可能性に賭ける
ティーカーは一晩中日記を読んでくれてたこともあって、寝不足。
だから回復させるためにも、なるべく起こさないようにしながら私たちは朝の支度をした。
お人形みたいに抱っこして食堂にも連れてったけど、ご飯の匂いに気づいたら起きて元気に食べ始めた。
夢中になっててお話も出来ないくらいの食欲だったから、私たちも何も聞けないまま朝食を終えた。多分食べて体力回復してるんだと思ってたら、山盛りご飯に顔突っ込んで寝てた。ちょっとうらやましい。
「それじゃオルディア、お仕事行ってらっしゃい」
「ああ、また後で」
食事を終えたら、オルディアは仕事があるから別れた。
私とティーカーは歴代魔王の書斎に向かったんだけど、ようやく目が覚めてきたらしく、肩の上に座ったまま大きく伸びをする相棒に目を向けた。
「昨日は先に離脱しちゃってごめんね、ティーカー。
魔王の日記、どうだった? 何かとっかかりになりそうなことってあった?」
『いーや。すぐに見つかったらいいんだけどなー。頑張っても活躍した感じじゃないのが残念。
夜遅くまで頑張ってたってことで察して。見つかってたら今頃、得意になって話してるって』
「あはは、ティーカーなら確かにそうかも。
じゃあ今日は二人で頑張ろうか。私も魔王の日記、勇者として読んでみたかったんだ」
『おうよ。ただ三代前とか古い魔王の日記は、フルルにあんまり関係なさそうだなーってことだけはわかったかな。
あとは……魔神もかなりの種類いるってことと、聖属性の神が魔属性に堕ちたり、魔属性の神が聖属性に上がったり、神も割と自由にしてるってこともわかった』
「え。神でも属性って変化するの?」
『長い時間の中で変わってる神もいるみたいだ。
例えば冒険神は元々魔神だったみたいだぜ。地獄の軍神カイナスって書いてあった』
「強そう。さすが冒険神カイナス、世界中の冒険者ギルドを一手に束ねてるだけあるね」
ティーカーが調べてくれたことを聞きながら書庫に入った。
見様見真似だけど奥の壁に手を当てると、オルディアの指輪に反応したみたいで石の壁が下がっていく。
廊下を光石が照らして、奥まで明るくなってる。
中に入ると背後の石が迫り上がって書庫と分断されたから、思わず二人で感心してた。
『自分たち魔王族の魔力を鍵にするとか、すげえよな、魔王。神くらい上位の存在だって、歴代の魔王も認識してるみたいだった。
そうそう、日記に序列分けしてる魔王もいてさ。
神が最上位、次に魔王と魔族。さらにその下に人間がいて、動植物がある。しかも神の一部は魔王と同格って書かれてた』
「魔王族は特に特別な種族みたいだからね。
この書斎も、魔王にしか開けない自分だけの場所として作ったんだ……すごいよね」
『まさか後世になったら人間の勇者が入るとは、思ってなかっただろうけどな』
自分を滅ぼしにくる神の手先で、一番の敵対者だ。
オルディアがいなかったら、きっと人間の私たちだけじゃ、歴代魔王の書斎には辿り着けなかった。
階段を下り切ると、東側の壁をティーカーが示したから二人で向かった。
本棚が壁いっぱいに備え付けられてるけど、ここは年代が新しいみたいで、まだ本を収められる空間が残されていた。
『前魔王の日記は調べてないんだ。
……オルディアの父親だって思ったら、俺一人じゃなんとなく調べ辛くてさ』
数代前なら歴史書だけど、近代なら顔を知る相手の日記だ。
それに……何が書かれているのかも分からない。
在位中の出来事だから、私たちの村を滅ぼした経緯も、日記に書かれているかもしれない。
一冊とって中を見たけど、速筆でも綺麗な文字が綴られていた。
『なあ、フルル。……正直、黒い神の正体は誰だと思ってる?』
……日記をティーカーが一人で読めなかったのは、きっと同じ相手を考えてたからなんだろうな。
「最悪の場合は、オルディアの『本当の』お母さん」
神官様夫妻はレムスを拾った。
育ての親になってくれた。
本当の父親は前魔王だけど、『生みの親』が誰かは分かっていない。
金髪に青い瞳の幼馴染が悲しい顔をして何も言わないのは、聖剣の守護者として神界にいたから、……もう私たちにはオルディアが半分淫魔で半分『何』かが分かってたからだ。
「オルディアは神の血を引いてる。
もしかしたらあの黒い神が本当の母親じゃないかって、ティーカーも思ってたんでしょ?」
神界で、オルディアは私の魂が砕けかかったのを回復した。
魂の回復は、普通の魔法じゃできないんだ。
魔王族には魔王族だけの特別な魔力があるように、神族だけが持つ特別な力しか魂を癒すことはできないって……私たちは神の試練を受けたから知っていた。
つまりオルディアは半神、半魔だ。
私の胸に呪いを刻んだ黒い神は、もしかしたら……愛した魔王を勇者に倒されたことを恨む女性神かもしれない……そう考えてた。
「神に恨まれる理由がわからなかったけど、オルディアが半神だって考えたら、前魔王を倒したことが恨みの原因に変わっちゃうんだよね。
……でも正直、前魔王が何柱侍らせてたか分からないでしょ?
だから産みのお母さんが敵じゃなきゃいいな、って思ってるよ。
魔界に降りて淫魔に侍らされてた神が二柱以上いた可能性は、まだ残ってるからね」
前魔王妃はいなかったみたいだけど、快く思ってる相手がいれば日記のどこかに名前が出てくるはず。
勇者を恨むほど心を交わした相手なら、尚更だ。
……まだオルディアを産んだ女性神が敵だって、確実に決まったわけじゃない。
ティーカーは私の答えを聞いて明るく笑うと、下の方の段から自分くらいの大きさの日記を引き出した。
『俺も同じ考えだから怖かったんだ。
でも可能性に賭けるなんて、最高に勇者らしい答えだったな。さすがフルル。
よしわかった、俺も腹括った。オルディアが昼ご飯には呼びにきてくれるらしいからな。それまで集中してやろうぜ』
「うん。頼りにしてるよ、相棒っ」
握り拳を合わせた私たちは、日記の解読に取り組んだ。
ティーカーは古いものから始めて、私は代替わり直前から、二人で半分ずつ読破することにした。




