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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
黒い神編

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刻まれたもの

 目を開けたら……周囲は夕暮れが広がり始めていた。

 森の中だ。

 魔物は倒してあったから、魂だけ移動しても平気だったみたい。


 腕に抱き込まれてるって気づいたけど、オルディアの膝の上に座っていた。

 灰の山が風に乗って移動するサラサラとした音が、辺りには続いている。


 ……体がやけに重いのは、魂が離れてたからかな。

 考えながら神官服の胸にもたれかかってたら、オルディアがギュッと抱きしめてきたからびっくりしちゃった。


「フルル、体はなんともないか」


「う、うん、大丈夫。黒い文字を刻まれてたけど、特に魂魄の乖離もないみたい」


 むしろ今、抱きしめられてることでドキドキする。

 命がけの状況だったからかな、無闇に意識してる気がする。

 小さな体のティーカーも倒れかかるみたいに私のそばにいたけど、目を開けた。


「ん……よし、みんな無事だな。

 それじゃ撤収しようぜ。魔石も白くなってるし、依頼報告して晩飯だ、晩飯ぃ」


 体を逸らして伸びたティーカーが、いつもみたいに先頭を行こうと浮き上がる。

 私も立ち上がったけど、腰の聖剣を重く感じたから、悩んでたけど口にした。


「ごめん、街に戻ろうかなって思ってたけど、予定変更したいな。

 空間移動で、もう魔王城に戻っちゃおうよ」


 ぐきゅるるー。


「討伐も成功したんだし、美味しいご飯をお腹いっぱい食べて、英気を養おう!」


 ちょうど良い時に鳴ってくれたお腹のおかげで、オルディアも目を瞬いてる。

 ティーカーが口元をにやつかせてるけど、私も笑っちゃった。


「なんだか体が重くて。冒険者としての判断は、今日はもう無理せず野営かなーって気分なんだ。

 でもオルディアが連れ帰ってくれるなら、今なら厨房借りて、お礼に料理も出来ちゃうくらいは元気だよ?

 だからよければ改めて、料理で二人にお礼させてよ。ね?」


「……僕は、構わないが……冒険者ギルドへの報告は、後日になっても良いのか」


「うん。討伐後は打ち上げするパーティもあるし、冒険神も報酬渡すのが後になっても文句なんて言わないよ。

 だから今日は、冒険おしまい。

 またオルディアが行ける日に一緒に報告することにして、魔王城の美味しいご飯で気分転換しよう!」


 手を引くと、オルディアも私を見て頷いてくれた。

 魔王城には、すぐに帰れた。

 聖剣をオルディアに預けたら、私は灰だらけの体を井戸水で清めてからお仕着せに着替えた。


 ――体が重い理由にも、気づいた。


「……」


 とにかく今はオルディアも帰ってて、料理提供までの時間がないよね!

 狼男の料理長もバタバタしてるはず……って考えながら厨房に入ったら、やっぱり戦場みたいな状態になってた。


「料理長、忙しいところごめん。

 今日はオルディアとティーカーに、私から一品作りたいんだ。

 だから何使っていいか、教えてもらえるかな」


「あぁん? なんだ、やっぱり戻ってたのかフルル。

 残ってる食材なら何使ってもいいが、魔王様が早めに夕食にしてくれって言ってたからな……あまり時間かけるなよ」


「えへへ、早く夕食用意してって言われたの、私のせいかなっ」


「だろうな。少食な魔王様が、飯早くしろって言い出すわけがねえ。

 冒険で腹減らして帰ってきたんだろ、うめえの作ってやるから、味見しすぎるなよ」


 料理長の心意気が嬉しい。

 私も使っていい食材を見て、自分に出来ることを必死に考えた。


「よし、家でもよく出てきたあの料理にしようかなっ」


 手に水と塩をつけて、さっと馴染ませる。

 炊かれてた熱々のご飯を手に盛ると、三角に転がしながら握った。ティーカーはいっぱい食べるから、量産しなきゃ。

 これが最も素材の味が引き立って美味しいはずだって、必死になって握って……食堂に入ってきたって教えてもらえた仲間たちの前にも、自信満々で出した。


「二人とも、今日は助けてくれてありがとう! お礼に心を込めて作りました。

 勇者特製おにぎり、完成ー!」


 明るく差し出したのは、純白の塩にぎりだ。

 一番お米が美味しくなる料理だと思っているから、早速手にしてくれた二人の前で、自信満々に素材を思い浮かべた。


「お米はオクタコス農場の一等米。

 塩はキラークジラの塩田で取れた、栄養豊富な塩で作ったよ。

 一個味見したけど美味しかったし、自信作なんだっ」


 オルディアが最初に口にして、笑顔になってくれた。

 ティーカーなんてもう二口目まで食べたけど、目を輝かせて唸ってる。


『うんまっ。凝った料理もいいけどさ。冒険帰りに「腹減ったー」って言って、おやつがわりに適当に握ってもらった塩にぎりが一番上手かったりするんだよなー。

 へへ、フルル分かってるぅ』


「確かに懐かしいな……フルルがお礼として作ってくれた気持ちも、何より嬉しい。ありがとう、フルル」


「よかった。いっぱいあるから、たくさん食べてね!」


 オルディアもティーカーも、喜んで食べてくれた。

 ティーカーはどこに入るんだろうってくらいたくさん食べて、口をずっともぐもぐしてた。


 私もお仕着せのままで頂いたけど、料理長のご飯もほっぺが落ちそうなくらい美味しくて、生きてるって実感が湧いた。

 ティーカーも今度はフォークで鶏肉の甘辛炒めを刺して、齧り付いてた。


『フルルを襲ったあれ、結局なんの神だったんだろうな。

 白い手だけ見えたけど、他は真っ黒で何も見えなかったんだよなぁ』


 私も考えてるけど、やっぱり恨まれる覚えが……ないような、あるような……まだ微妙なところだった。


「何の神か、調べないとわからない状態だね。

 でも私も神の名前、絶対当てなくちゃいけないんだ。しばらくは冒険と調べ物、半々かな」


『やっぱりフルルも気になるんだな。また襲われても困るから、弱点探しもしようぜ。

 神にもこれだけは苦手、ってあったりするもんな』


「えへへ、弱点探しというか。

 あの神の名前当てないと、十日後に私、死んじゃうんだよね」


 ――食堂がちょっと静かになった。

 給仕のみんなも目をぱちぱちしてるけど、気にしてくれるんだね、嬉しい。


「……十日後に? なんて?」


「うん。後で見せるけど、胸のところに神の試練が書かれてたんだ。

 いっぱい呪いもかかっててさ。

 解呪も出来ないようになってるから、神の名前当てなかったら私、死んじゃうんだ」


 オルディアが立ち上がって「全員下がれ」って言い出した。

 一斉に給仕たちが下がっていくし、合わせてオルディアも近づいてくるから、私も厨房に逃げようとしたら、扉閉められた。

 必死に叩いたけど開けてくれないし、振り返ると、もう魔王が真近くにいた。

 壁に追い詰められたけど抜け出そうとするのに、あっという間に両手を掴まれて、壁に押し付けられてた。全く動けない。


「待ってよ、落ち着いて、ここ食堂だよ!?

 え、まさか今、見ない、よね?」


「今以外にいつ見るんだ」


「部屋に帰った後で見せるよっ、そう思ってたからっ……ま、待ってっ、オルディア」


 近づいたオルディアの手が、お仕着せの胸の部分に触れた。

 言葉もなく飛び上がってるのに、ブラウスシャツの前が開けられていく。

 下着も外されて、胸が出ちゃう。

 ティーカーは聖剣のそばにいるし角度的には見えないと思うけど、オルディアには両手を掴まれたまま、見られてる。

 その顔が深刻そうだから、多分呪いによる胸のむず痒い疼きも、ぐっと歯を噛み締めて耐えた。

 呆然と呟く声が、聞こえるんだ。


「……死の、宣告……?」


 私も胸の中に残るチリチリした痛みを乗り切って、同じ黒の刻印を見ていた。


「うん。あと十日みたい……」


 服を脱いだら、胸には神の言葉が組み上がってた。


『死の呪い』

『弱化の呪い』

『不純の呪い』


『死より解放されたければ、日が尽きる前に我が名を当てよ』


 太陽を模した刻印が、まず一つ。少しずつ薄れていってる。

 着替えで見たときよりも、薄い部分が進んでた。


 刻印は胸の中央に円を描くように、十個刻まれている。

 神に正解を宣告出来なければそのまま命が失われる状態だってことくらい、私にも分かる。


「神って試練が好きだよね。

 ただ……この神はよっぽど私を恨んでるのかも。

 魂が体に戻っても良いように、仕組んであったみたい」


 あと十日後に、私の命が尽きることも……もうオルディアを私の力じゃ押し返せないことも、全部。

 お仕着せに着替える時には、胸の真ん中に呪いとして刻まれてた。

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