新たな旅立ち
小麦色の三つ編みおさげが特徴的な、聖剣の勇者フルル。
幼馴染の魔王オルディアと、同じく幼馴染の、聖剣の守護者ティーカー。
私たちは村の外へ踏み出した。
幼い頃から夢見ていた冒険の旅へ、ついに出た。
というわけで。
「レイクロッグの街、到着ー! あっという間だったねっ」
今は森を抜け、川を渡り、村の一番近くの街レイクロッグに辿り着いていた。
子供の足だと二日かかったけど、大人の私だと半日もかからなかった。
神官装備のオルディアも問題なく付いてきてくれたし、人形くらい小さなティーカーはカバンの中から風景を楽しむ余裕すらあった。ふう、快適な旅だった。
「ずっと走ってたな……」
『体力つけるためにもって、冒険中は常に小走りだったからフルルに染み付いてるんだろうなぁ』
「合間に出てきた魔物も倒せたし、いい感じだったね。
さ、それじゃまずはオルディアの冒険者登録しようか。ギルドはこっちだよ」
「フルル」
「ん?」
振り返ると、体が魔王の腕に包まれた。
あれ? 待ってよ、これって。
――抱き合ってる!!
街の往来だから、慌てて離れようと踏ん張った。
恥ずかしいし抗議のためにもオルディアを見上げたけど……半淫魔の美形の唇が、おでこに触れたから目を閉じちゃう。
「僕たちは合流したてだから、あまり急がず、まずはお互いの歩調を合わせていこう。
フルルの冒険で何があったのか、僕も景色を見ながら尋ねたいときもあるし……歩きながら旅をした方が、フルルの目指す『誰かを助けるための旅』にも繋がりやすいはずだ」
あ、そっか。
魔王討伐の、急ぐ旅は終わったんだ。
今は魔物退治や、困っている人を助けることこそが優先。
歩きながら細やかなところに目を向けられたほうが、確かに良いかもしれない。
「そっか、そうだよね……。
えへへ、言ってくれてありがとう、オルディア。今度からそうするねっ」
幼馴染なのもあって、オルディアが遠慮せずはっきり言ってくれるのがありがたい。
提案に素直に頷くと、抱きしめられたままだった体も離してもらえた。
「……っ!?」
でも今度は自然に手を取られて、恋人みたいに繋がれてる。
さっき抱きしめられたのもあって、肌の温もりに変にドキドキして、触れ合った部分を見ちゃう。
「分かってくれたならいい。
さあ、次は冒険者ギルドと言っていたな。どこにあるのか案内してくれ」
「う、うん。こっちだよっ」
銀の髪に深緑の瞳の魔王に微笑まれると、顔が熱くて調子が狂う。
石畳の道を手を繋ぎながら歩き出したけど、様子見していたティーカーが、カバンから金色の頭を出して笑った。
『レムスは相変わらずフルルの舵取りがうまいな。手を繋いでたら走れないもんな』
「僕より先を突っ走っていく仲間が二人いたから、十分に学んでいる。
ちゃんと意思表示して行動しないと、あっという間に置いていかれるんだ。
……お前もその一人だったはずだぞ、ティーカー」
ティーカーとオルディアが二人でワイワイしてるのも、昔っぽい。
だから私も落ち込む間なんてなくて、楽しさに自然と笑っちゃってた。
今行こうとしている冒険者ギルドは、街の人たちから冒険者にお願いしたい依頼が集まる場所だ。
大きな街には必ずある施設で、中はギルド職員のいるカウンターと、依頼を掲げる掲示板、情報交換用の酒場などが併設されている。
早速奥にいた職員に声をかけて、まずはオルディアの冒険者登録をお願いした。
登録料は子供でも払えるように『お布施程度』で金額は決まっていないから、オルディアがいくら出すのかを見ていたら、高めのお布施が出てきた。さすが魔王、お金持ちだ。
「オルディアさんは祭壇で実績が確認されませんでしたので、初級から開始となります。
こちらの書類をご記入ください」
ギルドには職員用の祭壇があるけれど、お告げは冒険者に関しての情報を引き出すためのものだ。
冒険神カイナスがまとめるギルドは世界中で同じ冒険者登録を参照出来るようになっている。
階級は初級から始まって、依頼をこなして貯めた得点で低級、中級、上級、特級と級が上がっていく。
「特級冒険者であるフルルさんが依頼を受ければ、オルディアさんは上級依頼でも参加が可能です。
ただし貢献度に応じて冒険神が得点を振りますので、活躍出来ない危険な依頼を受けても命を落としてしまう危険性が高まるだけです、ご注意ください」
オルディアはギルド職員の説明を聞いて、綺麗な文字で申込書を埋めていく。
冒険者は根無草が多いから、住所は記載不要だ。
『魔界在住』なんて書かずに済んだのを、カウンターに寄りかかりながら楽しく眺めてた。
「職業か……」
でも、登録のために必要な職業欄でペンが止まった。
最後に考えようと思ったのか、オルディアが他の項目を埋め始めたから、私もパーティリーダーとして考える。
……冒険神が祭壇に捧げられた書類をこの後確認してくれるけど『魔王』って書いて受け入れられたら、流石に騒ぎになるよね。
だって『神が認めた本物の魔王』ってことなんだもん。
私も職業欄は、小さい頃に書いた『剣士』のままだ。
村が勇者を探しにきた魔族に襲われたばかりだったから、レイクロッグにまで迷惑を掛けそうで、勇者って書けなかったのを……冒険者ギルドの中は当時と同じ風景なのもあって、思い出す。
オルディアも最後まで書き切ったけど、職業は空欄のままだった。
私も申請時の必須項目なのは分かってるから、悩む幼馴染を見上げた。
「オルディアなら神官でも魔法使いでも良さそうだし、格闘でも私に勝てたから、大体なんでも通ると思うよ。
私は剣士にしてるんだ。
気にせず、好きなの書いていいんじゃない?」
「……? わざわざ書かせるということは、職業によって受けられない依頼があるわけではないのか」
「うん。登録証に『確実に出来る職業』として書かれて、依頼主と会うときは証明書にも出来るってくらいだから、有利不利はないんだ。
利点があるとすれば『冒険神が認めた職業』ってことだけかな。
私のおすすめは、やっぱり神官かな……? 資格持ってるって言ってたし、一番オルディアっぽいよね」
二人で話し合っていると「あっ」なんて声がカバンの中から聞こえた。
突然ゴソゴソ慌てるからどうしたのかと思ってたら、ティーカーが顔を出した。
『待った待った、レムスの職業なんでもいいなら『人形使い』希望させて。
ほら、フルル、魔法で人形動かしてた冒険者いただろ?
お友達だからって、冒険者登録までしてたシャナールの女の子。俺も同じにしてほしいんだ』
「あっ、それいいかも!
ねえオルディア、職業『人形使い』にしない?」
「構わないが……僕が人形使いにすると、ティーカーまで冒険者登録出来るのか」
「うん。自分の大切な家族だって連れて、一緒に戦ってる冒険者もいるからね。使ってる人形も、仲間として冒険者登録してあげられるんだ。
街の中で怪しまれても人形使いの登録証があったら、冒険神が認めた関係だからティーカーが動いてることも誤魔化しやすいよ」
『レムス、頼むっ。俺もカバンから出たいんだ』
「それなら、もちろん。ティーカーが僕の人形だと言われるのが嫌でなければ、書こう」
『この体がレムスの魔力で出来てるのは分かってるし、問題ないぜ。
へへ、あとは冒険神に認めてもらうだけだなっ』
成人男性をそのまま小さくした姿で、でも精巧なお人形って言われても通じるティーカーが、喜んでカバンの中に引っ込んだ。
必須事項を記入して提出したら、ギルド職員が祭壇に置く。
あとは神が承認すれば、登録証が出てくる。
でも……今回はなかなか神が降りてこないらしくて、職員が戸惑う後ろ姿が見えた。
「普通はすぐ通ったり弾かれたりするんだけど、時間がかかってるね」
「聖剣の所有者はフルルだし、魔法でティーカーの体を作っただけの僕を人形使いとして認めるか、神も悩んでいるのかもしれないな」
「……あ、でも申請降りたみたい! 登録証が出てきたよ」
待っていた私たちの前に、冒険神から『特例』って職業欄に書かれた登録証が授けられた。
やっぱり神も、認めるか悩んだらしい。
でも人形使いなら人形も登録出来るから、ティーカーもカバンから出てきて冒険者登録させてもらった。
私のパーティには同名の仲間がいるけれど別人で判定されて、オルディアと同じく初登録の初級になった。
「……すごいな。三人とも村から出て、同じ街で冒険者になったなんて……夢が叶った気分だ」
オルディアが自分の登録証を見ながら、口元を綻ばせている。
ティーカーも自分と同じくらいの大きさの登録証をカウンターの上で掲げて、キラキラした青い目で見つめてた。
『もう冒険者になるなんて無理だと思ってたのに、まさかフルルたちと一緒になれるとは思ってなかったなぁ……。
へへ、嬉しいっ。こんな奇跡も起こるんだな!』
「私も三人で冒険者パーティ組めて、最高っ。
これもオルディアのおかげだね、ありがとう!」
「僕は書類を一枚書いただけだ。
……よし、同じ初級同士、頑張って特級に追いつこうかティーカー」
『おうっ、頑張ろうぜ!』
拳を合わせて笑った二人とカウンターを離れたけれど、オルディアの肩の上に乗ったティーカーが、興奮したまま足を上下させている。
『そうだ、俺だけいつまでもレムスって呼んでたけどさ。登録名オルディアにしてたし、俺ももうその名前で呼んだ方が良いよな?
ってか呼ぶのまだ慣れないんだけど、オルディアって名前、自分でつけたの? どういう意味?』
「この名前は魔界に連れて行かれた時、魔神に洗礼を受けて授かったものなんだ。
……人としての名前は、魔界では許されなかった。
意味は……ないんじゃないか。
魔神は適当なんだ、語呂や語感で付けたりもする」
『うそだろ、魔王の名前まで適当かよ!?』
衝撃の名前秘話を教えてもらいながら賑やかに話す私たちは、次は依頼を受けるための掲示板に向かった。




