魔石の耳飾り
カウンターに戻ったら、ギルド職員に依頼の紙を渡した。
「すみません、魔物討伐依頼の受注お願いします。
受注証は仲間の分もください。オルディアとティーカーの二人分……あ、初級の方のティーカーです」
中級依頼を受けられるのは私だけだから、登録証も一緒に差し出す。
冒険神の加護が宿った『魔石の耳飾り』をもらえたから受け取ったけど、カウンターの上で見ていたティーカーに渡そうとすると、金髪に青い瞳の仲間には指をつままれて不服そうにされた。
『なあフルル、もう偽物の登録消してもらってくれよ。
初級の方のティーカーって言われるのが嫌だ。残しておく必要もないだろ?』
「あ、そっか、ごめんごめん。
じゃあ私の仲間から、特級の方のティーカーと、上級のミエット、ウチカゲを外してください。パーティ解散しました」
職員が私のパーティから登録を解除してくれている間に、オルディアにも黒い小さな耳飾りを渡した。
魔王は初めて見るらしく、魔石の耳飾りを不思議そうに手のひらで転がして確かめている。
「この飾りは?」
「魔族も魔物も、倒したら灰になって何も残らないでしょ?
だから討伐依頼で倒した証拠は、冒険神自身が与えてくれるんだ」
私も黒い耳飾りを外れないよう付けたけど、この受注証こそが神の認めた功績になる。
「ちゃんと依頼が終わったら魔石が白くなって、完了のお知らせになるんだよ。ギルドに返して初めて報酬がもらえる。
万が一倒れた時には耳飾りだけでも回収してくれれば、依頼を受けた冒険者が誰かも分かるんだ。
遺品が残るだけでも、冒険者がどこまで到達出来たのか、最後の足跡が残るようになってる」
魔王討伐までは絶対に倒れないと思ってたけど、私がもし討伐依頼で倒れて食べられちゃっても、固くて食べられない魔石を吐き出してくれさえすれば、最後はここにいたんだって仲間にも分かってもらえる。
いなくなった仲間が見つからないまま探し続けるよりも、冒険者は仲間の遺品を見つけて弔えた方が、よっぽど前を向けるんだ。
……冒険の合間に拾うこともあったから、私もいろいろ見てきた。
『どうどう、フルル。似合ってね?』
ティーカーが耳飾りじゃなくてベルトみたいに腰に付けて堂々としてるから、思わず「似合ってる」って笑っちゃった。
細い腰をつついてみたけど、くすぐったがってるティーカーのお腹の上を回るだけで、ちゃんと取れなかった。
オルディアも私と一緒で、受注証を左耳につけていた。
魔王と勇者が同じ場所に同じ飾りをつけてるのもなんだか面白いけど、何より思ったことがあったから、つい示しながら笑ってた。
「オルディアが受注証つけてるの、すっごく似合ってるよ。えへへ、みんなでお揃いも嬉しいね」
偽物のティーカーと冒険者登録したときは、必死だったし笑う余裕すらなかった。
今は先輩冒険者なのもあって、照れくさそうに顔を逸らしたオルディアにも教えてあげられる。
ティーカーは私のそばである程度知ってるから、ふわふわ浮きながら考え込んでた。
『でも初級から上がるにも、討伐依頼だと俺に出来そうなことがないよなぁ。
……いや、俺も戦えばいいのか。フルルの背中守る感じで。ちっこいけど支援するってことで。ミエットとか回復魔法でも得点稼いでた気がするし」
「えっ、ティーカー一緒に戦ってくれるの!?」
『人形使いの人形が戦えるのに、俺が戦えないのもおかしいだろ?
オルディア、この体の強度ってどうなってんだ?』
「普通の人間と同じだが、魔力で出来ているから痛みはないし、傷はすぐに塞がる。
戦うのはやってみないとわからないな……今後はもう少し動けるように考えるか」
『じゃあ今回はお試しってことで動き回ってみようかな。
へへ、冒険の最中に改良されてくなんて人形使いの人形そのものだな』
まだティーカーは体をもらったばかりだけど、肩に乗ってる金髪に青の瞳の幼馴染とまた前衛を張れる日が来るなんて、嬉しい。嬉しすぎる。
私もどうすればいいのか必死に考えて、オルディアの神官服の袖を引いた。
「じゃあ人形使いの店がリットルムにあったから、オルディアに連れて行ってもらおうよ。人形用の剣売ってたの、見たことあるんだ。
ね、オルディア、お願い。連れてって!」
パーティ登録の消去が完了したってギルド職員に教えてもらえたら、私たちはすぐにリットルムの街に移動した。
普通の冒険者なら出来ない移動も、オルディアならあっという間に連れて行ってもらえる。
華やかな芸術文化の街だからみんなで観光したいところだけど、人形用の装備を揃えたら、今回はレイクロッグの街にすぐ戻った。
ちゃんと理由がある。
ぐきゅるるー。
「リットルムの物価高いんだよね、他の町の倍以上するんだ……。
私じゃまだ到底出せないから、今日はレイクロッグの街で食べよう?」
魔王城に到達した時の荷物は返してもらえたけど、お金がないのは変わらない。
勇者パーティのお財布は、今は剣を振るのに夢中になってるティーカーの初めての装備代を出したらほぼ空になった。人形用の剣って特注だから人間用より高いんだって、知らなかった。
「可愛い音が人形用のご飯を見るだけで聞こえていたからな。
僕が出すから、気にせず食事に行けばいいのに」
「贅沢は敵。だめ、絶対」
腕を交差させて拒否したけど、冒険者パーティは仲間との共有資金から、全員分の衣食住の代金を出すことになっている。
勇者パーティは特殊で、私の資産も共有資金扱いだったから、全部リーダーとして管理しなきゃいけないんだけど……予想以上の出費だったから、これ以上の贅沢はだめって勇者の勘が言ってる。
「それに、レイクロッグには思い出のご飯もあるんだ。
まだあるかも知りたいから、行こ?」
市場への道を示して、進もうとする。
オルディアが手を差し出したから、冒険者ギルドに行く時も繋いでたし、私から握り返した。
「えへへ、勇者はちゃんと学ぶんだからねっ」
街並みを見ながら、一緒に歩く。
オルディアは照れくさそうに、でも嬉しそうに笑って、繋いだ手に目を向けた。




