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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
本編

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月夜の弔い

 お昼からは、香辛料に漬け込んでいた猪肉の調理を任された。


 ひき肉を作る道具を用意されたから、使い方を聞いて、肉を入れては持ち手を必死に回す。

 言われた通りの量の調味料を振りかけて、丸めて、大量の肉団子を生産した。


 ……結局、この日、厨房で人肉の話が出ることはなかった。

 人間が食べるのと同じ料理が今日も出来上がって、椅子に腰掛ける魔王に給仕された。


「本日は、魔王様のご要望通り猪肉団子をご用意いたしました。

 おかわりなども大量にございますので、どうぞ心ゆくまでお楽しみください」


「手慣れてきたな。ご苦労だった」


 猪肉団子作りは大変だったのに、魔王が食べたい献立だったのかと思うと釈然としない。

 でも切り分けて食べている魔王を見て……少しは幸福な様子で頷いたのを見ると、美味しくは出来たのかな、なんて料理人としての心が弾んで嬉しくなってた。

 そう、今は勇者じゃなくて料理人だから仕方ないね。うん。


 他の料理の給仕のためにも魔王のそばに控えていると、料理長たちが手招きしているのに気付いた。

 向かったけれど、裏では今日一緒に働いていた魔族たちが「ご苦労だんべ」って挨拶をしてくれた。


「今日の仕事はこれで終わりだ。勇者、お前も飯食ってこい」


「え、でもまだ他の魔族は働いてるよね。私も最後まで働かせてよ」


「仕事が長い分だけ、俺らは長めに休憩もらってるだ。気にすんでねぇ」


「フルルさんは、魔王様と一緒にお食事して差し上げてください。

 ……魔王様、いつも少ししか召し上がらないんです。

 でもフルルさんが来てからお食事の量が増えたから、料理長も喜んでるんですよ」


 私がたくさん食べるから、魔王はあれで釣られて食べていたんだ。

 驚いたけれど、確かに自分でも少食だって言ってた気がする。本当に、弱体化じゃなかったんだ。


「魔王様と一緒に楽しく飯を食うことが、お前の仕事ってことにするか?

 ほら、後はレミンに任せて行ってこい」


 今日一日を共に過ごした魔族が快く送り出してくれるから、これ以上何か言う方が野暮な気がして……下働きの姿だけど、私はそのまま食堂に戻った。

 席に着くと、魔王にお仕着せ姿をじっと見られたから顔を逸らした。


「何。また何か言いたいことでもあるの?」


「魔族が全員、好戦的ではないと理解出来たか」


 昨日は襲われたけど、あんなのは一部魔族だけだって言いたいらしい。

 食堂にいる魔族は人間を好んで食べないし、穏やかで、毎日懸命に働いているのは……私だって今日一日、目にして、耳にしてわかった。

 一緒に働いてるのが、……楽しかった。


「……ちゃんと理解出来たよ」


 私が今着ているお仕着せも、きっと人間の勇者のためなのに頑張って作ってくれた魔族がいるんだろうな。

 料理も何もかも、魔王城で働く魔族が誰かのために作った物だって……私は魔族自体をあんなに憎んでいたはずなのに……理解しちゃったことが複雑になって、ふんって鼻を鳴らしながらそっぽを向いてた。


「でも人間界に降りてきて、わざわざちょっかいを出すようなやつは知らないからね。

 切られたくなかったら魔界に帰れって、改めて魔王から伝えて」


「そうしよう。今日は城内で働いているのを安易に切られては困るから、僕も内情を見せたかっただけだ。

 食事にしよう。肉はどうする?」


「今日の肉団子は私が調理したんだよ、絶対に食べる。

 ……あ、でもさ。食堂で待つだけだった魔王は知らないんじゃない?」


「……? 何を?」


「揚げたての匂い。これがさ。すっごく、すーっっごく美味しそうだったんだからね!」


 魔王が笑った私に驚いたらしく、目を瞬いた。

 相手は敵の魔王だけど、料理長に『楽しく一緒にご飯を食べることがお前の仕事だ』って言われてるから、今だけは思うままに笑って見せた。


「カリカリに揚げられたお肉から、ずっといい匂いがしてるの。味見したいの我慢するの大変だったんだぁ。

 香ばしくて、お腹がぐうぐう鳴るくらい美味しそうな匂いがして……魔王はそういうの嗅がないから、少食なのかもしれないよ?」


「……ああ、そうだな。厨房には滅多に入らないから、もう忘れたかもしれない」


「また今度入ってみれば良いよ。料理長たちも喜ぶと思うよ」


 話しているうちに必死に味をつけて丸めた肉団子が出てきたから、私も初めて魔王城内で肉類を口にした。

 サクッと音を立てて割れた肉団子から……美味しい肉汁と、懐かしい味がした。

 レムスが作ってくれたものと似ている気がして、ついフォークに刺した肉団子を見つめてしまう。

 優しい神官見習いの男の子がお弁当に持ってきてくれて、私たちに振る舞ってくれた思い出を懐かしみながら頬張ったけれど、魔王も食が進むと聞いた通り、もう一つ口にしたのを見ていた。


 美味しい、私が作ったんだよ、って思ったら我慢出来なくて、魔王に肉団子を見せていた。


「ねえねえ、魔王。後で少しだけ、食堂から余分をもらってもいい?」


「夜食か?」


「うん。……夜食には違いないかな」


 不思議そうにされたけど、晩御飯も笑顔でお腹一杯まで食べた。

 魔王も食事量が新記録らしくて、料理長たちが私に親指を上げてくれたから、私も同じくし返した。

 厨房のみんなは勇者相手でも、最後まで優しかった。




 食事を終えると、皿に改めて盛りつけてもらったものを手にして、物見の塔まで走った。

 一番高い場所を目指して、平らな屋根の上へ飛び移る。

 着地して顔を上げたら……何も遮るもののない夜の風景が、目の前には一面に広がっていた。


 青々とした空の下に、空間感知で方角を確かめて、丸い肉団子を置く。

 汲みたての水が入ったコップも、隣に並べた。

 屋根に座って、故郷の方角に手を合わせて祈ると……しばらく風に吹かれながら、夜の景色を見ていた。


「……ねえ、レムス。聞いて。今日は魔王の城で働いたよ」


 冒険の間、村に帰ることは出来なかった。

 お供えしにも行けないから、空の向こうにいるはずのレムスに、両親に、村のみんなに、時折思い出のものをこうしてお供えしていた。


「私が作った肉団子が、昔と同じ味がしたから今日は持ってきたんだ。

 猪肉に、たっぷりの香辛料。

 ひき肉にするのも大変だったな……私は道具を使えたけど、レムスは多分、包丁だけだよね?

 そう思うとレムスが一生懸命作ってくれてたんだって分かる、いい体験だったのかもね」


 ティーカーと奪い合って食べた、思い出の味だった。

 レムスは私たちに嬉しそうに笑って、自分の分もどうぞって譲ってくれたね。


「魔族は全員悪い奴らだと思ってたけどさ。全員じゃないんだって。

 全てを愛して、全てを慈しむ……神官様と同じ言葉はきっと通じるんだって、レムスなら喜ぶかもしれないね」


 目の前に出てくる魔物は、私にとっては全てが悪だった。

 勇者として滅ぼすべきものだった。

 ……でも、信じていた悪は全てが悪ではなかった。


「今や魔族が人間擁護してるんだってさ。驚いちゃった」


 私が料理長を相手に殺気を立てても、厨房の誰もが敵意すら返さず仕事に打ち込んでいた。

 モサクは仇のはずの勇者を前にしても、普通に接してくれた。

 コカトリスたちは『倒されても勇者は天災だから仕方ない』って言ってくれて……仕事を教えて、一緒に働いてくれた。


 だから……もし、って。

 考えちゃったんだ。


 少し俯いて、空にいるはずのレムスからは顔を隠した。


 あと数年、遅かったら。

 ……レムスを奪った魔族が、村にこなかったら。


 魔王軍が魔王オルディアの軍勢なら……今は違った結果が待っていたのかもしれないよね。


 目を閉じたら、穏やかだった村の風景がいつだって蘇ってくる。


 ……村には今日もお父さんがいて、お母さんがそばで笑ってる。

 成長した三人組は、とっくに旅立って大冒険をしてるんだ。

 大きくなったレムスとティーカーと、世界平和のために依頼もたくさん受けてる。


 魔界にも行くけれど……魔王オルディアと会ったらレムスは和解しそうだし『魔王だけが目的じゃない、仲良し三人組の冒険はいつまでも続くんだ』って、ティーカーと納得しちゃうんだろうな。


 そんな未来があったのかもしれないって……人間擁護なんてしてる魔王の話を聞いたら、惜しくなっちゃったんだ。


 現実は、違う。

 ……もう取り返しなんてつかないから、空の向こうにいるはずのレムスに辛い顔なんて見せられないって、笑顔にしてから顔を上げた。

 ティーカーが立ち直れなくなる光景に、私は間に合うことすら出来なかった。

 暖かく過ごしてきた村の光景は、どうしたって蘇るけれど……空を仰ぎながら、耐えて笑った。


「ねえ、レムス。いつか、私がそっちに行ったらさ。また一緒に冒険行こうよ。

 お弁当持ってさ。この肉団子もいっぱい入れて、薬草とりに行きたいな。

 昔よりも私、ずっと、ずっと強くなったよ。武術も得意になったから見せてあげるね」


 魔王を倒した後なら、神様もご褒美くらいくれるかな。

 ほんの少しだけ童心に帰れる新しい夢を、もう一度ティーカーとレムスと冒険する夢を見せるくらい、きっとしてくれるはずだ。


 今はまだ、旅の途中。

 魔王を打ち倒す使命の、最中にいる。

 レムスも私が名残を惜しむほど悲しい顔をする気がして……改めて目の前の肉団子に手を合わせた。


「それじゃ、今日は私がいただきます。

 いやー、ティーカーたちがいないのに魔王城にいるなんて、冒険してるよね。

 ……でも本当は、ちょっとだけ寂しいんだ。レムスから言えそうだったら『早く行ってあげなよティーカー』って、叱ってあげてよね」


 お供えした肉団子を口にした。

 一人で食べたって、やっぱり懐かしい味だった。……むしろ冷えた方が、お弁当の味により近づいた気がした。

 夜空を見上げながら懐かしく食べていたら、追加の肉団子を持った魔王がやってきたから、飲み込み損ねるくらい驚いた。


「……故人を偲ぶには、良い夜だな」


「え。……え、何しに来たの。

 待って、まさか私の独り言、聞いてたの!?」


 驚愕に目を見張る私の前に、魔王の持ってきた肉団子が言葉もなく並べられてる。

 レムスも突然魔王が来たら驚くと思って睨みつけたのに、魔王オルディアは隣にまで座って空を見上げていた。


「調理場の皆が『今日は勇者がいて面白かった』と言っていたからな。

 仲間がいなくて寂しい勇者と、少しばかり話をしたい気分だから来たんだ」


「絶対に聞いてたよね?!

 っくう……別に、寂しくないもん。そのうちティーカーが助けに来てくれるって信じてるからね」


「幼馴染の剣士ティーカーか。

 ……勇者よりも勇者らしい男だったと聞いたが、そんなにいい男なのか」


 敵情視察だ。

 昼間の私と同じだから、私も今日働かせてもらった分くらいならって、金髪に青の瞳の幼馴染を思い浮かべた。


「ティーカーは……剣士としてずっと鍛錬してるから、強いよ。

 力は、私よりも上かな。でも技巧は私のほうが上。

 魔族のせいで親友を亡くしてから、変わってしまったけど……小さい頃は誰よりも勇気があって、人を引っ張るのに長けてた」


 魔族がティーカーを変えてしまった。

 目の前でレムスを食われたティーカーは、村での生活を思い出すのを嫌がって、慎重に考えるようになった。

 行動を起こすのは勇者の役目だって、私の仲間だから、って……冒険は一緒に立ち向かうものじゃなくて、追随するものになった。


 勇者の仲間として活躍するけれど、昔みたいに一番にはなりたがらない。

 二人だけで冒険を続けようとする私を諌めて、ミエットやウチカゲを連れて来たり、ティーカーは昔を忘れたがった。


 魔王は、静かに聞いている。


「……ごめん、今のティーカーの話をしようとすると、どうしても恨みっぽくなっちゃうんだ。

 村や、家族を……私たちのもう一人の幼馴染を奪った魔族を、私たちは憎んでるから。

 でも、レムスのためにも今は楽しい話がいいな……あ、そうだ、肉団子。ティーカーのずるい話があった」


「ずるい話?」


「昔、ティーカーと肉団子を奪い合って、最後の一個になったんだけどね。

 じゃんけんして、あっちむいてほいでどちらが食べるか決めようって、二人で勝負を始めたんだ。

 なのに、私が勝ったらもうなくなっててさ。ティーカーが『坂を転がって逃げ出したんだ』って慌てて追いかけ始めた。

 でも様子がおかしいと思ってレムスに聞いたら『ティーカーったら、最初に横向かせた時に、もう食べちゃってたよ』なんて笑っててね……」


 小さく笑い声が漏れたから、つい言葉を止めた。

 魔王も笑うんだ。

 ティーカーのずるがツボにハマったらしい魔王が口元を隠して密やかに笑うから、思わず見てしまった。


「そうか。……それで?」


「え、えっと、怒って追いかけ回したら、魔物が出てきたから喧嘩なんて終わっちゃった。

 倒したらお互いに握り拳合わせて『やったな、フルル』って笑われたら、忘れて許しちゃってたなぁ」


「ずいぶん仲が良かったんだな」


「だって生まれた時から一緒だからね。

 ティーカーがちょっとだけ早く生まれたけど、そのせいでお兄さんぶる時もあって……」


 村が壊滅させられてからは、旅の思い出がどこか乾いたものになった。

 とにかく体を鍛えた。

 世界を騒がせる魔族を倒して、頂点に立つ魔王を倒すために必死だった。

 ティーカーもそれが正しいって思ってて、次々に任務をこなして、苦労は苦労のまま、楽しい旅の思い出にはならなかった。


 だから……レムスとの思い出は魔族の襲撃で止まったままで、一緒にいるはずのティーカーとも、新しい思い出は増えなかった。

 昔のティーカーの方がいっぱい思い出せるのは、どこか皮肉にも感じて……とにかく楽しい話を口にした。


「五歳の時だったかな。野良猫に花瓶割られちゃって、犯人は私だってお母さんに怒られたんだ。

 ティーカーが庇ってくれたんだけど、お母さんが『わかったわ、二人でやったのね』って怒り出して、ティーカーまで巻き込まれちゃってさ。

 レムスが足跡見つけてくれたから二人とも信じてもらえたけど、信頼ないね、がんばろーって意気投合して……えへへ、ティーカー、実はすっごくいいやつなんだよ」


 魔王は私が取り留めもなく話しても、嫌がらない。

 それどころか、面白そうに目を細めて聞いてくれた。


 時折私も笑うくらい、星空の下は和やかに時が流れていく。

 話し疲れると、二人で空を見ながらお供えの肉団子をいただいて……あれ、魔王との思い出が出来たって気づいた。


「ねえ、ちょっと。勇者と思い出作ってどうするつもり? 魔王が勇者と仲良くなったって意味ないでしょ」


「月を見上げながら故人を悼むのは、良い習慣だろう。拒まず魔族も倣わせれば良い」


 そう言われたら、何も言い返せない。

 ……魔王も誰かを悼んでいるのか、静かに目を閉じた。


「……変な魔王だね、オルディアは」


 一緒に夜風を浴びてるなんて、少し前までの私なら鳥肌ものだったはず。

 でも……今日は敵同士なのに、隣にいたって不思議と悪くはなかった。

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