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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
本編

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幼馴染の夢

 懐かしい夢を見ていた。

 レムスが神官様のためにご飯を作って、私とティーカーがつまみ食いした時の夢だった。

 芋の煮っ転がしが甘辛くて美味しくて、たくさん作ってあったから「もう一個」ってティーカーと奪い合って食べた。


「うっま。レムス料理うめーなー。意外な才能?」


「父さん、忙しいから。晩御飯はなるべく作らせてもらってるんだ」


「いいなー、神官様。レムスの美味しい料理、いつでも食べられるなんて羨ましいなー」


 黒髪に若草色の瞳の幼馴染が、照れくさそうに笑う。

 一緒に冒険に行くとお弁当に入っている肉団子は奪い合いになるから、レムスはいつも別のお弁当箱に入れて、多めに用意してくれた。


「神官って肉食していいの?」


「見習いはいいんだって。成長途中だから、ちゃんと食べなさいって父さんが猪肉を買ってきてくれるんだ。

 いつもは僕の分だけ作って、あとは塩漬けにしちゃうんだけど……みんなが食べてくれるのが嬉しいから、今日は多めに作っちゃった」


 冒険に出て、三人揃って食べるご飯は美味しかった。

 ティーカーは大喰らいで、私と奪い合って食べた。

 レムスは野菜の方が好きで、少食で、神官様と同じだねって言われると嬉しそうにしてた。


 楽しいって、三人でいる夢を見るたびに思う。


『フルル、フルル、起きて。もう朝だよ』


 レムスに、ティーカーに起こしてもらって、ようやく起きたよね。

 あの日、村が燃えた日……眠ったのが悔しかった。

 もう二度と眠りの魔法にかからないって、睡眠耐性も会得した。


 私が、もっと勇者として、しっかりしてたら。

 レムスを、ティーカーを、守れてたら。

 今も三人で、冒険してたかな。

 ……優しいレムスを守って、あの日を変えることは出来たのかな。


「レムス……」


 夢の終わりは、毎回泣きながら目が覚める。

 涙を拭うハンカチがあって、見上げると……銀の髪に深緑の瞳の魔王がいた。


 すぐさま胸に抱えている聖剣を振り抜いた。

 乱暴に振って折れても朝になれば復活して戻ってくる相棒が、また魔王の手に押さえられた。

 魔族は握るだけで大やけどするはずなのに、聖剣が朝の光を浴びて神光すら発しているのに、魔王オルディアは魔法防御力が高すぎるみたいで傷ひとつつかなかった。


「素っ裸だが、良いのか」


「散々弄んでおいて、今更何言ってるの……っすっぴん装備だって戦えるように、訓練くらいしてるんだからねっ」


 丸一日嬲られた全身はまだ疲労しているけれど、気炎を吐いて目の前にいる魔王に幾度も襲いかかった。


 レムスのためにも、魔王を倒して平和をもたらすんだ。

 仇をとって、ティーカーと二人で、笑って村に帰るんだ。

 みんなのお墓を綺麗にして、全部終わったよって報告するんだ!


「っ!?」


 なのに、拳を振り抜いた魔王に、また聖剣が砕かれた。

 残った束だけで突くのも、手刀で落とされた。

 回し蹴りを放つけれど躱されて、手首を掴まれて……あっという間に、ベッドの上に体ごと押し付けられた。


「朝食の時間だ。着替えれば、食堂へ移動させる」


「魔族の施しなんて受けないっ、魔王を倒してから、仲間のところに戻って、……っ優雅に食事するんだぁっ!」


「そうか。勇者は食事もせずに満足に動けるのなら、拒めばいい。

 魔王を倒す前に夢半ばで散るのと、歯を食いしばってでも魔を滅せる日を待つのと、どちらが賢明か選べ」


 冷静な言葉に、悔しさを噛み締めながら……異空間に捕まった状態の勇者に出来ることを考えた。

 平和な世界のためにも、今、魔王を前にして夭折するわけにはいかない。

 ティーカーが、ミエットが、ウチカゲが……仲間がまだ残っている。


 合流すれば、魔王とだって戦える。

 一日経った今は、私がいなくなったことにも気づいてくれたはず。

 逃げ出すためにも今は力を貯めるべき……悔しいけれど歯を食いしばって耐えるしかないんだって、魔王に手を離してもらう他なかった。


 でも。

 お風呂に入って、脱衣所に用意された服を見て……他にはタオルしかないから迷いながらも一応着て、流石に頭に血が上った。


「ねえ魔王、ふざけてるよね?」


 踊り子の服だ。

 着替えたら移動するって言ったくせに、胸と腰以外にはほぼ何も着ていないのと一緒の格好にさせられた。

 三つ編みおさげを編み直した私がこめかみに血管を浮かせて、サーベルタイガーみたいに牙を剥いても、魔王は平然と首を傾げている。


「踊り子の服は物理も、魔法も両方の防御力が高い装備だろう。

 他の魔族に害されても困るからな。着ておけ」


「ここ、魔王城だよね!? 他にも良い装備があるんじゃないの?!」


「探したが、宝箱は残念ながら空になっていた。めぼしい物を抜き取ったのは勇者ご一行だろう。

 何が入っていたのかも覚えているだろうが、街で『魔法の青鎧』が売り飛ばされていたのも確認が取れたぞ」


 うーん、ミエットはお金が好きだから、勝手に質に入れてしまったのかな。

 ティーカーも魔法の青鎧は装備済みだから、二着目は不要だよね……私も勇者装備あるってみんな思ってるから、売っちゃったのかな。

 仲間が元気なのはわかっても、ちょっと盗人っぽいのが魔王相手であっても申し訳なくて、目が泳いでしまう。


「さあ、どうする。廊下に移動させるが諦めはついたのか。

 ……それとも、もう一着がいいのか。踊り子の服よりも高ランク装備だからな……」


「えっ、別の装備が用意出来るなら早く言ってよ。

 もしかして、からかってたの? 踊り子の服よりも強い装備なら、そっちの方が良いに決まってるよね?!」


 魔王が表情を変えずに、異空間から白い箱を引き出した。

 私も急いで開けたけれど、中から出てきたのは、さらに上級装備の『いやらしい下着』だった。


 上下セットでつけると、男性への魅了効果もある。

 ほぼ何も着ていないのに神のご加護で守護してもらえる高耐久防具を見て、首を傾げた。


「どちらがいい」


「うーん、今のままでいいかなぁ……」


 踊り子の服よりランクも防御力も高いけれど、いやらしい下着はさすがに布面積が少なすぎるかなぁ。


「ね、ねえ、魔王。他のまともな服はないの?」


 もう村人の服でも良いよ。

 箱を返しながら伝えたけれど、異空間に収納した魔王は首を横に振っていた。


「邪神に勝手に放り込まれた装備くらいしか、人間の女性ものはない。

 人型魔族の服ならすぐに手配出来るが、尻尾の穴が……」


「ダメ」


 お尻部分の穴から下着や肌が見えるのくらい、すぐに想像できた。

 魔王も私が両腕を交差して拒否したのを見て、深緑の瞳を愉快そうに緩めた。


「断ると思ったから、勇者の体に合わせて仕立てるようお針子に伝えてある。

 何も装備しなくても僕と戦えるくらいだから、一日くらい我慢出来るはずだ」


 邪神由来の踊り子の服なのはちょっと気になるけれど、捕まったのは私だ。

 今は甘んじて辱めも受けてやるんだって、これ以上の問答は諦めた。




 魔王が指を鳴らすと、魔王城の廊下に移動した。

 先を歩く魔王に従って、踊り子の服のまま歩く。

 魔族の好奇の視線を浴びながら廊下を移動したけれど……今もっとも気になるのは、魔族の朝ごはんだった。


「……」


 正直、魔族の食事には不安があった。

 私は、魔族が人間を生きたまま食べる姿しか見たことがない。


 自分たちは灰になるから共食いしない。

 だから人間界に降りては人の肉を食らって、害して喜ぶ。その姿しか知らない。


 しかも魔王の食卓。

 食堂に着いて何が出てくるのか、怖くなりながらも座ったけれど……警戒する私の目の前には普通の、人間と同じ食事が出てきた。


 ご飯、パン、カリカリに焼いた塩漬け肉。

 ふわふわのスクランブルエッグ、サラダ、お米やお味噌汁に、芋の煮っ転がしまである。

 世界各国の多種多様なおかずが並んで、美味しそうで、気づいたらお腹がぐうぐう鳴っていた。

 魔王の朝食は旅の途中で立ち寄った国に招待された時と同じく、豪華なバイキング形式で出てきたから釘付けになって目で追った。


「はっ、待ってよ。塩漬け肉は人間の肉で出来ている、とか言わないよね」


 美味しそうだけれど、食べたが最後、人間界に戻れなくなる逸話が魔界にあったらどうしよう。

 魔王は奥の席に座ったまま立ち上がらず、ゴブリンやプチオークなどの給仕がサラダやパンを取り分けるのにお礼を伝えていた。

 けれど警戒する私は「フルル様は、お好きなものをご自由にどうぞ」なんてプチオークの女中に促されても動けずにいる。


「共食いさせる趣味はない。信じられないなら野菜だけにしておけ」


 魔王が普通に食事を始めた。

 魚は『悪魔の一つ目魚』とか言われても困るけれど……確かに野菜なら、普通の食材しか使われていないように見える。


 私も言われた通り用意された食事の前に立つと、お肉は避けて野菜やお芋ばかりお皿にとりわけた。

 座り直して、フォークを手にする。

 ……一口目が、一番緊張する。

 でもお腹が空いているから、魔王を倒すためにも食べるしかない。

 夢で見たレムスが『これは大丈夫だよ』って言ってくれてるんだって、芋の煮っ転がしを思い切って口に入れた。


 ……普通に美味しかった。


「美味しい!」


 思わず言葉にも出ちゃってたけど、甘辛くて、懐かしい味がする。

 レムスが旅人に習ったって教えてくれたし、金の国を冒険した時に食べたのと似ているから、魔王城の料理人も金の国にいたのかもしれない。


 一日中抱え込まれて魔王の相手をさせられたから、すごくお腹が減っていた。

 警戒していたはずなのに、サラダも何もかも美味しいからつい夢中で食べてしまう。私は小さい頃から相変わらずの大喰らいだから、何度もおかわりしてしまった。


「気に入ったのか」


「う……人間の口に合うように作られているから、美味しく感じるだけだもん……魔族の食事が気に入ったわけじゃないからね」


 早々に食事を終えて私を眺めていた魔王が、淡く笑いながら視線を向けてくるのが気になって、ご飯を飲み込んでからそっぽを向いた。


「……宝物を奪って売ったのは、ごめんなさい。

 でも私の仲間たちは無事ってことだよね? 魔法の青鎧を売られた以外に、他にも何か情報はある?」


 勇者以外の仲間は、お腹を壊して魔王城の一階に降りたはずだ。

 魔王城内は壊滅レベルで魔族を倒してあったから簡単に戻ってこられたはずだけど、今はもう城内に警備が再配置されているのを歩きながら確認してきた。

 ミエットらしい行動からみんな一度街に帰ったことは理解出来たけれど、再び集まった魔族に仲間が捕まったとか、状況が変わっているのなら助けに向かう必要がある。


「僕の部屋は異空間に作ってある。引き込んだことで勇者は一旦所在不明になったはずだ。

 仲間も勇者が離脱したことに気づいたらしく、逃げ出したと報告は受けた。そのうち迎えにくるだろう」


 無闇矢鱈に助けに来るわけじゃなく、一度態勢を立て直すことにしたんだって分かって、ほっとしたけれど……少しだけ複雑な気分で、芋の煮っ転がしを咥えた。


 ……ティーカーは目の前でレムスを失ったこともあって、慎重な性格に変わった。

 昔は一番槍みたいに突っ込んで行く性格だったけれど、今は確実に倒せるまで待ったり、鍛えたり、時間をかけるようになった。

 ミエットもウチカゲも熱い性格ではないから、救出を急がせずに資金を貯めて、仲間集めが先になるかもしれない。


 ……もしかしたら、救出は長期戦になるのかな。

 私から抜け出した方が早いかも……そう考えながらお味噌汁を啜っていると、魔王が執事を呼びつけた。


「勇者は捕虜として扱うから、傷をつけぬよう全魔族に通達しておけ。

 城内は自由にして構わないことも、併せて伝えるように」


「えっ、私を自由の身にするの!?」


「しばらく迎えには来ないだろうからな。窮屈に生活するより良いだろう」


 こんなチャンス、二度とないかも。

 絶対に抜け出してやる。

 私は勇者として、数々のダンジョンを攻略してきた。

 食事を終えたらすぐに駆け出して、仲間の助けを待つまでもないって、廊下と外を繋ぐ窓を早速飛び出した。

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