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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
黒い神編

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プラントスネーク

 お昼ご飯を美味しくいただいたら、太陽が傾いてくる前にレイクロッグの街を出発することにした。


「それじゃ、準備も終わったし。

 プラントスネークの依頼、手早く終えちゃおうか。行こっ」


 目撃情報のあった森の方角目指して、付近の地図を見ながら街道を歩いていく。

 ティーカーはお腹がパンパンでお昼寝がしたくなったみたいで、街を出てしばらくしたら、うつらうつらしながら肩の上で揺れていた。

 たまに落ちそうになったら背筋が伸びるけど、大人になってもティーカーが居眠りしてるっぽいのが面白くて笑っちゃった。


「ティーカー、寝てても連れてくからカバンの中に入ってる?

 ここら辺の魔物なら私の魔法だけでも倒せるし、出番こないかも」


『んー、じゃあ寝させて……聖剣の中、神界に繋がってるからあんま眠くならないんだけど……体があると、すっげ眠くなる……』


 カバンを開けてあげると、冒険者服姿の幼馴染が早速中に入った。

 地図の上に寝転んで、気持ちよさそうに寝息を立て始めてる。

 お布団がわりのハンカチをかけてあげたけど、体が小さいから「やっぱりお人形遊びしてるみたい」って面白くなりながら蓋を閉めた。


「久しぶりの体だから動かすのが大変なのかな。ティーカー、眠そうなとき多いよね」


「魔力で出来た体に食べ物を取り入れているから、体内で魔力に変えるのにも疲れるはずだ。……慣れるまでは仕方ないな」


 ティーカーの詳しい構造は、オルディアにしか分からない。

 でも即興で作り上げた体でもティーカーは元気にしているし、本人も第二の人生が楽しいみたいで生き生きしてる。

 今はゆっくり寝かせてあげるためにも、魔物は魔法で遠距離攻撃しようって、平原に目を向けて周囲の警戒を続けた。


 ……だけど、街道をどれだけ進んでも平和で、何も起こらない。


 平原には爽やかな風が吹いて、鳥が鳴き交わしてる。草の揺れる音まで聞こえる。

 オルディアと二人きりで隣り合ってるのもなんだか気恥ずかしくなってたら、手を繋がれたから飛び跳ねそうになっちゃった。


「フルル、レイクロッグの次はどの街に行ったんだ。すぐに出発したんだろう」


「あ、えっとね、南の街道沿いに進むとエルムスっていう街が出てくるんだ。

 資金を貯めるために、しばらく拠点にしてたよ。

 職人の街だから、いい装備売っててね。付近も魔物が強くなってるから、戦い慣れるのにも良かったかな」


「拠点にしていたのなら、エルムスの街にも思い出話がありそうだな」


「うーん、どちらかというと苦労話かな?

 クラフトのレベル上げ兼ねて働いたりとか、色々してたんだ。

 ……ね、ねえ、オルディア。

 手、繋ぎながら歩くの?」


「ん? 僕は魔法で戦うからな。

 手を繋いでいても、問題はない」


 私もティーカーを揺らさないように魔法で戦うつもりだったけど、繋いだ手に汗かいちゃいそう。


 ……隣を盗み見ると、オルディアの銀の髪が風に靡くたび、キラキラしてる。

 空に向けてる半淫魔らしい綺麗な顔には深緑の瞳が輝いてて、景色を楽しんでる姿を見るだけで不思議と心が騒いでた。


「フルルとこうしていられるだけで幸せだな……冒険を休暇にするなんて、贅沢な気分だ」


 私も頷いた。

 子供の頃みたいに、繋いだ手をちょっとだけ振る。

 緊張してたのに、子供っぽい仕草をすると昔に戻ったみたいな気分になって、自然と笑顔になっちゃう。


「冒険のはずなのに、魔物出てこないね。

 あ、もしかして、魔王に気づいて逃げちゃうのかな?」


「邪魔が入らないように、周囲の魔物は消しとばしているからな。しばらく平和だ」


 わーすごーい。

 なるほど、よく見たら灰が遠くに散ってる。花の上を飛んでたみたいだし、ワームビーかな。


「フルルは見つけた魔物の元へ飛んでいくからな。

 目的地までは、僕が倒して進む」


「さすが魔王、心強いね。勇者の出番なさそ……っ?!」


 褒めたら、指がしっかり絡み合う繋ぎ方になった。


「だからその代わり、僕の隣で話し相手になってくれ。

 ……ティーカーも寝ているしな」


 細い指が指の付け根に押し込まれて、入ってくる。

 肌が擦れ合う感覚にゾクゾクして見上げたけど、オルディアは満足そうに笑ってるし……私も照れちゃうけど悪くない気分だったから、今は手を繋ぎながら平原の景色を楽しむことにした。


 ――道中、出てくるはずの魔物は、オルディアが倒しながら進んでくれる。


 知性を失って魔物化してるオークハンターが商人と戦ってるのに気づいたときには、灰になって消えてた。

 戦ってた商人も何が起きたのか驚いて、辺りを見回してる。


 私たちが手を振ったから、代わりに戦ってくれたのかとお礼を言われた。

 オルディアのおかげなのは合ってたから「凄腕の魔法使いなんだ」って紹介した。


「こりゃ助かった……取引先の農家が森の中でリィゴの実を栽培してるんだが、取りにいけないって困ってたんで、腕利きのあんたらに倒してもらえるなら助かるよ。

 繁殖期だからプラントスネークも気が立ってる。

 いつもより手強くなってるし、何より卵を産み終えたやつが飢えて凶暴性が増してるんだ。気をつけてな」


 この近辺で商売してる商人だったから森について聞けたけど、中はすでにプラントスネークの卵が多く産み付けられている状態らしい。

 繁殖期は動物の多くが子孫を守ろうと必死になる。

 魔物も凶暴化するし、産卵前後で食欲も増える。


「もう卵があるなら、卵も壊さないと新たな群れが出来ちゃうね……。

 貴重な情報ありがとう。おじさんも気をつけて帰ってね」


 商人と別れた私たちは、さらに先に進んだ。

 ティーカーもお昼寝から起きたけど、カバンの中から景色を見てのんびりしてる。

 街道の向こうに、森が見えてきている。

 プラントスネークの卵は樹上にあるって知ってたから、木の種類や大きさを見ながら私も作戦を考えてた。


「卵も壊して回るとなると、魔力温存しておいたほうが良いかな。

 群れの討伐が終わったら、風魔法で落として回る?」


「魔族や魔物の位置ならわかるし、僕が卵も壊そう。

 ただ森全体となると時間が必要だから、フルルとティーカーはいつも通り前衛で戦っていてくれ」


 街を出てからはまだ私たちの出番がなかった。

 だから肩に乗って準備運動を始めたティーカーと二人で、気合いが入る。




 やがて、森に到着した。

 木々の合間を歩いていると、次第に蛇の鳴き声が多く聞こえるようになった。

 どうやら侵入者に気づいて、周囲に散らばっていたプラントスネークが群れをなして追い立てようとしてるみたい。ティーカーも辺りを警戒してる。


『プラントスネークって静かな印象だったんだけど、結構威嚇してるな。音立てて仲間も呼んでるっぽい』


「商人の言ってた通り巣には卵があるから、守ろうとして気が立ってるのかもしれないね」


 木の上に目を向けてるけど、プラントスネークは普段、植物に擬態している。蔦っぽい見た目だ。

 肉食だから人間や動物に牙を突き立てて、毒の溶液で体を溶かして吸う。

 森を歩いていて上から落ちてくることも多いから嫌われてるけど、そこまで強い魔物じゃないから、群れでも中級依頼として扱われていた。


『来たぞ!』


 不意に、一匹のプラントスネークが落ちてきたのが始まりだった。

 近かったティーカーが真っ先に切り飛ばしたけど、そこかしこから蛇がぼたぼたと落ちてくる。

 緑色の細い蛇が体に噛みつこうとしてきたのを、一息に聖剣で切り払った。

 呪文を唱えてるオルディアは魔王だって本能で分かってるのか、魔物は私たちの方にだけ向かってきた。


『うおっ、引っ張られる!?』


 ティーカーも装備した剣で降ってくる蛇を減らしてくれてるけど、私が場所を変えたくて駆け出すと、範囲外になりそうになって無理に聖剣の方へ引っ張られた。

 せっかくの攻撃も当たらないし、私と付かず離れずじゃないといけないから戦いづらそうにしてる。

 でも私とティーカーは、お互いの背中をずっと守り合ってきた仲だ。


『よしわかったっ、今日はフルル優先だ! 合わせる!』


「さっすがティーカー、頼りにしてる!」


 私が怪我してる時みたいに、ティーカーが動きに気を配って支援に回ってくれた。

 ブーツを登ろうとしてる蛇に気付いた時には、すぐにティーカーが掴んで引き剥がして、そのまま切り裂いて灰に変えてくれる。

 小さい体を生かして、足元とか疎かになってる場所を特に切り崩してくれるから、安心して戦える。


 楽しい。

 連携取れるのって、楽しい!


 久しぶりに、夢中で体を動かす喜びを感じてた。

 無数に落ちてくる蛇を切り払う手が、止まらない。

 ティーカーは小さいままだけど、自由に飛び上がれるから敵の高さだって問題ない。

 移動を私に合わせながら行って、急に走り出したって聖剣に引き戻される勢いまで利用して切り崩し始めてた。


「すごいよティーカー!

 聖剣の中で、ただ見てただけじゃなかったんだっ」


『当然っ、ぼーっと守護者やってたわけじゃないぜ。

 フルルの動きなんて飽きるほど見てきたから、合わせるのくらい楽勝、楽勝っ!』


 数年ぶりなのに、動きがどんどん噛み合っていく。

 慣れて動きやすくさえなる。

 組み上がって巨大になったプラントスネークが出てきたけど、それすら二人で突っ込みながら切り開いてた。


『細かいのは俺に任せろ!』


 私が倒しきれなかった分は、ティーカーが切ってくれる。

 その信頼が、体をさらに前に進ませる。

 あっという間に灰の山が出来て、プラントスネークも不利を悟ったのか逃げ始めた。


『森に散らばるぞ!』


「追いかけるよ、ティーカー! ……っ!?」


 駆け出すと、……しばらくして反転した蛇が、一気に束になって降り注いできた。

 初めて見る動きだ。

 群れになっていたって、引っ掛けで動くような知能のある生物じゃない。

 何かに怯えて、目の前にいる獲物を食いちぎってでも逃げようと口を開いてる。


 咄嗟に、聖剣を放り投げた。


『フルルっ!』


 切り払ったって数が多くて、噛みつかれるのは必至だ。

 ティーカーは聖剣と共に移動してくれるから、これで無事。

 私は毒耐性があるから、平気。


「……っ!」


 だけど姿勢低く転がって躱しても、降り注ぐ蛇には勢いがある。

 牙が刺さって、数箇所肌を引きちぎられる。

 痛いものは痛いけど、軽症だから耐えて、反撃に雷魔法を唱えて……。


「えっ!?」


 唱え切る前に、今度は灰の山が猛烈な勢いで降ってきた。

 ……辺り一面に、灰の雨が降ってくる。

 思わず足を止めたけど、私たちの後ろでオルディアが神官の杖を軽く振っていた。


「遅くなって悪かった。ヒール」


 簡単に全身が回復して、痛みも何もかも消えていく。

 ……静かになった森のどこからも、灰が降ってくる音が聞こえた。

 見上げた先にあったプラントスネークが作ってた巣からも、灰が漏れ出ていた。


「え。森全面、もしかして」


「巣食っている魔物は全滅した。

 プラントスネークも、卵もろとも灰に変えた」


 こんな短時間で超広範囲攻撃が出来るとか、魔王がいれば世界から魔族も魔物も消滅するんだなって、改めて思い知らされてた。

 ……でも、オルディアは遠くに目を凝らして何かを探している。

 私もさっきのプラントスネークの動きで気づいてたから、立ち上がって灰を落とした。


「何か、いたね。

 私からじゃ何も見えなかったな……魔族?」


「僕も気配だけしか感じなかったが、魔族ではなかった。

 ……探したいから、少し待っていてくれ」


「分かった。ティーカー……」


『ここにいるー』


 遠くの木に聖剣が刺さってて、ティーカーもそばを離れられずに浮いていた。

 駆け寄ったけど、ティーカーが近づいた私の頬を両手でむにっと押し潰してきた。

 ほっぺ寄せられて変な顔になっちゃってるのに、ティーカーは真剣に私を見てた。


『フルル。魔力で出来てる俺の体は何かあっても、またオルディアに作ってもらえばいいんだ。

 でもフルルは聖剣手放したら戦えないだろ。最後まで握っててくれって』


「えへへ、ごめんごめん。

 プラントスネークが逃げる前に、一面に雷魔法炸裂させてやろうと思ってたから大丈夫だよ。

 脱出したらすぐティーカーのところに行くつもりだったし、もう無傷……」


『聖剣折らないよう丁寧に投げた分だけ、初動遅れて怪我しただろ』


 さすが同じ位置で戦う剣士ティーカー。それは事実だから何も言えなくなっちゃった。

 金髪に青い瞳の幼馴染は目の前に浮かぶと、冒険者服に包まれた腕を私の方に突き出した。小さな握り拳が出てる。


『毒耐性あったって、痛いのは痛いだろ。

 俺も前衛として復活してるんだから、小さくたって、またフルルの盾にもなれる。

 二人で戦ってるんだから、最後まで信じて投げ出さずにいてくれよ。約束だからな』


「ティーカー……」


『俺はもう、偽物じゃないんだ。

 ……格好悪いから言いたくなかったけど、昔みたいにフルルの隣に立てるくらい、聖剣の中でも修錬は続けてた。

 だから俺を信じて、これからも最後までそばで戦わせてくれよな。ほら、約束して』


 小さな握り拳に、拳を合わせる。

 心配してくれる幼馴染が嬉しくて、小さな体を胸に抱きしめてた。


 怪我なんて日常茶飯事だったから、痛くたって反撃の好機くらいにしか思ってなかった。

 そういう戦い方をしてきたって分かってるから、ティーカーも余計に心配してくれてるんだって、照れくさそうにそっぽ向いてても分かる。


「……うん、約束っ。

 へへ、心配してくれてありがとう、ティーカー!」


 胸に抱えたティーカーと笑顔を向け合うと、手を離した。

 浮き上がった幼馴染が肩に乗ったのを見て、聖剣を木から抜いて振り返ったけど……オルディアはまだ例の気配を探している。


「プラントスネーク、魔王のいる方だって分かってても反転したよね。

 あれほど魔物が怯える存在で、魔族でもないって……なんだろうね」


『魔王以上は神くらいしか思いつかないよなぁ……たまに神も人間界に降りてきてるみたいだから、鉢合わせたのかもな』


「あ、私も旅の途中で食神と出会ったことある……」


 灰の降る森の中で、肩に乗ってたティーカーと、和やかに話をしていたはずだ。


「……え?」


 気づいたら、夜の渓谷のような暗い場所で、私は一人になっていた。

 そばにいたはずのティーカーはいなくなってて、オルディアも、誰もいなくなっていた。

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