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ノリで秘密結社を立ち上げたら入ってくるやつ全員秘密しかなかった  作者: 恋狸


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No.9


 わたしは10歳の頃、異能犯罪者によって拉致され、とある研究施設に売られました。

 そこでは本来先天的、あるいは素養のある者しか持ち得ない"異能"を科学的に解明し、どんな人間も異能を発現できるようにする──という目的で設立された研究施設でした。


 そこにはわたしと同じように異能犯罪者に拉致された子どもたちが多くいました。

 家に返して。お母さんはどこ、お父さんは。

 そんな轟々たる悲鳴が溢れる中で、わたしは「あぁ、もうどうでもいいや」と全てに絶望して諦めていました。


 両親はわたしが八歳の頃に亡くなりました。  

 引き取られた親戚家での立ち位置も良いとは言えず、わたしは両親を亡くしたショックで若干自暴自棄になっていました。



「君たちはこの国の将来そのものだ。直に異能者は台頭し、異能者ではない者は淘汰される運命にある。──君たちは幸運だ!! そんな不幸な未来を憂慮した私たちによって救われるのだから!!」


 そんな語り口で研究施設の施設長は言いました。

 ……周りの子どもたちは彼が何を言っているのかまるで理解していなかったようですが、少なくともわたしはこの先にある未来が暗いことくらいは分かりきっていました。



☆☆☆


 ──数ヶ月が経ちました。


 日々の投薬と度重なる暴力にも近しい実験の数々。

 わたしの心は更に擦り切れ、もう感情を表に出すこともなくなっていました。


 100人いた子どもたちも、今やわたしを含めて数人しかいません。……きっと実験に耐えきれなくて死んでしまったことは容易に察することができました。

 

 辛い苦しい悲しい。一体いつからそんな感情すらも湧かなくなってきたのでしょうか。もう、全てがどうでも良かったです。


 そんなある日のことでした。


「……やあ、No.9。私は今日から研究に参加することになった白取(しらとり)由美(ゆみ)と言う。よろしく頼むよ」

「……はい、よろしくお願いします」

「あちゃー……こりゃダメだ。まあ、こんな環境にいたらそうなるのも無理はないか」


 丸メガネをかけた茶髪のショートヘアの女性──由美さんがわたしの部屋に来てそんなことを言いました。  

 No.9とはわたしのことです。

 研究者が入れ替わることは珍しくない。きっと新たに補充された人員だろうと、わたしは感情を消し去って挨拶を交わしました。


 わたしの様子を見た由美さんはやれやれと言わんばかりに大袈裟な反応を見せましたが、どこかその表情は怒りと悲しみに彩られているようにも《《見えました》》。


「やあ、No.9。ゴミどもを説得してね、しばらくの実験を凍結させた。……生憎と私の権限じゃここから出してやることはできないが、少なくとも当面の間は痛い思いをしなくても良い」

「そうですか」

「というわけでね、一緒に映画でも見ようじゃないか。ほら、私お手製のポップコーンだ。食べよう食べよう!」


 明るい声で言う由美さんにわたしは疑問と呆れを発しました。

 ……これは新たなデータを取る実験か何かなのでしょうか。まるで意味が分かりません。

 ……確かに彼女の言う通り実験は一時凍結され、わたしは副作用の酷い投薬も、原始的で暴力的な実験の数々もしばらく受けずに済みました。

 

 でももう、期待するだけ損というものでしょう。

 だから由美さん。わたしに構わないでください。


☆☆☆


「今日はね、この映画を見ようと思う。くっそムカつく研究員をひたすらボコボコにする映画だよ」

「そうですか」

「参考にすると良いよ」

「……え」


 由美さんは変な人でした。

 こんな非合法な施設の研究員にも関わらず、わたしに対して何も酷いことをしてこないのです。

 殴ることも蹴ることも刺すこともない。

 ただ隣でゆったり映画を見ているだけ。



 分からない……わたしには、この人が分からない。

 どうしてわたしなんかに優しくするのか。

 

 思い出したくないのに。人の優しさを。

 やめて。やめてください。

 

☆☆☆


「今日は趣向を変えてゲームをしないかい? 配管工の兄弟が敵をぶち殺しまくるゲームさ」

「配管工はどこにいったんですか」

「さぁ?」


 由美さんが来てから3ヶ月が経ちました。

 彼女は欠かさず毎日わたしの元に来ました。


 映画だったりゲームだったり本だったり。

 必ず由美さんはわたしに何か娯楽を持ってきました。

 

 ……こうまでされて、何も揺れ動かないほどわたしは感情の統制はできていませんでした。

 由美さんのお陰で、わたしは人の優しさにまた触れた。

 喜怒哀楽を、思い出すことができた。


「あっ、失敗しました……」

「なーに、残機は幾らでもある。わたしの残機はもう無いがね!」

「なんで毎回敵に突っ込んでるんですか」

「いやぁ、亀のモンスターがムカつく上司に似ててついついね……」

「ふふ、なんですかそれ」


 わたしの笑顔を見て、由美さんはニッコリ笑いました。

 すっかり感情を取り戻したわたしを、由美さんは自分のことのように喜んでくれました。


「そうだ、また何か作ろうと思うんだ。何が食べたい?」

「……由美さんの作ったオムライスがたべたいです」

「そればっかりだなぁ、君は……」


 わたしはこんな日々がずっと続くんだと思っていました。



☆☆☆


 ──次の日から由美さんは来なくなり、実験は再開されました。


「あぁ……うぅ……やだぁ……やだぁ……!!」

「チッ、あの女……実験体を腑抜けにしやがって……」


 人は落差に弱い。

 かつては耐えられた実験も……一度味わってしまった幸せのせいで、耐えられないほどまでに弱ってしまった。

 研究員は、転がるわたしを数回に渡って蹴ると舌打ちをして出ていきました。


「由美さん……どこ……どこなの……」


 傷ついた体で床を這いずるように移動する。

 ……涙が止まらない。


 ああきっと、わたしは由美さんに捨てられたんだ。

 もしくは最初から実験のためにわたしに関わっていて……。


 そんな悪い想像がぐるぐる頭の中で広がって耐えきれなくなってしまう間際────ドガァァァン!! と激しい音が鳴ったかと思えば、鍵のかけられたわたしの部屋の扉が爆発して吹っ飛びました。



「はぁ……はぁっ……あのクソ野郎ども……よくも私を謀ったなァ……? ナイン! 大丈夫かい!?」

「ゆ、由美さん……」


 跡形もなく吹き飛んだ入り口から入ってきたのは、頭から血を流して荒い息をあげる待ち望んだ人──由美さんだった。

 

「すまないね、ナイン。手筈が整うまで君を傷つけないようにしていたんだが、どうやら謀られたようだ。……ふっふふふ……もう耐えきれなくてね。辺り一帯を爆発で吹き飛ばしてやった」

「ゆ、由美さん……怪我……」

「まあ少しの間は平気さ。それよりも、ついにこの時が来た。ここから出るぞ」


 その言葉にわたしは驚きよりも──由美さんがわたしを裏切っていなかったことへの喜びを感じました。

 

「で、出るってどうやってですか……?」

「君はもう────《《使えるだろう?》》」

「……っ」


 由美さんの言葉にわたしは心臓がドキリと奏でました。

 誰にも言っていなかったのに──わたしがすでに《《異能を発現している》》ことを。


「その力を使ってここから逃げるんだ。宛がなくたって良い。ただひたすらこの場所から逃げるんだ」

「由美さんは……」

「私はどのみち直に動けなくなる。精々囮役が良いところさ」

「い、いやです……! 由美さんと一緒じゃなきゃ……!」


 わたしは久しぶりに大きな声を出しました。

 この地獄から抜け出せたとしても、隣に由美さんがいなければ何の意味もない。地獄を《《地獄と教えてくれた》》由美さんがいなければ、わたしの人生に意味なんてありません。

 

 しかし由美さんは「ふふ」と小さく笑うと言いました。


「今から私は君にズルいことを言うよ。──私の……君を逃がすためにした頑張りを無駄にしないでくれ。君が逃げてくれなきゃ、私はこうまでした意味がなくなる。……なに、私は死なない。物理的距離は離れるだろうが、心は繋がっている。……なぁ頼むよナイン。私の想いを、無駄にしないでおくれ」

「……ずるい……ずるいですよ……そんなこと言われたら……逃げるしかないじゃないですか……!」


 私は分かっていました。

 きっと由美さんがこの場を生き延びようと、わたしを逃がした由美さんを研究施設はきっと許さない。間違いなく裏切り者だとして由美さんを《《処理》》するでしょう。

 かつて大勢いた子どもたちと同じように。


 それでも……それでも、由美さんの想いをわたしは無駄にすることができない。そんなことを言われてしまえば、わたしは逃げるしかありません。


「さあ行けナイン!! 時間がない!!」

「──っ、いきて……!」

「ああ、また会おう」


 そう言って、わたしは後ろを向かずに走りました。

 きっと一度でも後ろを向いてしまえば決意が鈍る。

 由美さんの想いを無駄にしないためにも、わたしはただ走った。


「──いたぞ! No.9だ!!」

「……よけて……っ! 【念力】」

「ぐあっ!!」


 わたしが手を振ると、研究員はひとりでに壁にぶつかって沈黙しました。

 

 ──わたしの発現した"異能"は《超能力》。

 使える能力は【念力(サイコキネシス)】【読心(テレパシー)】【共感覚(シナスタジア)】……多分鍛えればもっと増えるとは思いますが、現時点で使える能力はこの三つです。


 そのうちの一つ、【念力】でわたしは次々に現れる研究員たちをなぎ倒すように前に進んでいきました。

 阻む壁や扉も全て異能で突破して、わたしはようやく外に出ることができました。


「っ、うっ……!」

「当たったぞ! 追え!!」


 銃弾が足や腕、体を掠めていきます。

 しかしわたしは足を止めることはできません。


 すべてを振り切って、わたしは研究施設からの脱出を果たしました。



 ──由美さんを見捨てたという、(カルマ)を背負って。

 

 


☆☆☆


 ──わたしを拾ってくれた仮面の男性の作ったオムライス。

 それを食べた瞬間に、わたしは由美さんを見捨てたことを再び思い出して泣いてしまいました。

 それに……この味は由美さんの作ったオムライスにそっくりの味でした。……優しくて、暖かい。陽だまりのような味。

 


 どうすれば良いのでしょう。  

 大切な人を見捨てたわたしは、どうすれば良いのでしょう。


 由美さんはわたしに逃げて生きてと願った。

 わたしにはこの場所が……この仮面の人も女の人も安心だとは思えません。


 ──《《なぜか仮面の男の人には【読心】が効きませんし。》》



 わたしは、どうすればよいのでしょうか。

 だれか、教えてください。

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― 新着の感想 ―
マスターの心読んじゃあかんw
主人公が認識疎外の道具を扱っていたと思われる骨董品屋を発見できたのも謎ですね
あやしげな骨董品のおかげか?w
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