けるからな。
結局は虱潰しに見つけて大団円が一番良いと思う。
尺的にな!!




