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ノリで秘密結社を立ち上げたら入ってくるやつ全員秘密しかなかった  作者: 恋狸


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食えない男

Side シャルミナ


 ────異世界からの来訪者。


 あたしは所謂、その存在の子孫らしい。

 生まれた時から"異能"と呼ばれる不思議な力を操り、尖った耳を持つ……まるで物語のエルフのような姿。


 だけれど、ここは現代日本であり、"異能"なんてものは当然一般的ではない。力が知られれば悪どい人間が利用しようと近づいてくることは明白だし、公にバレても政府が絶対に安心できるかと言われればそうではなかった。


 だからこそあたしたち家族はひっそりと暮らしていた。

 幸いなことに母は《変身》の異能を持っていて、特徴的な耳を隠して働くことができた。


 父はいない。

 母とあたしと妹の三人暮らし。

  

 当然学校には行けなかったけれど、知識や必要なことは母が全て教えてくれた。

 世間というものに憧れはあったが、特に不自由もなくあたしたちは暮らしていた。


 そんなある日の深夜。

 大きな物音と、くぐもったような悲鳴で飛び起きた。


「おや、起きちゃったかぁ、お嬢ちゃん。それは残念だ」

「え……」


 ──むせ返るような血の匂い。

 あたしに声をかけた男の足元には、血溜まりに伏す母と妹がいた。……持ち前の身体能力と鋭敏な感覚であたしはすでに理解してしまった。

 倒れる二人がもう二度と起きてこないことを。


「あぁっ……ああ……」

「ごめんねぇ、お嬢ちゃん。これも依頼でねぇ。殺したくて殺したわけじゃあないんだ」


 続いて、目の前の男が二人を殺したことを理解して。

 怒りと悲しさで、目の前が真っ暗になった。


「あぁぁぁぁあっっっ!!!!!」



☆☆☆


 気づくとそこにはバラバラになった男の遺体があった。

 手に持っていたのは男の所有物であったはずのククリナイフ。


 あたしは気づかぬうちに異能を発現させ、男を怒りのままに殺してしまったようだった。


「許さない……絶対に殺してやる……ぜっったいにっ、殺してやるぅぅう!!!!」


 男は言っていた。依頼だと。

 つまりは、母と妹を殺すように命令した人物は他にいるということだった。もっと大きくて、組織立った存在のようなものが。

 だからあたしは誓った。


 幸せを壊したヤツらを皆殺しにしてみせると。

 


 ──そうしてあたしは裏社会の傭兵として様々な依頼をこなし、母と妹を殺した組織の情報を追うことに決めた。

 勿論依頼に殺しは含まれていない。

 殺しの依頼だけは何が何でも断った。

   

 そうなれば、自分の欲望のために人を殺す──母と妹を殺したあの男と何も変わらないから。あたしは絶対に殺しだけはしなかった。



 ……しかしあたしには敵が多い。

 いや裏社会に長く生きていて敵を作らない人間なんてどこにもいない。いつどこでも命を狙われたっておかしくない世界だ。

 だからこそ、あたしが依頼の帰り道に待ち伏せされて襲撃を受けることも至極当然の話だった。


 ただ誤算だったのは敵の人数の多さと、敵の首領に"異能"持ちがいたことだ。


 何とか撒くことはできたが、いずれ位置を捕捉する異能持ちがあたしを探し出すことは間違いない。

 必要なのは高密度の隠蔽結界と休まることのできる場所。


 ──あたしは一縷の望みを掛けて異能を使った。


 『助けが欲しいか?』

 そう書かれた紙の持ち主の居場所を探る異能を。



☆☆☆


「はっ……はっ……こ、ここね……」


 足を引きずりながらとある寂れたビルの前までやってきた。

 異能が指し示した場所はここだ。


「……薄っすらと異能の気配がする。これは……隠蔽結界……っ!?」


 このビルには高密度の隠蔽結界が張り巡らされていた。

 恐らく、あのビラを辿ることでしかビルを発見できない仕様になっているのだろう。……こんな途轍もない密度の隠蔽結界……初めて見たわね。


 半ば諦観していた状況に期待感が高まる。

 勿論、敵の罠である可能性も十二分にある。


 むしろ、都合の良い助けなど期待するほうが無駄だ。

 けれど今のあたしの頼る術はここしかなかった。


「人の気配……限りなく薄いけれど……」


 ビルの階段を這いずるように上がる。

 足も体力も限界が近いけれど、敵がいるかもしれない場所で悠長に回復の異能を発動させる隙は無い。ここまでの傷を回復するには時間が掛かるし、失った体力は戻らない。


 それゆえにあたしは先に進むことにした。


「ここね」


 アンティークな木の扉の前。

 薄っすらと中に人がいる気配がする。恐らくソレがビラを書いた人間だ。


「ふぅ……」


 息を落ち着かせてコンコンコンとノックをする。

 しばらくして「──はい」と落ち着いた男性の声が返ってきた。


「失礼するわ」


 あたしは微かに緊張しながら扉を開ける。

 すると、そこにいたのは仮面を被った青年の姿だった。


 ……ふっ、身バレ対策は十分ってわけね。

 ……立ち姿は……一見素人のように見える。少なくとも前衛で肉体的に戦うようにはとても見えない。


 ……となれば後衛向けの異能を持っている可能性が高い。

 戦いになれば、今のあたしでも勝ち目があるかもしれないわね。異能の発動の隙を突いて一気に距離を詰めることができれば……。


 とりあえず敵か味方か判断する必要がある。

 あたしは懐に忍ばせていた例のビラを突きつける。


「この紙を書いたのはあなたよね?」

「……ああ、そうだが」


 ……っ、やっぱり。間違いなかったみたい。

 

「……位置を捕捉する異能かしら。……いえ、書かれている通り、あたしは助けて欲しくてここに来た」

 

 あれだけ都合の良いタイミングは狙っていなければできないことだ。恐らく、位置を捕捉する異能と近しいものを持っているとあたしは予測した。


「……なるほどな。確かに私は助けを求めている者に自動で届くよう設定したが……まさか君のような大物が引っかかるとはね」

 

 ……っ!! バレている……っ!!

 となると……初めからあたしを狙っていたわけね。チッ、やられた。やけに回りくどい殺害計画を立てるものね。

 希望を見せてから絶望に叩き落とす。

 よほどあたしに恨みを持った手合いかしら? 


「……っ、把握済みってことね。……はっ、随分と手の込んだ殺害計画を立てるじゃない。希望を見たあたしがバカだったわ」


 あたしは素早く太もものホルスターから二振りのククリナイフを抜き放ち、眼前にゆったりと構える男に突きつける。

 武器を持ったというのに、不自然なほどに男は堂々としていて焦る様子など微塵も感じられない。


「そんな傷だらけの体で何ができる?」

「あんたを殺すことくらい訳ないわ」

「強がりはよしたまえ。立っているのも限界なはずだ」

「強がりかどうか、試してみれば分かるんじゃないかしら?」


 軽い会話のやり取り。

 ……どこか芝居がかった様子にも見える、


 ……男に殺意は無いようね。

 もしかして……たまたま異能を持っただけの一般人である可能性はどうかしら。助けを求める者に届くというなら、その力を使って人助けをしようとしているバカの可能性も──、



 ──そんな思考は次の瞬間、どこからともなく現れた一枚のトランプを構えた男によって完全に打ち砕かれた。


「……君の言う通り、君を殺すことを目的としていた場合、あまりにもこの手法は回りくどい。殺すなら、部屋に入ってきた時点でそうしている」

「……っ、速い……!!」


 見えなかった……ッ!! 

 男の一挙手一投足を観察していたはずなのに……ッ!!


 いや一瞬の瞬き。その瞬間にきっと男はトランプを取り出して構えたに違いない。……こんな動きができて一般人なわけないわね。

 紛れもなく彼は"裏"の人間だ。

 濃厚な殺意を向けられてもなお悠然と構えるその胆力。

 あたしですら見切れなかった一瞬の動き。


 ……万全な状態でも勝てるかどうか。


 警戒を滲ませるあたしに向かって、男は近くのソファを指さして言った。


「まずは落ち着いたらどうかね、大物くん。コーヒーを入れよう」

「……ふっ、紅茶ではないのね」

「私は生憎と侵略された側だからね。茶会の内容は君の沙汰さ」


 ……ふっ、"裏"のジョークも知っているのね。

 こうなったらお手上げよ。


「……よくよく考えれば、こんな高密度の隠蔽結界が施された空間であたしを殺す理由は無いわね。……早とちりしてごめんなさい」

「君に余裕が無いことくらいは分かる。その程度での謝罪は不要さ。まずは傷の手当てをすると良い」


 お誂え向きに張り巡らされた隠蔽結界。

 彼の実力なら彼の言う通り、殺すつもりならこの部屋に入ってきた瞬間にあたしの首はきっと泣き別れになっている。

 目的は分からずとも、助けようとしていることに偽りは無いはず。


 そう確信して、あたしはようやく肩の力を少し抜いた。

 ……そして、しっかりとあたしが回復の異能を有していることもバレていたようだった。


 回復の異能は所有者の少なさから狙われやすい。

 あたしは余計なトラブルを引き起こさないためにも黙っていたのだけれど……食えない男ね。

 

 そして言われた通りに回復しているあたしに向かって、男はどこか申し訳なさげな声音で言った。


「……生憎と私は回復の異能は持っていなくてね」

「ええ、分かっているわ。恐らく前衛で戦う異能でもないのでしょう? 立ち姿がまるで素人みたいだもの」

「荒事には興味が無くてね」

「ふ、どうだか」


 ふふ、嘘ばっかりね。

 あの身のこなしで荒事に慣れていないわけないでしょう?

 きっと素人同然の立ち姿も実力を隠すカモフラージュだったりするのかしら? ええ、きっとそうね。そうじゃなければ説明がつかないわ。


 そんなことを考えていたら傷の治療が一通り終わった。

 すると男は改めてあたしに向き直ると、両手を組んでこう言った。


「────さて、ようこそ。秘密結社【プロトコル・ゼロ】へ。我が社は君を歓迎しよう」



 

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― 新着の感想 ―
主人公は無自覚なだけなのか偶然の連続なのかな?それか実はおじいさんが何かしたとか。先が気になる。
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