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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
黒い神編

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夢に見た約束

「……」


 目を開けたら、聖剣を抱えて魔王の部屋のベッドにいた。

 私を抱いて眠ってたオルディアも起きたらしくて、深緑の瞳が開く。

 なんとなく見つめあって「おはよう」って言ったら、私から背を伸ばして唇を重ねてた。


 柔らかくて、あったかい。

 オルディアの綺麗な顔が驚いてるけど、夢の中みたいに『いい子いい子』って頭を撫でた。


「おはよう、フルル。……どうした、呪いか? ずいぶん積極的だな」


「違うよ、なんとなくしたくなっただけ。

 今はただ……そういう気分だったんだ、えへへ」


 温和で純真だったレムスは大人になって、魔王になった。

 銀の髪に深緑の瞳に変わって、私より背丈もずっと大きくなった。

 今は婚約者になって私の前にいるんだって、オルディアの綺麗な顔立ちを両手で挟んで見つめた。


 私の右手には、まだ慣れない聖銀の輪が光っている。

 お互い裸なのにも気づいて照れ臭くなっちゃったけど、でも度重なる理不尽も全部乗り越えてオルディアは頑張ってきたんだよねって思ったら、愛おしくなって……私から顔を近付けて、もう一度唇を重ねてた。


「夢を見たんだ。子供の頃の夢。

 レムス成長したなぁ、おっきくなったなぁ、って思ったら、なんとなく……キスしたくなっちゃった」


 笑う私の前では、銀のまつ毛がパチパチと瞬いている。


 ……私が死んじゃったらきっとオルディアが悲しむって、走馬灯のように見た光景があったから、あの日のことを思い出せたんだ。


 レムスと一緒に神界に行ったのに、会えたのは黒い神だけ。

 他の神とは言葉を交わす余裕さえなかった。

 だからまだ約束は果たせてないんだって事実も、夢に見た気分だった。


 神の試練を乗り越えて、改めて約束を果たすためにも、神界に行かなきゃ。

 オルディアを見つめながら決意を固めてたら……私が頬を包み込んだままになってた魔王が、淡く笑ったのが見えた。


「フルルの呪いを早く解かないとな。

 何が引き金になるかわからないなんて、軽率になれないのが困る」


「え? 軽率に……何?」


「さあな。キスされた上に、寝起きから婚約者が可愛くてたまらない僕の身にもなってくれ」


 オルディアの言葉の意味がわからなくて、ポカンとする。

 でも小さく吹き出した魔王を近くで見て、私も頬を包んでくる指を意識して……ようやくわかった頃には真っ赤になってた。


「……こうして触れれば、僕のことを意識してもらえるか」


 オルディアから額にキスされて、びっくりした体が跳ねる。

 見上げたら淫魔らしい綺麗な顔が微笑んでて……耳に髪をかけられただけなのに、肌を撫でた指先の感触だけで震えてた。


「僕はフルルのことが大好きなんだ。

 でも弱化の呪いもあるし、あまり手出しできない。……早く呪いが解ければ良いのにな」


 涼やかな声も、甘い言葉もくすぐったいから、必死に胸を押さえながら悶えるのを我慢した。


「悪かった、呪いが痛むのか」


「ちっ、違うよ。胸がギュッとして、その……好きだなぁって、思っただけっ」


 私も呪いがかかってる胸の間を見たけど、文字は動いたりしていない。

 ときめくたびに発動するわけじゃなくてよかった。

 早く呪いを解きたい、できれば不純の呪いの発動条件だけでも教えて欲しいって思うくらい、鼓動が跳ねて止まらないから、つい昨日刻まれた赤い痕を触って気を紛らわせてた。


「……そうか。なら良かった」


 オルディアも少しだけ照れくさそうにしてる。


 ぽすんっ。


 枕の向こうで寝息を立てるティーカーが、大きく寝返りを打ったのに気づいた。

 聖剣と共に戻ってくる幼馴染が気持ちよさそうに寝てるのを見たオルディアが、ちょっとほっぺ膨らませながら、手を伸ばして揺り動かしてる。


「ティーカー、起きろ。昨日はいつまで日記を読んでいたんだ」


『うーん……あんま、寝てない……聖剣に引き寄せられてベッドに来てから……ねた、から……ぐー……』


 オルディアの手で揺り動かされてるのに、ティーカーまた寝ちゃった。

 聖剣の柄くらいの大きさの幼馴染は、シーツにうつ伏せになって脱力している。

 疲れてるみたいでぐっすりだったから、私も起き上がって、寝返りに飛ばされたハンカチのお布団をかけ直してあげた。


「昨日はよっぽど頑張ってくれてたのかな」


「誰かのためになら全力で頑張れるのは、ティーカーの良いところだからな。

 眠気すら跳ね除けて、調べ物に取り組んでいたのかもしれないな」


 優しくて、私よりも勇者らしい幼馴染だ。

 一人でだって苦手な文字とも戦い続けたんだろうなって思ったら、サラサラの金の髪を撫でてた。

 眺めてたはずのオルディアが太ももに頬を擦り寄せてくるから飛び跳ねそうになったけど、拗ねてちょっと唇尖らせてるのが可愛くなって、銀の髪を一緒に撫でて笑っちゃった。


「ティーカーだけずるい?」


「……うん。僕もまぜてほしい」


 オルディアが甘えてくるのが可愛くて、また胸が締め付けられてる。

 淫魔らしく女性を魅了する大人っぽい顔になったのに、小さい頃のレムスみたいに近づかれると変にドキドキする。


 艶やかな銀の髪もいっぱい撫でてあげたら満足そうになって、起き上がった魔王に、唇にキスされてた。

 深緑の瞳に見つめられたら真っ赤になっちゃったけど、胸の呪いは微動だにしない。

 不純の呪いの発動条件はやっぱりときめきだけじゃないってことは、一緒に見ながら感じてた。


「この程度ならフルルに触ってもいいらしいな。

 ……あと九日も付き合わせないつもりだが、少しずつ試していこう」


 抱き寄せて優しく寄り添ってくれるだけでも嬉しいのに、一緒になって考えてくれるのが幸せで、オルディアの腕の中で自然に頷いてた。

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