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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
黒い神編

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誓い

 オルディアの執務室に行くと、仕事の報告とか色々終わったみたいで、副官さんと打ち合わせしてる最中だった。

 悪魔貴族の副官さんは何人かいるけど全員優秀。顔じゃ見分けがつかないけど、五つ子らしい。

 オルディアが後を任せて一緒に部屋を出たら、廊下の向こうを示された。


「ついてきてくれ。フルルに見せたい場所がある」


 ティーカーと二人で連れてこられたのは、魔王城の書庫だった。

 神の名を知らなきゃいけないから、今日はみんなで調べ物するのかなって思いながら書庫に入ったんだけど……オルディアはもっと奥に進んで、何の変哲もない石の壁に触れた。


「え」


 壁の石が、静かに揺れて下がった。

 中に入っていくからティーカーと二人で「隠し部屋だ」って目を合わせて、ダンジョン攻略みたいにドキドキしてる。


 魔力に反応する光石に照らされる廊下には、今度は地下に続く階段が出てきた。

 足を踏み入れて数歩進むと、もう後ろの壁は元通りになっている。

 魔王城にこんな場所があったんだって驚きながらオルディアについていくと……広い空間には、隠し書庫が広がっていた。


 上の書庫よりも豪奢で、天井や壁の装飾も凝っている。

 床も神樹の板張りかもしれない。滅多なことじゃ取れない希少品だ。

 執務室以上に高そうな机や椅子まで、隠し書庫には用意されている。


「え、魔王城に、こんな場所があったの!?」


「歴代魔王の書斎だ。……どこよりも居心地が良くなるように作られているから、僕もたまに来る。

 機密文書もあるが、もし必要なら見ても構わない。

 相手が魔神なら、この書庫に収められたものの方が、表にある書庫よりも参考になるだろう」


 人間界には聖なる神の参考資料はあるけど、魔神側の資料はない。

 興味深く本を手にしたけど……『禁呪にて封印中。開けると呪う』って書かれてるのは気のせいかな。あれ、持ってるだけなのに、すっごく寒くなってきた。


「オルディア。読めない本もあるみたいだけど……ん?」


 振り返ると、魔王に手を取られてた。

 指に硬い聖銀の輪を装備されたから、確かめたけど……すごい、細かな装飾が凝ってて綺麗だ。

 それに本を持ってても、指輪から暖かくて清浄な気が吹き込んでくるみたいで、寒気も引いた。


「フルルに贈ろうと、少しずつ作っていたんだ。僕の魔力が練り込んである」


 手を持ち上げたオルディアの綺麗な顔が近づいて……聖銀の輪に、唇が触れた。


「っ!?」


 柔らかな感触に、体が跳ねてる。

 唇が私の指にも当たってるから全身が一気に熱くなって、魔王が微笑んでるのから目が離せない。


「僕の未来の妻へ捧げる。……フルルは剣を振るから邪魔になるかと思って、まだ婚約指輪も渡していなかったからな。

 これを機に、渡そうと思ったんだ」


 指輪の意味に気づいて、ますます顔が赤くなる。

 婚約指輪なんて想像すらしていなかった私がオルディアを見つめるうちに、指先にも一本ずつ唇が触れた。

 思わず本を置いて、むず痒くなる胸を押さえてる。胸の真ん中がくすぐったくて、もぞもぞする。


「この書庫に入り、文書を閲覧するための鍵にもなる。

 歴代魔王の日記なんてものもあるから、資料として興味があるなら見てみるといい」


 この聖銀の指輪は、魔王妃への誓いなんだ。

 勇者の私でも、本当に妻としてそばにいて欲しい。

 だから魔王城の秘密も共有してくれてるなんて、熱い頭で考えてて……甘く微笑んでる幼馴染に抱き寄せられながら、腕の中に入ってる。


「勇者フルルに、永遠の愛を誓う」


 胸がドキドキして、深緑の瞳から目を離せない。

 見つめあってるだけで顔が近づいて、込み上げてくる気持ちに息を呑んでる。

 軽く鼻が触れ合う感触があったから目を閉じたけど、それ以上来ないから、思わず瞼を開けてた。


 鼻をくっつけるだけでキスまでしてこないオルディアに、焦らされてる。

 なのに目を閉じて触れ合った場所を楽しんでる顔も、銀のまつ毛を上げて柔らかく微笑む仕草も、全部卑怯なくらい格好良い。

 待ち侘びてる唇が触れ合ったら、嬉しい気持ちでいっぱいになっちゃって……自然に身を預けてた。


 囁きで魅了されてないのに、オルディア自身に惹かれてる。

 オルディアが抱きしめてくれると、心拍数が上がる体に気づいた魔王が満足そうに頭のてっぺんに唇をつけてくるから、ビクついてた。


「あ、ありがとう、オルディア……指輪、大切にするねっ」


「……フルルが喜んでくれて、良かった」


 顔を上げて柔らかな微笑みを見た胸の内側が、どんどんむず痒くなってくる。

 私がオルディアに顔を押し付けて何も言えなくなってると、静かに紙のページをめくる音が聞こえた。


「……いつも置いてきぼりにして悪いな。

 ティーカーは、何を読んでいるんだ」


『ん? オルディアとフルルがイチャイチャしてるの、聖剣の中にいる時から見てたから慣れてる。だから俺のことは気にしなくていいぜ。

 今は魔王の日記読んでたんだけど、これは三代前っぽいな。

 ……かなり前の年代だけど、この部屋は紙もインクも劣化しないのか? 綺麗に残ってる。

 もしかして日記、オルディアのもあるのか?』


「僕のはここに置いていない。せいぜい前魔王までのものだ」


 そうだ。私も日記、探さないと。

 体を離して、私も書庫に目を向けた。


 ……オルディアを求める気持ちが、無性に湧き上がってくる。

 今じゃないって必死に押し殺してるのに……少しずつあの白い指が心臓にかかっていくような痛みが、強くなってくる。


「……? フルル、どうした」


「……っだい、じょうぶ……私も神の名前、探さなきゃ」


 普通じゃないって、悟らせたくない。

 なのに、意識して気持ちを押さえ込むほど、痛みが増していく。


 抵抗したら、まさか心臓を握り潰そうっていうのか。


「……っ……!」


「フルル!?」


 ついに胸の中央に走った激痛に膝から力が抜けて、私は立てなくなっていた。

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