お墓参り
後日。
私は城外に出られなくなっていた魔法をオルディアに解いてもらった。
「まずは墓参りのお供え集めだな。行くぞ」
オルディアは神官装備、私とティーカーは剣士の冒険者装備で目的地の花畑まで空間移動した。
到着してすぐ、吹き抜ける風にオルディアの銀の髪が荒らされたけど……気にもならないくらい景色に釘付けになってるみたいだから、紹介した私も得意になっちゃった。
「フルルから花の海だと聞いていた通り、凄い場所だな……想像以上だ」
街道の両脇には、様々な種類の花が咲いている。
辺り一面色とりどりの花で埋まっている平原なんだけど、実は妖精の管理地だ。
だから手入れも行き届いてて、枯れた花は一つもない。
肩の上に座るティーカーも青の目をキラキラさせて、心地いい風に金の髪を靡かせてた。
『リムレーズ平原かぁ、懐かしいな。
『灰が出るから魔物をここで倒さないで』って妖精に言われたフルルが、魔物を足で摘んで投げ飛ばしてたの覚えてる。あれ面白かったよなー』
「足で摘んで……投げ飛ばす?」
「うん。妖精たちに『お花を踏まないで』って言われたから、指だけで逆立ちしてね。
花の間に飛び込んで着地しながら、新芽を食べてるクラウドラビットだけを掴むの」
カバンを遠くに投げ置いて指で逆立ちしたら、そのまま地面を弾いて逆立ちのまま一気に移動した。
体を倒すとカバンを両足で挟んで、そのまま遠くへ投げるふりだけする。
私も体のバネを使って、元の位置へ戻った。
「こうやって投げて花畑の外で戦えば、お花にあまり影響出ないでしょ?
三つ編みおさげも編み込んで帽子の中に入れたり、工夫したんだよ」
『ははっ、フルル面白いよな。俺と違って魔法使えるんだから、風で弾き飛ばして戦えば良いのにって思ってた』
「風はお花が散っちゃうでしょ。野菜についてる虫を摘み取る仕事をしたばかりだったから、クラウドラビットも同じくつまめばいいやって思ったの」
「僕も見たかったな……」
オルディアに羨ましがられるから恥ずかしくなっちゃったけど、お花は無事だったって依頼主から喜んでもらえたのは覚えてる。
妖精は今のティーカーより少し小さい、手のひらくらいの大きさだ。
成長を促す踊りを踊っている中に、以前討伐依頼を受けた子を見つけたから呼び止めて事情を話したけど、快くお花を分けてもらえることになった。
「あれ? 二人とも、もしかして妖精見えてるの?」
突然空中に話しかけるから偽物のティーカーたちには不気味がられたのに、本物のティーカーにもオルディアにも妖精が見えるらしくて驚かれなかった。
『俺は見える。今は似たような大きさになってるけど、妖精ちっこくて可愛いよな』
「魔界にも、たまに迷い込むんだ。
僕が目で追うと慌てて逃げていくから、普通は見えないらしいな」
仲間と情報共有出来るのが嬉しい。
妖精に案内してもらった私たちはお花を選んで、一つ一つ摘み上げていった。
村に元々生えてた花を見つけたから、懐かしく空にかざして見てたけど……そうだ、魔族に攫われたから故郷の現状を知らないオルディアに言わなきゃって、神官様がよく捧げてた白いお花を集めてる彼を振り返った。
「ねえ、オルディア。村に空間移動したらすぐに浄化魔法使うから、入るの待ってもらっててもいい?」
「浄化魔法?」
「村がね。多分、魔族の灰と血が放置されたままだったから……地面腐っちゃってるんだよね」
大量の魔族の灰は、雨が降ると粘った泥になる。
でも人間の血と一緒に放置すると、呪いによって地面が腐って草木が生えなくなる現象は、冒険の途中で初めて知った。
「『風上からずっとカビとすえた匂いがする』って調査依頼を受けたんだけど、腐った土で覆われた村があってさ。
原因を調べたら、血と灰で呪いが生まれて、土が腐っちゃったんだって。
浄化魔法で改善されたけど、魔族に襲われた村って報復を怖がって誰も近寄らないし、そのまま荒れちゃうんだよね……みんなのお墓を作ったらすぐに村を出ちゃったけど、灰だけでも別の場所に穴掘って埋めておけばよかったって後悔してるんだ」
あれほど帰ろうって思ってた場所なのに、想像の中の故郷は荒れ放題だ。
森を切り開いて村を作ってたから、生い茂る枝葉に覆われて日陰ばかりになって……ますます荒廃も進んでるはず。
「お墓もね。子供の手作りだったから、一個に集合させるとか考え付かなくて。
村には辺り一面に小さな石で作ったお墓が置かれてるんだ。……今考えると、ちょっと不気味な雰囲気になっちゃってるかも……」
旅の合間に、魔族によって破壊された村はいくつも見てきた。
懐かしい私たちの村を少しでもいい状態で見せてあげるのは、やっぱり最後まで残ってた私の責任かなって思ったから「お願い、村の入り口で待ってて」って伝えた。
ティーカーは旅立ちの日を知ってるから慰めてくれたし、オルディアは私の気持ちを汲んで受け入れてくれた。
今は『少しでも故郷のみんなを想う気持ちが届きますように』って、三人で綺麗なお花をたくさん摘んだ。
両手いっぱいのお花を抱えたら、妖精たちにお礼を伝えてから空間移動した。
……死霊系の魔物が住み着いて、村を荒らしている可能性もある。
地面は一面腐った土だらけ、燃やされた家屋は灰のまま、荒廃しきっている。
「……え?」
そう、思っていた。
けれど……入り口から見える光景に、思わず目を瞬いていた。
地面には、鮮やかな草花が咲き誇っている。
荒れた家も残されてあるけれど、新しい家も建って、人が数軒住んでいた。
三人で足を踏み入れた先では、仲の良さそうな家族がお墓を磨いてくれている。
ティーカーと二人で作った、子供だけで必死に作った不恰好なお墓が、たくさんある。
それでもみんな神官様の墓地に移されて、穏やかな日の光を浴びていた。
お墓を磨いてくれてたご家族が桶を持って立ち上がったから、急いで声をかけに向かった。
「あの、すみません。この村に住んでる人ですか」
「はい、主人と数年前に移住してきました。……失礼ですが、あなたは……?」
「私は、昔……この村に住んでいて……」
勇者と関わりを持ったって知られるだけで魔族に襲われることもあるから、それ以上は言えなかった。
けれど人の良さそうな女性は悲しい顔をすると、指を組んで神に祈りを捧げた。
「では、ぜひ一緒にご冥福をお祈りしましょう。
私たちも旅の途中でこの村に辿り着いたのですが、すでに焼き払われた後でした。
お墓が残されていたので、誰かが墓守しないと廃れてしまうと、主人と守っていたところなのです」
「こんな、何もないところなのに……守ってくれたんですか」
私が旅立った時、村は無惨な状態だった。
辺り一面、血の赤と魔族の灰でいっぱい。
焼け焦げた家の周りは、私たちの作ったお墓だらけで……それでも魔王を倒すため、旅立たなきゃいけなかった。
女性は首を横に振って、両手で掴めるくらいの石が綺麗に並べられてる墓地を振り返った。
「村は魔族にやられたのでしょう。
ですがお墓を建てた方が魔族の再訪を恐れず、亡くなられた方一人一人に思いを寄せたのは、見ればわかりました。
もうお墓を作られた方はいらっしゃいませんでしたので、勝手にですが、私たちが引き継ぎを……あの、どうされましたか!?」
誰にも伝えられなかった気持ちを分かってくれる人がいたんだって思ったら、勝手に目から何かが溢れてた。
生き残ったのは偽物だったけど、ティーカーと二人で穴を掘って、埋めて、聖剣で一人ずつ名前を彫った石を置いた。
子供なりに一生懸命、みんなを埋葬して回った。
勇者の村だなんて、知る人じゃなくても。
大切な人たちを、安らかに眠らせてあげたい気持ちを分かってくれた人がいた。
お父さんやお母さんを、みんなを、暖かくて賑やかな場所に移して……村のみんなを同じ場所に行かせてくれたんだ。
私の故郷には、そんな優しい人が今は住んでくれてるんだって、知られただけでも嬉しくて……お礼を言おうとしたら、つい花に顔まで埋まってた。
「あっ、ありがとう、ございますっ……っお父さんも、お母さんも、おじさんも、おばさんも、みんな、みんなっ、きっと、喜んでます……っ」
冒険の合間、故郷に思いを馳せることはあっても、私は何も出来なかった。
でも花に溢れて、少しでも良い場所になっていて……気づいたら泣きながらお礼を口にしていた。
オルディアも、私のそばで神官の祈りを捧げていた。
「ここで亡くなったのは、僕たちの家族や、一緒に暮らしてきた仲間なんです。
彼女が生き残って、お墓を作ってくれたから……帰れないことを長く気にかけていて」
「まあ、そうでしたか……あの、よければうちへどうぞ。
少しずつこの村も移住者が増えて、村らしくなってきましたよ」
お花は一旦、水の入ったたらいに置かせてもらった。
招いてくれた方にお話を聞けたけれど、元々冒険者をしていたらしい。
カルバ山は中級の冒険者が登る山だし、良い薬草も取れる。
だから行こうとしていたら壊れた村を見つけて、お墓の掃除に通ううちに腰を落ち着けることになったと教えてくれた。
「村が新しく出来てしまうことは複雑かもしれませんが、ここはいつまででも、あなたの故郷です。
よければ、いつでもいらしてください。きっとご家族が来られたことを喜ばれると思います」
「お父さんも、お母さんも、みんな喜んでると思います。
お花でいっぱいになってて、綺麗になってて、私も嬉しかったです」
誰もいないから、魔族に襲われた村だから……怖がって捨て置かれて、荒廃して寂しい場所になってることを覚悟してたのに、恐れずに寄り添ってくれる人もいた。
……何度打ちのめされたって、人間は力強く営みを続けていけるんだ。
そんな希望の持てる光景が、窓の外には明るく広がっていた。




