故郷からの旅立ち
改めて墓守してくれるご家族にお礼を伝えてから、みんなのお墓に持ってきた花をお供えした。
騒ぎにならないようオルディアの服に隠れていたティーカーは、今は私と一緒にお供えの花を捧げて回ってる。
神官の杖を携えたオルディアも、修復された聖堂を背景に、今は静かに祈りを捧げていた。
「ねえねえ、ティーカー。ああやって神官らしくしてると、レムスが夜に神官様とお墓を磨いて、毎日お祈りしてたのを思い出すね」
『昔からマメだよなぁ。
そうそうフルル、今はレムス、見習いじゃなく本物の神官なんだってさ。
体が魔族に変わったって、神官様が育ててくれた通り修行をやりきりたいって続けたから、実は神にも魔神にも祈れるらしいぜ』
努力家なところは、昔から変わらないんだ。
村にようやく戻ってこられたレムスがお祈りを捧げる間に、お花を先に捧げて進んだ。
幼い字で名前を掘り込んだ石に『神官様』を見つけたから「神官様、戻ってきました」って声を掛けた。
オルディアもちょうどお祈りが終わったらしく私のところに来て、懐かしそうに目を細めて……静かに跪くと、墓石に触れていた。
「レムスが会いにきてくれて、きっと神官様喜んでるよ。
ティーカーから聞いたけど、今はちゃんと神官になったんでしょ?
息子は見習いから成長したんだ、大きくなった、って……神官様も今頃安心してるよ」
神官様がレムスの……オルディアの出自を知っていたかは、もう分からない。
でも神官様の豊かで綺麗な心で育てられた魔王は、教え通り優しく生きてきた。
覚醒したって、魔族の強い破壊衝動にも負けずに成長した。
子供の頃の黒髪に若草色の瞳じゃなくて、銀髪に深緑の瞳になったオルディアは神官の杖を手に、少し複雑そうに笑ってた。
「父さんも、まさか今は僕自身が魔王になったとは思わないだろうな」
「あはは、それはそうかも。
でも魔王オルディアは悪いことする魔王じゃないんですよ、神官様。
魔族に人間との関わり方を伝えて、平和な世界を一緒に目指してくれる、史上最強の魔王になったんですからね」
昔みたいに微笑んで……今はまた静かに祈りを捧げ始めたオルディアは、大切なお父さんと積もる話があるはずだから、ティーカーと二人でお祈りしたら先に離れた。
ティーカーのご両親のお墓も見つけたから、おじさんとおばさんが道具屋の店先によく飾ってた花を捧げた。
今は小さくなっちゃったティーカーも、地面に足をつけて自分からお花を置いて、跪いて祈ってた。
普段は元気な幼馴染は、お墓を見ながら少しだけしんみりしてて……でも笑って立ち上がった。
『ドラ息子、もういい、早く勇者の力になりに行きな、って親父もお袋も怒ってそうだから行こうぜ』
「あはは、よく怒られてたもんね、ティーカー」
『まぁな。今はちゃんと勇者パーティとして冒険に出てるし、うちの息子は聖剣の守護者になったって、自慢して回ってるんじゃねえの』
道具屋のおじさんとおばさんらしい姿が思い浮かんで、金の髪に青の瞳のティーカーも誇らしそうに笑ってるから、私も笑い返してた。
……私も少し先で、今度はお父さんとお母さんのお墓を見つけた。
村の中で二人の遺品を見つけて、いつまでもそばにいられますようにって神様にもお願いした通り……お墓は移されていても隣にあったから「よかったね」って安心してお花を手向けた。
「お父さん、お母さん、勇者フルルただいま戻りました。
前の魔王と、四将はみんな倒したから安心してね。
今の魔王はレムスなんだ。だから倒せないけど……でもきっと世界はこれまでよりも、ずっと長く平和になるよ。
だから……安心して眠っててね」
お墓の前で思い出話もしようとした。
でも……この八年、いろんなことがあったなって思い出しちゃうから、お墓を見つめながら心の中で話しかけてた。
……ねえ、お父さん、お母さん、聞いてよ。
私ね。村を旅立ってからも、ずっと苦難の連続だったんだよ。
私のパーティ、全員魔族だった。
恐ろしいことに全員、敵だったんだ。
お父さんの仲間はみんなこの村で一緒に住んでてずっと仲良しだったのに、大違いだね。笑っちゃうよね。
でも……今は隣にきて、祈りを捧げてくれるレムスもいるよ。
聖剣の守護者になってるけど、私の肩に乗れるくらい小さいけど、ティーカーも一緒に戻って来られたよ。
だから、それは……魔族への復讐のために必死になってた頃より、ずっと幸せなことだと思ってるんだ。
……心の中で言葉を掛け続けてたら、オルディアがうちの両親の墓石に触れた。
「フルルのおじさん、おばさん。最後の約束、覚えてます。
だから……今後もフルルと、世界を平和にするための行動を続けていくつもりです。
……僕たちを逃がしてくれて、ありがとう」
三人を連れて、お母さんが森の中を一緒に走ってくれた。
私たちを守るために村に戻って、きっとお父さんと戦ってくれたんだよね。
『生きて、平和な世界を作ってね』
最後にお母さんが願った言葉は、ちゃんと私たちの心に残ってて、みんなで守ってるよ。
改めて幼馴染三人で故郷の村に戻ってこられたんだって、オルディアの言葉に込み上げてくるものを必死にこらえてると、手を繋がれたから涙も引っ込んじゃってた。
「フルルは立派な勇者になったって、おじさんもおばさんもきっと喜んでるよ」
今みたいに優しい言葉で話してくれるオルディアに、なんだか調子が狂っちゃう。
小さい時はレムスともよく手を繋いでたのに、今はもっとずっと大きくなった手が包み込んでる。
ドキドキして、そうだ、両親にこれこそ伝えなきゃって慌てて向き合った。
「お父さん、お母さん。レムスと、えっと、今は魔王オルディアなんだけど、結婚します。
まだまだ先になると思うけど、決まったら伝えに来るから。空から結婚式も見に来てねっ」
恥ずかしくても伝えたけど……これが一番喜んでくれる報告かもって思うだけで、なんだか嬉しくなってた。
三人で、村のみんなにお花を捧げて、たくさんお祈りした。
気の済むまで祈りを捧げて……決心がついたら、よし、って立ち上がった。
「さ、行こうか。
オルディアから魔族への退避勧告は済んだって言ってたよね?」
ティーカーが肩に戻ってきて、神官の杖を手に立ち上がったオルディアも頷いている。
「全魔族に『勇者が今から人間界の魔族を狩り尽くしにいく。僕もこれ以上残るなら灰に変える』と伝えた。
人間界に故意に降りたり、残る魔族がいれば僕たちで狩ろう」
「じゃあ……お父さん、お母さん、みんな。忙しくなっちゃうけど、また魔族退治に行ってくるね」
元勇者のお父さんに『落ちこぼれ勇者』って叱られて育った私は結局、魔王オルディアを倒して平和な世界を招くことは出来なかった。
でも……時間をかけても、何度だって世界を巡って良くしていくことは出来るはずなんだ。
魔王オルディアがいれば、聖剣の守護者ティーカーがいれば、世界中の誰もが目指す『いつまでも続く平和』を作れるはずだって、村の入り口に三人で立った。
「さあ、今から新しい冒険の始まりだねっ。
それじゃ、レムス、ティーカー、行くよ!」
銀髪に深緑の瞳の、神官レムス……今は魔王オルディアが、隣に立って拳を合わせてくれる。
金髪に青の瞳の守護者ティーカーも、ふわふわ浮きながら小さな拳を合わせてくれた。
小麦色の三つ編みおさげが特徴の勇者の元へ集まったパーティーは、お互いの目を見て……今こそ始まりのときだって、久しぶりの声を村に響かせた。
「誓い、その一つ! 勇者の名に恥じぬ行いをしよう!」
「「「えい、えい、おー!」」」
生まれ育った村の空に向かって高々と拳を掲げた三人は、こうして新たな旅立ちを迎えたのでした。
おしまい。




