水とエルフ。されど見据える方向は同じ
「ハァッ!!」
スパンッ!! と小気味いい音が鳴り響き、シャルミナの振るった刀が白衣を着た男の首に吸い込まれるように放たれた。
「ちょっと何やってるんですか!?!?!?!?」
「はぁ? なんなのよ?」
それを見た黒髪ロングのパンツスーツを着た女性──九十九瑞穂は目を剥いてシャルミナに掴みかかった。
「殺害禁止の理念は!?!? あの仮面の人の命令は!?!? めちゃくちゃ殺しに行ってるじゃないですか!?!?」
ブンブン!! とシャルミナの肩を掴んで揺する九十九に、シャルミナは翡翠のような瞳を鬱陶しそうに細めながらため息を吐いて、先ほど斬り捨てた男を指差した。
「よく見なさい。死んじゃいないわよ」
「えっ……あんな思い切り振り抜いておいて死んでないはずが──ほ、本当に死んでませんね……」
「あまり情報開示はしたくないのだけれど……一々驚かれると困るから言っておくわ。《峰打ち》の異能……要は死に瀕するダメージを無効化して気絶させる異能よ」
「先に言っておいてくださいよ!」
シャー! とまるで猫のように威嚇しながら文句をつける九十九は、突入してから数分でこれだと先が思いやられると心中でため息を吐く。
(お、落ち着きなさい私。あの男の命令に従うのは癪ですが、今は協力者ですから……はぁ……)
彼女は普段かなり冷静に事を運ぶ。
水の異能通り、柔軟に円滑に臨機応変に対応する術は勿論身につけているのだが、さしもの九十九も自身と相性の悪いシャルミナ相手だとそう上手くいかないようだった。
しかしここでシャルミナはバツの悪い表情をした後、ふぅと息を吐くと九十九に向かって軽く頭を下げた。
「……ごめんなさい、こんな嫌がらせをしてる場合じゃないわね。一旦あなたがボスに食いかかったことは忘れるわ。切り替えるから、あなたも協力してちょうだい」
「え、えぇ……私も作戦中にすみませんでした……」
二人して微妙な雰囲気が流れる。
シャルミナも九十九も素の性格は二人とも良いのだ。
片やボスへの忠誠心が高く、片や自身の信じる正義への忠義が厚い。……食い違えば相性の悪い二人だが、今は互いの目指すべき方向が同じなのもあり、わだかまりは一旦捨てることにした。
「──整理するわよ。あたしたちはできるだけ派手に暴れる必要がある。侵入自体は無事に成功したけれど、警報システムが鳴り響いているわけでもない……だからこそ大技で注目を集めたいのよ」
「……そうですね。この研究施設は建てられたばかりなのもあって、セキュリティはかなりザルのようです。原始的な方法で人でも集めるとしましょうか──《市杵島姫神》【大瀑布】」
走りながら作戦会議を済ませ、九十九は目を瞑り集中して自身の"異能"──神を冠する水の異能を発動させる。
──【大瀑布】。
唱えた刹那、どこからともなく現れた膨大な奔流が全てを押し流すように狭い通路を襲いかかった。
通常であれば水の圧力や立地の都合上、簡単にカタが付いていてもおかしくないが、少なくとも壁や床が無事であることからシャルミナは眉尻をひそめて考察した。
「……空間を拡張する異能が使われているわね。見た目よりも研究所の中は広いようよ。……というかあんな膨大な水を出したら溺死者が出るんじゃないかしら?」
「この水は私の支配下に置いているので、人を絡め取ればそれを感じることもできます。死者を出すような下手は打ちません」
「そう。なら良いけれど」
「連発はできませんし、時間経過でこの水は消えます。陽動としては十分でしょうから……ここからが勝負の要でしょう」
言葉通り、数分経つと現れた水は何事もなかったように消えていき、また数分経つと……シャルミナの索敵により、かなりの数の人間が九十九とシャルミナ目掛けてやってくるのを感知した。
「随分と大勢の人間がいるものね。まあ、好都合よ。あたしたちの任務は殲滅。──全員首を跳ねれば解決よ」
「殺しちゃダメですよ」
「分かってるわよ!」
……意外とこの二人は相性が良いのかもしれない。
☆☆☆
「ふむ、どうやら始まったようだ。私たちも向かおうか」
「うん。全部、やっつけます」
「基本は隠密行動さ。見つかった場合は私が足止めをするから、君の超能力で気絶させてくれ」
「わかった」
多分、敵役の人たちも超能力のことは把握してるだろうから、ナインが適当に手をかざしたら良い感じに吹っ飛んで気絶する演技をしてくれることだろう。
うん、やっぱ超能力って相性が良いな。
擦り合わせをしておけば全部それっぽいことできるし。
まあ、ナインに任せきりなのもボスとしてダサいから……できるだけスタイリッシュに格好良く足止めをしてみせようじゃないかアッハッハ!
……なんかゴンさんが混じったな。まあいいや。
俺は軽くナインと打ち合わせをした後、少し騒がしくなってきた研究施設の中に入ると、そこは薄暗い通路と無数の配線が入り乱れた───ザ・悪役がいそうな謎の研究施設そのものの内装をしていた。
うおおおお!! さすがに興奮!!
これもしかして今回のためだけにリノベーションした説あるよな!? くっ……どれだけ金かけてんだよ!! お前ら好きだ!! ……しかも俺はただの見学者ではなく、この研究施設に潜入するという任務のある秘密結社のボスである。
いやぁ、嬉しいね。マジで。
これ以上俺の評価を上げたところで出てくるのはお金と骨董品くらいしかないですよ。
「……ふむ、道中の敵は着々と彼女たちが処理してくれているようだ。……二人が敵を引きつけている間に私たちは順繰りに部屋を回っていこうか。かなり広いようだ」
「……近づけばわたしの超能力で居場所はわかります」
「そうか頼んだ。きっと護衛もいるだろうが……まずは捜索だ」
超能力便利ぃ〜〜!!
目標近くに進んだら自動でムービー入ってストーリーが進むタイプのゲームみたい。ストレス無くて良いんだよなぁ〜。
うんうん……まあ、きっと捜索対象の近くに敵のボスとか強い護衛がいるのも当たり前田のクラッカーだから、それを倒せば任務完了って感じかな。
ま、シャルミナと女刑事が引きつけてくれているのもあって、恐らく道中に敵はほとんど出ないに違いない。
だって流石にそこまでの演者を雇うことはできんやろ。
☆☆☆
「うわっ!! なんだこの光は!!!」
「【念力】」
「ぐわぁぁぁあ!!!」
なんかわんさか敵いるんですけど、どゆこと??
良ければ高評価、ブックマークのほうよろしくお願いいたします。




