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ノリで秘密結社を立ち上げたら入ってくるやつ全員秘密しかなかった  作者: 恋狸


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顔合わせ

 あっという間に四日が経った。

 その間喫茶店とバーの営業を停止させ、各々研究施設襲撃ミッションのために情報を集めたり研鑽を積んだりなどをしていた。

 勿論俺は四日の間に自分にできることをした。


 その一つが、ネットの超アングラな場所にあった謎の超人武術家に弟子入りすることだ。

 流石に俺もなんか戦闘系の技術を手に入れたほうが良いかなぁ、って思ったわけで……だがしかしメジャーな武術学んだところでなんか面白くないよなぁ……という非常に浅い下心で俺は超絶怪しそうな武術家に弟子入りした。



 ──三日目で破門された。



 知らんけど才能が無さすぎるらしい。ひどい。

 この三日で学んだことなんて"強そうに見える構え方"だけなのに……。


 まあ、みんな演技だし学べることは学べたってことにしておくか。最悪適当に構えただけで、シャルミナが用意した演者が気を遣って倒れてくれるかもしれないし……。

 いやまあ今回俺の出番はナインと協力しながら人探しするだけだから戦う必要はないんだけどよ。


「……なるほど、超能力者か。できることは念力、テレパシー、共感覚……などなどか。で、なぜか俺のテレパシーはできない……と。ギリギリ現代で再現できそうかラインナップだな。やるやん」


 四日の間にナインは俺たちに手に入れた"異能"を共有した。

 どうやらそれこそが《超能力》というオーソドックスなものであり、俺はできることを聞いた瞬間に感心させられた。


 念力は事前に準備しておけば再現できるし、俺にテレパシーが効かないという設定であればどうにでもなる。

 共感覚はよく分からんけど何とかなるだろ。


 ふぅ……大掛かりな遊びほど楽しいものはない。

 設定に没入しつつ楽しむことにしよう。


 俺は仮面の下でニヤニヤしながらそんなことを思った。



☆☆☆


「あ、あなたは!?」

「……なるほど君か」


 ヤニおっさんの部下との待ち合わせ場所に着くと、そこにいたのは何時の日か俺にぶつかってパンチラしてきた女性だった。

 パンツスタイルのスーツを着こなし、黒髪ロングで気が強そうな……言われてみればアニメや漫画でよく見る"女刑事"っぽさを追求したような容姿と格好をしていた。


 そんな彼女は俺を見るなり警戒した様子で後退りし、驚愕に表情を染めながら声を上げた。


 ……ふむ、ぶつかったのは偶然じゃなかったのか。

 うーん、そう考えるとシャルミナはまるでサービスシーンのように俺にパンチラを見せるという謎演出をしていることになるが……そこまで気を遣わなくても良いのよ? もっと自分を大切にしましょうね。


 ──会う人会う人に伏線がある。

 そういう展開は俺嫌いじゃないよ。

 

 人生における出会いに無駄なんてない。

 俺は常々そう思ってる。


 あの日たまたま近所にいた爺さんと出会ったことも、俺の人生でかけがえのない大切な出会いの一つになっている。

 意図的でも偶然でも。出会いは大切にしようと俺は思っているのだ。


「……ボス、知り合いなの?」

「ああ、知り合いと言っても……少し、《《手荒な歓迎を受けた》》だけだが」

「──ッッ!?!? っ、バレて、いたんですね」


 ば、バレ? なんのことだ?

 よく分からんけど、ぶつかった出会いのことを婉曲に表現しすぎただろうか。

 あ、もしかしてぶつかったのがわざとだとバレたってことか? 確かに俺の言い方だとそう捉えられていても不思議ではないか。

 うーん、この人もアドリブと演技が上手いね。期待が持てる。


「……あなた、ボスに何かしたのかしら?」

「気にするなシャルミナ。今の彼女は味方だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「……ええ、そうね。そうでしょう?」


 シャルミナが眼光鋭く女刑事を視線で射抜くと、ビクッと一瞬震えたが気丈にシャルミナを睨み返して言った。


「私は……白木先輩を信頼しています。あの人の顔に泥を塗る真似はできません。ですから、今だけは貴方たちのことを仲間だと思うようにしますが……少しでも怪しいことをしたら逮捕しますから!!!」

「あなたねぇ……!」

「わ、わっ」


 一触即発の空気に置いてけぼりのナインがあたふたして某大人気漫画の白いヤツになっていた。

 俺は今にも掴みかかりそうなシャルミナの肩をぐっと引き寄せて耳元で囁くように言った。


「……彼女を《《信頼》》する必要はない。だが彼女の立ち位置に基づいた《《信用》》は認めるべきだ。少なくとも刑事である彼女が巨悪を見逃して私たちに牙を剥くことはないからな。分かるか?」

「……っ、わ、分かったわ。分かったから離れてちょうだい」

「……? あぁ、すまないね」


 なぜか耳どころか顔まで真っ赤になったシャルミナが半ば俺を押し退けるようにその場を離れた。

 え、流石に耳元で囁くのはセクハラだった? やば。

 いや流石にアイツは信頼する必要はないけど刑事だし協力はしてくれるっしょ! とかいう連携に支障が出そうな言葉を女刑事に聞かせるわけにはいかないやん……?


 演技ではあるが、必ずしも全て都合が良いようには作っていないはずだ。トントン拍子で上手くいくことに面白みを感じることはできないからな。

 あくまで彼女が用意するのはシチュエーション。

 だからこそ、俺たちは全力でそれに乗る必要がある。


「部下がすまない。我々は協力者だ。それ以降のことを今は考える必要はあるまい」

「分かりました。一先ず!! この場は見逃します。私もあの研究所の惨すぎる所業は許せませんから……ところで、そこのお嬢さんは一体? 見たところ未成年のように見えますが……」


 女刑事の視線が面頰とモノクル、マントを羽織ったオッドアイの少女……ナインを捉えた。……ふむ、どうやって説明しようかな。

 未成年って発言が出たことから、警察組織として未成年の同行を認めることはできない……という感じかしらね。まあ、一般常識的に妥当っちゃ妥当なんだけどね。


「──彼女は私たちの《《仲間》》だ。それ以上の詮索はやめていただきたい」

「……っ」

「そうですね……今は人手が必要ですし、やめておきましょう。《《今は》》」


 "仲間"という発言にナインの目が揺らいだ。

 どことなく嬉しそうな雰囲気を醸し出すナインから視線を外し、今もなお俺の姿を警戒した視線で見つめてくる女刑事に俺は微かに喜色を宿した。


 うーん、良いね良いね。

 やっぱ公権力と秘密結社は水と油だからな。

 絆されるよりも常に逮捕しようと目を光らせてくる刑事枠がいるのは、シチュエーション的に百点満点花丸でしかない。


 さて……名前は知らんけど一旦立場の自己紹介は済んだ。

 俺は任務先──研究施設が見える場所を陣取りながら小声で作戦を伝える。



「──それでは作戦を発表する。本作戦の目的は敵組織の殲滅と、とある研究員の救出だ。殲滅任務にはシャルミナと……刑事である君に頼みたい。白木巡から実力があるとのお墨付きもあることだ。期待している」

「あなたに言われなくても分かっています」

「あたしと行動するからには、まずはボスへの敬意のない口調を改めてみせるわよ」

「「…………」」


 バチバチと火花を散らす二人にほっこりする俺である。

 おっと、穏やかになっている場合じゃない。


「そして研究員の救出任務は私とナインで行う。それゆえに、殲滅を担当する君たちには陽動を兼ねて、できるだけ派手に暴れて欲しい。その隙を私とナインが突く」

「……うん、がんばります」


 ナインもやる気満々のようで重々しく頷く。

 うーん、俺があげた装備一式めっちゃ似合ってるな。

 やっぱり厨二×厨二が似合わないわけないんだよなぁ。


「勿論、殺害は禁止だ。気絶に留めるように」

「分かっているわ、ボス」

「ふーん、裏社会の組織にしては甘いんですね」

「殺害を手段に入れた組織は脆い。甘いことは重々承知だが、これが我が組織の理念だからね。君も文句はないだろう?」

「……そうですね」

  

 どこか女刑事が感心しているように見えるのは気の所為か? いやいやきっと気の所為に違いない。そんなんで絆されるようなチョロさであればちょっと俺としても困るんだな。

 まあまあ俺の見間違いに違いないさ。


 ふぅ、と一息ついて俺は小声のまま威厳のある声を出すという特殊技能を使って告げた。



「────作戦開始」


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― 新着の感想 ―
そこの跳ねっ返り刑事さんがちょろいんじゃ無い、ボスの謎のオーラと奇跡の噛み合わせが説得力を爆上げしてるんだ。
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