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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
黒い神編

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約束

 エルフェリスから、詳しい事情を聞いた。

 オルディアに伝えられない部分だって、もちろんたくさんあった。


 でも諦めた神からは、整合性の高い話を聞けた。

 ……きっとこれがレムスのお母さんの、嘘偽りない本当の気持ちなんだ。


『オルディアにも伝えていいですか』


『お好きにどうぞ。

 今更……何を言ったって、取り返しがつかないわ』


 諦めたような声が聞こえて、そのまま心が離れた。

 終わったらいてもたってもいられなくて、髪と体にタオルだけ巻いたらすぐにお風呂を出た。


『うわっ、フルル、なんで裸なんだよ!?』


 オルディアとティーカーは二人でベッドに座って、カードで遊んで待ってたみたい。

 振り向いて私を確認したティーカーが慌てて後ろを向いたし、オルディアにも目を丸くされた。

 勇者はタオルで大事なところは全部隠れてるから、自信満々で胸を張った。


「話はエルフェリスから全て聞いてきた! 今から語ることが真実だから、よく聞いて。

 ――オルディアのこと置いてったのは、もうお母さんの体が限界だったからだ、って言われた!」


 ティーカーが「え」って小さい声をあげて、部屋が静かになった。

 手にしたカードをベッドに伏せたオルディアが話を聞きたいんだってわかったから、素直に話した。


「エルフェリスは実験を受け続けてた。

 だから解放されたとしたって……人としての体はすでに、まともに生きられないようになってたんだって」


 魔王城では、日記に書かれていた通りの実験が行われていた。

 エルフェリスも攫われて、淫魔に快楽を植えつけられ続けて……やがて相手のことも深く愛してしまった。


 オルディアには、言わなくたってわかるはずだ。

 淫魔との快楽を知ってしまったら、人は忘れられなくなる。

 この世のものとは思えない喜悦を味わいたくなって、また淫魔を求める。

 深く知るほど刺激を求めて……破滅へ向かう。


 長期の実験を受け続けた体では、聖神であっても……平穏な日々を享受できなくなっていたんだ。


「優しい神官様とレムスに迷惑をかける前に、母親としての自分を最後の姿として思い出せるように、綺麗なまま葬ってもらいたかったんだ……って言ってた」


 神官様は優しく愛情で包んで、魔王の元へ向かいたい気持ちも許した。

 夫婦としてのことは詳しく言われなかったけど、神官様は本当に良い人なんだって……「あの人を最初に愛していれば幸せだったのに」ってエルフェリスに言わせるくらいには、何かあったみたい。


「レムスの本当のお母さんだって名乗らなかったのも、いずれ自分が神だって分かってもいいようになんだって。

 神の血を引いたって知るだけで酷い末路を辿る人を、エルフェリスは長い時の中でいっぱい見てきた。

 だからレムスには普通の子として生きて欲しかった。

 そうだ……今でもレムスが言った言葉を覚えてるって言ってたよ」


「僕の言葉?」


「うん。『自分たちは本当の両親じゃない』って幼いレムスに伝えた時に、レムスが神官様とエルフェリスの手を取って繋いだんだって」


 幼い子供だから受け入れられるか不安なエルフェリスの前で、レムスは悲しい気持ちじゃなく、あったかい気持ちで顔を上げて微笑んだ。


「『父さんと母さんが僕の家族になってくれて、僕は幸せです。父さん、母さん、ありがとう』って言ったんでしょ?」


 レムスはたとえ本当の両親じゃなくても、神官様たちを大切にしてた。

 拾い子でも大切にしてくれる両親こそが自分の本当の家族で、母親だと言い出せなかったとしてもお母さんはお母さんだって、ちゃんと思ってた気持ちも伝わってた。


「だから本当のお母さんだって言えなくても、慕ってくれたことが幸せで……家族として過ごせたことが、本当に嬉しかったって言ってたよ」


 幼い自分が伝えた言葉を、オルディアも覚えているのかもしれない。

 細められた深緑の瞳は懐かしそうに、少し潤んでいる。

 私もきっとレムスならそう言ったんだろうなって、純真な幼馴染を思い出しながら腰に手を当ててた。


「エルフェリスは村にいた日々が好きだったし、レムスのお母さんでいられることが嬉しかった。

 それでもこれ以上そばにいたらレムスたちを苦しめることになるってわかってたから神官様にも相談して、レムスのことお願いしますって伝えたんだ」


 真実を知って動けないオルディアが、少し顔をうつむかせる。

 私もベッドに寄ったけど、オルディアの袖を引いた。


「あと、新事実も教えてもらえたよ。

 レムスが覚醒して魔王城に連れてこられてから、エルフェリスは自分の体を捨てたんだって」


「……え?」


「もうレムスには会えないけど、魔王族になったって聞いて……何が起きるのかわからなくて、心配だったから。

 エルフェリスは神様に戻って、レムスのことをずっと見守ってたんだよ」


 村は滅んだ。

 レムスを見守ってくれていた神官様も、もういない。

 再び魔王城から放り出されたエルフェリスでは、入れ替わりに魔王城に攫われたレムスに会うことも出来なかった。


 魔族は、嘘も平気でつく相手だ。

 魔王族として新たに覚醒した子供を、どう扱うかも分からなかった。


 だから……エルフェリスは今度こそ体を捨てて、神界に戻ったんだ。

 オルディアのことをずっと気にして、何かあった時には手を貸そうとまで考えていた。


「神だからこそ、自分に出来る方法で子供のそばにいたんだって。

 でもオルディアは、神の力に頼らなくても自分の力で頑張った。

 だから手を貸す必要もなかったけど……神として見守ってただけでオルディアを捨てたわけじゃないし、今も大切だって言ってたよ」


 再びクラレイアが現れるまでの記述はどこにもなかったけど、人間界に潜伏してたわけじゃなくて、神界に戻ってたんだ。

 魔族として苦難を乗り越えて少しずつ成長していくオルディアを見守りながら、声もかけられなくても大丈夫だって安心していたらしい。


「私を呪ったのは、やっぱり魔王に未練が残ってたから、女同士の戦いだったみたいだけどね。

 でも無事に試練を乗り越えてオルディアにも諭されたから、これで恨みっこなし。

 エルフェリスの心は晴れたみたいだし、試練の報酬もお願いしてきたよ。

 厳しい試練には、その分ご褒美がないとねっ」


 豪胆な勇者は、今回も神にご褒美もねだってきたんだって笑った。

 全部話したら、オルディアは安心したみたいに微笑んで頷いた。ティーカーもベッドの上にあぐらをかいて、満面の笑みを浮かべてる。


『神界じゃ話し合いも中途半端になったから、俺も気になってたんだ。

 おばさん、フルル相手ならちゃんと話してくれたんだな』


「だって『勇者としてレムスのお母さんがいなくなった理由を絶対に教えてもらう』って約束したもん。

 教えてくれるまで呼び出し続けます、って言ったら話してくれたよ」


『ははっ、フルルは根性据わってるからな。

 さすが勇者。聞いてくれてありがとな!』


 小さなティーカーと拳をくっつけたけど、私だって聞きたかった事実に安心してた。

 今もオルディアのこと大切にしてるって教えてもらえたことが、何より嬉しかった。


『な、オルディアも。おばさんはちゃんと悪いやつじゃなかった。良かったな!』


 振り返ったティーカーはオルディアのそばにも飛んで二人で拳を合わせたけど、これでようやく一安心。

 ……って思ったら、唐突にくしゃみが出てた。浴びせかけないように慌ててそっぽ向いたけど、全身に鳥肌が立ってるから必死に擦って体温上げようとしてる。


「ごめん、寒くなってきちゃった。お風呂戻るから、もうちょっと二人でカードの続き楽しんでて。温まってくる」


『弱化で体力落ちてるかもしれないぞ。風邪ひかないようにゆっくり入ってこいよな』


 とにかく急がなきゃって思ったから、濡れたままだったのが悪いかも。寒い。

 体を押さえながらすぐにお風呂に戻ろうとしたけど、腕を掴まれた。

 気づいたらベッドの上にいて、あっという間にオルディアの膝の上に引き寄せられてる。


「んっ!?」


 唇も、奪われてた。

 体がオルディアの腕の中に入れられてるし、座ってる場所が足の間だから飛び上がりそうになる。

 そばに浮かんでたティーカーが真っ赤な顔で目を逸らしてるけど、私も同じ顔になってる。


「体がずいぶん冷たくなっているな」


「あ、え、えっと、全身洗い清めた後、エルフェリスにずっと声をかけてたから。

 温まってくるの忘れちゃったんだよね、あはは」


『よっし俺はそろそろ聖剣保管庫に戻ろうかな。カードはまた今度でいいよなっ』


「悪いな、ティーカー。送ろう」


 空間移動であっさり自室に戻されたティーカーを見てたら、囚われの勇者は濡れたタオルが引き下げられたから、慌てて胸を押さえた。


「フルルは約束を守ってくれたのか。……僕の代わりに聞いてくれるなんて、思ってもなかった」


 耳元で声がして、体が熱を持つ。

 温める方法が違う気がするけど、肌を撫でる指が冷たくなった体では余計に熱く感じる。

 またキスされるとゾクゾク全身が震えてて、舌が入ってくると呻きながら足を閉じてた。


「人肌で温め合おうか。約束を守ってくれた勇者に、僕からも褒美を与えたい気分なんだ」


「ひ、人肌で、って……っんん、耳っ……」


 敏感な耳を舐められて、声を上げながらオルディアの柔らかい舌を感じてた。

 色っぽい囁き声に魅了された身体が、自分から開いちゃう。

 腰を撫でられたらムズムズして、まともな声が出ないのに……私をベッドに押し倒しながら、オルディアが嬉しそうに笑った。


「約束、守ってくれてありがとう、フルル。……大好きだよ」


 湧き上がる愛情を伝えて、大切にしてくれる婚約者と唇を重ねる。


 神の試練を乗り越えた夜は、心の奥まで温もりを分け合えたような、素敵な夜になった。

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