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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
黒い神編

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黒い神

 周囲は暗闇に包まれてて、誰もいないように見える。

 なのに漂った濃い殺気に、全身が総毛立つ。

 咄嗟に砂利混じりの地面を跳ね除けたけど、大地が割れる音がした。


 ……立ってた場所が、何かに深く切断されている。

 地面を切り裂くほどの一撃を見るまでもなく、体が近付いてくる強者の気配に警戒してる。


 周囲は荒れた大地だ。

 空気が淀んでる。

 見えない場所から声もなく斬撃が叩きつけられるのを、空気の感触だけで察して避けた。


「誰、目的は何!?」


 問いかけたって、攻撃してくる何者かからの答えはない。

 硬い地面を、裸足で一気に駆け出した。

 体には白いワンピースを着て、三つ編みにしていた小麦色の髪も下ろされてる。


 肉体に見えてるけど、これは肉体じゃない。

 魂だけの状態だ。

 神界に行った時に見たことがある。

 神に課された試練同様、空間感知しても方角がない場所にいる。


 まさか……肉体から魂だけ抜き取られて、神界に連れてこられたってこと!?


 魂の回復は、人間の魔法じゃ出来ない。

 一部でも壊れたら、元の肉体に戻れても魂魄の乖離が出てくる。

 記憶障害とかさまざまな悪影響が起こるって、冒険の中でも見てきたから知ってた。


 とにかく傷をつけられるのはまずいから、自分の姿で状況を察したあとは駆け逃げ続けた。


 斬撃を避けながら、少しでも遠くへ逃げ出そうとする。

 でも、周囲は切り立った壁に囲まれてた。

 ここは谷の崖下なんだ。


 登攀で登ろうとした。

 けどすぐに追いかけてきた何かに、岩を切り崩される。

 落石を避けて降りたけど、地形が分からなくても走り回るしかない。


 相手は斬撃してくるのに高さも関係ないってことは分かった。

 襲いかかってくるのは漆黒の剣だってことも、ようやく見えた。


 でも、振ってる相手が近くにいない。


 剣単体で動いてるとか、魔法が高度すぎる。

 ……つまり、神に襲われてるんだ!


「連れてきた理由は!? 目的ぐらい話してよねっ」


 黒い剣を避けて必死に駆け出すけど、相手から言葉はない。

 聖剣の勇者を打ち倒そうとする意思だけは、無尽に振り下ろされる剣で分かる。

 横凪ぎにも、縦振りにも柔軟に剣筋が変化するけど、これは私を追ってるだけ……剣では戦い慣れてない相手だってことも分かった。


「……なら話したくなるまで逃げてやるっ。

 勇者の根性、舐めないでよね! 絶対に話したくしてやるんだから!」


 私は負けないって、必死に走り回った。

 勇者として培ってきた強さは、肉体の練度は、魂にだって引き継がれてる。

 今は反撃せずに、意地と根性で避け続けた。


 追いかけっこで全然捕まらない相手を追うのは、かなり疲れるはずだ。


 焦れて話したくなるまで、攻撃を避け続ける。

 自分を信じて剣を躱し、飛び跳ね、駆け逃げ続ける。


 ……不意に、攻撃が変わった。


「っ!?」


 足元から瞬時に、鎖が伸びた。

 逃げ出そうとした手を絡め取られて、首にも巻き付いて、引きちぎれないまま体を一気に持ち上げられる。


 暴れたけど、鎖の強度が高すぎて抜け出せない。

 足にも体にも固定するみたいに、黒い鎖が絡みついてる。

 空中で五体を強く固定されると、首だけが緩まった。一気に空気を吸った体が、咽せた。


「ゲホッ、けほっ、なに……ようやく話をする気に、なった……?」


 目の前には黒くて大きな、丸い塊が浮いている。

 正体すら明かさない……黒い神から。


 ぞぶり。


 白い手が、音を立てて出てきた。

 暴れる私の胸の真ん中に、黒い塊から指が伸びてくる。


「ねえちょっと。話をする気があるなら、もっとふさわしいやり方があるんじゃない……っ!?」


 白い指が、避けようとしても肌に触れる。

 触れた場所からは、叫ぶほどの激痛が弾け出て……鎖を思いっきり引っ張りながら、空中でもがいていた。


「っぁあああ!? っく、っぅぁああぁ……っ」


 掴まれた場所に、徐々に指が食い込んでくる。

 暴れてるのに、鎖に絡め取られたまま、動けない。

 指が押し込まれてきて、身体中に吐き気を催すほどのドス黒い『呪い』がなだれ込んでくる。


 ……声すら出ない。

 全身に、魂が割れる痛みが続く。

 メキメキって音が体内からも響いて、体中のどこへも走る痛みに、目が霞んでく。


 ……黒くて丸い、玉の神……?


 相手は、神界の淀んだ場所で活動してる。

 聖神の勇者に攻撃してくる。


 誰。

 目的は、いったい何……!?


 ……考えているうちにも、体の中に手が入っていく。

 鎖を引っ張っても、魔法を対抗に当て続けても緩みすらしない。


 息苦しくなってきた。


 ……嫌だ。いやだよ。

 なんとかして逃げ出さなきゃ……ようやく幼馴染と会えたんだ。


 レムスと、ティーカーと……三人で冒険、出来るようになったんだよ。


 まだ最初の街に着いて、最初の依頼を受けただけ。

 ご飯食べて、ほんの少ししか、冒険っぽいことも出来てない。


 なのに、終わらせたくない。


 必死にもがいて……もがいてるのに、目の前が暗くなっていく。

 白い手が、霞む。

 呼吸、出来なく……なって……全身の感覚が、消えて、きた。


 目を開いてるはずなのに、小さい頃に見た村の光景が、広がってる。

 だめだ。

 勇者フルルの冒険が、ここまでなんて諦めたくもないのに……走馬灯みたいに、今までの冒険が巡ってくる。


 どうして。


 もう偽物の仲間じゃないって、言ってくれたのに……私が一緒に冒険しようって引き留めちゃったティーカーは、どうするんだ。

 聖剣は今までみたいに、次の勇者に引き継がれるとしたって……私の幼馴染はまだ、救われていない。

 私が生涯付き合わせるって、神にも、ティーカーにも伝えたばかりだ。


 たった一回の冒険だけじゃ、魔力で出来た小さい体のままじゃ、終われない。


 胸の中に、指がさらにねじ込まれる。

 痛みが強まったから、再び黒の塊が見えたのに……また見えなくなって、今度は魔王城の食堂が見えてきた。


 オルディアとティーカーと机を囲んで、一緒に世界地図を見た。

 どんな冒険をしてきたか見たいって、楽しみにしてる銀の髪に深緑の瞳の魔王が、笑ってる。


 終わらせちゃ、駄目だ。

 オルディアは私のこと、ずっと待ってたんだよ。

 まだほんのちょっとしか、一緒にいられていないのに。

 婚約者なんだって、お父さんとお母さんの墓前にも報告して……一緒の冒険、楽しいって笑ってたのに……こんな終わり方じゃ、終われないよ。


 何より……もう会えないなんて、嫌だ。


 魔王になった幼馴染に、出会えた。

 敵なのに、好きになった。

 想いだって伝えられたばかりなのに……終われない。


 動け。

 動けっ。


「っぁあああああ!」


 指だけじゃなく、手のひらまで捩じ込まれ始めた。

 ……残った空気を吐き出すような叫びだけが、遠く聞こえる。

 胸に根を下ろす呪いが魂を引き裂く、吐きそうな痛みだけしか、わからない。


 動、け。

 動、か、ない……。


 諦めたくないって何度だって思うのに、……もう体が、私のものじゃないみたい。


 小さい頃に、レムスが墓地で泣いてた光景が、見えている。

 大好きだったお母さんが、病気で亡くなった日だ。

 神官様と手を繋ぎながら、レムスはお墓の前で頭を下げて、声も出せずに泣いていた。

 その光景を、覚えてる。

 あんな悲しい顔なんて……もう、させたくないのに。


 オルディア。

 オルディア……。


 ……耐えたいのに……意識が勝手に、遠のいてくる。


 黒い神の手が、さらに押し込まれてくる。

 呪いに身体中を壊される痛みだけが……最後まで、仲間を思う意識を引き起こしてくれるなんて……皮肉……。

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