告白
どれくらい時間が経ったかも分からないくらい、オルディアに愛された。
全身はすっかり汗と涙で濡れて、意識が朦朧としてる。
体力は無尽蔵だと思ってた私でも、ベッドに沈む身体がもう動かない。
唇が重なったら鼻息をたくさん当てちゃったけど、そんなこと気にもならないくらい、魅了の状態異常で頭がふわふわしてた。
でも精気を吸えたおかげで魔力が戻ったのか、オルディアが理性を取り戻したように見える。
覆い被さる魔王のサラサラの銀髪が、窓からの月明かりに光って綺麗……深緑の瞳が熱情に潤んで、表情も色っぽいのに見惚れてる。
細い指に頬を撫でてもらえると、気持ち良くて瞼が勝手に閉じちゃった。
目尻に溢れた涙を優しく拭ったオルディアから、静かな声が聞こえる。
「……小さい頃から、ずっとフルルのことが好きだった」
もしかして、疲れて寝ちゃったって思ってるのかな。
頬を撫でてた指が今度は頭に触れて、小さい頃泣いてた時慰めてくれたみたいに『いい子いい子』ってしてくれる。
「どんな時でも明るく手を引いてくれるフルルのことが好きで、ティーカーともよく話してた。
フルルはティーカーの方が前衛同士で仲がいいけど、どうしても好きだから……僕も負けないって思ってた」
懐かしむ声に、幼馴染が集まって話す姿が甦ってくる。
レムスは恋の話なんてしなかった。
だからティーカーとも「どっちがお嫁さんにするか」なんて真剣に争ってたのは知らなかった。
今、私に触れる指先は、少しだけ震えてる。
「いつだって誰かのために戦えるフルルを、尊敬してる。
……今日は僕のために精気を分けてくれてありがとう。
大好きだよ、フルル……おやすみ」
あ、そっか。
私が「していいよ」しか言ってないから、助けるために体を捧げさせたって、オルディアは後悔してるんだ!
髪を梳く指が離れていく。
落ち込む小さな溜息に気づいたら、動けないのに今すぐ抱きしめたくなって……思い通りにならない体から、涙だけがこぼれてた。
銀の髪に深緑の瞳の魔王は、いつか魔王城へ辿り着く私を信じて待ってた。
大人になって出会って、勇者として襲いかかるばかりなのに、それでも私のことを好きでいてくれた。
妻になって欲しいって、自分から告白もしてくれた。
オルディアは何度だって気持ちを伝えてくれたのに、私は答えを誤魔化してきた。
今も……魔族の衝動を防ぐために精気を吸わせたって、思われたままなんだ。
「……っ!」
そんなの、嫌だ。
必死に歯を噛み締めて、魅了抵抗した。
囁きで重複されてたって、意地でも全部解除してみせた。
伝えたい言葉が、私にもある。
……今じゃないと、駄目なんだ!
勇者として鍛えてきた根性で体を動かして、背中を浮かせる。
身体が重いけど、驚いて目を丸くするオルディアに腕を絡めて抱きついた。
抱き止めてくれる幼馴染の耳に唇をつけたら、素直な気持ちが溢れてた。
「レムスが、っオルディアが、私も好き……っ」
小さい頃から、優しいレムスのことが大好きだった。
まだ恋なんて気持ちじゃなかったけど、大切な仲間で、ずっとそばにいたいって思ってた。
魔王になってからも一緒に夜空を見上げて、とりとめもない話を続けた。
ご飯を一緒に食べたり、そばにいるのが楽しかった。
ドキドキするのも、魅了のせいだって思おうとしてきたけど……状態異常を解いたって、私の気持ちは変わらないんだ。
「オルディアのことが、好きだよ。
幼馴染のお友達としてじゃなく、男の人として、私、オルディアのことが、好き……っ」
耳元で吹き込んだって、勇者の囁きになんて効果は何もついていない。
それでも必死に伝えた相手が私に振り向いたから、重くて動きづらい体でも動かして、気持ちが伝わってほしくて……自分から唇を重ねてた。
「大好き……オルディアのことが、だいすき、だよ……」
あれ?
告白の最中なのに、目の前が少しずつ暗くなってくる。
気づいたら瞼が閉じて、オルディアにもたれかかりながら動けなくなってた。
「フルル……っ!?」
せっかく想いを伝えようとしてたのに、体がもうこれ以上は動かなくて、少しでも伝えられた安心感もあって眠っちゃったみたい。
回復魔法で全身が温かいし、二人で大騒ぎしてる声も聞こえるけど、気のせいかな。
……あれ、聖剣の神だ。「早く帰りなさい」って言われたけど、夢?
そんな、翌朝。
起きたら聖剣を抱えてる私は、明るい室内でオルディアの腕の中にいた。
ティーカーはハンカチのお布団を蹴飛ばして寝てる。
目覚めたオルディアが見つめる私に気付いたらしくて、甘く微笑んで唇に触れてきた。
「おはよう、フルル。……昨日は悪かった。吸い尽くせるだけ吸い尽くしたらしい」
体力も魔力も吸われて、瀕死状態に近かったのかもしれない。
淫魔に吸い尽くされてベッドの上で亡くなってた人もいるくらいだから、私も危なかったのかな。
神にも追い返されたのを思い出して、限界を超えても動いてたことが恥ずかしくなっちゃった。
でも勇者を食べたことで回復出来た魔王が目の前にいるから、寝巻きの胸に顔を埋めた。
背中に腕を回して抱きついたら、私からの行動にオルディアの鼓動がちょっと早くなったのが聞こえた。
「いいよ、襲ってってしたの私だし。
どうかな、体調良くなった?」
「ああ。フルルのおかげで良くなった。……ありがとう」
とくとく、鼓動が聞こえるのがなんだか落ち着く。
見上げたら、唇を奪われて……私も目を閉じてキスし返してた。
「フルル。もう一度伝えるから……僕からの求婚に、答えが欲しい」
一緒にお風呂に入った日のやり直しだ。
真剣な表情に頬が熱くなってると、両頬に手のひらが触れて、美形になった魔王が真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
「僕は生涯、フルルを離さない。
でも……フルルには、自分の意思でそばにいてほしい」
両頬を押さえられてるから、今度こそ逃げられない。
囁かれてないのに耳まで熱くて、でも続く言葉を求めて魔王を見つめてた。
「フルルのことを、ずっと好きだった。今も捕らえて離したくないくらい、好きだ。
勇者フルルを……僕の妃に欲しい」
囁いてこないのは、正気のままで言葉が欲しいからだ。
私も今は自分の気持ちが分かってるから、深緑の瞳を見つめ返して……嬉しい気持ちが込み上げてくるまま、素直に笑ってた。
いつもされっぱなしじゃ悔しいから、私の方がオルディアの形のいい耳に顔を寄せて……小さな声で囁いた。
「うん……なる。魔王オルディアのことが、大好きだよ。
勇者だけど、魔王のお嫁さんにして」
大好きで、大切な幼馴染。
強引でも、心優しい魔王。
全部含めてオルディアを好きなんだって、囁いて……魅了されたみたいに吐息したオルディアが、掻き抱いて唇を重ねてきた。ベッドの上でまたもつれてた。
「フルル……っ好きだ、フルル」
「私も……んん、私も、オルディアのことが大好きだよ……っ」
朝から何度もキスしてる。
でも嬉しそうな深緑の瞳を見つめるだけで笑顔になって、自然と言葉も溢れてた。
「レムスが魔族になって、今まで頑張ってきたことで出会えた『魔王オルディア』のことを好きになっちゃったんだ。
だから……魔王としても受け入れるし、魔族として精気が欲しい時は、遠慮せず吸っていいよ。いつもみたいに囁いて、私を食べて」
狂おしそうに抱きしめてくる魔王と抱き合う。
そのうち、首筋にキスされた体が跳ねてた。
ベッドが激しめに揺れたけど、まだ起きないティーカーを二人で見たから、オルディアの唇に軽く人差し指を触れさせた。
「……一回だけ、する?」
深緑の瞳を緩ませて微笑んだオルディアが、私の耳に唇を寄せた。
今から何を言われるのか緊張して、鼓動が聞こえるくらいドキドキしながら目を閉じてると、オルディアが声を吹き込んでくる。
「誘ってくる勇者相手に、今日は手加減できる気がしないが……それでもいいのか」
いつもみたいに囁かれると、あっという間に魅了にかかってて……指をオルディアの胸から下に滑らせてた。
昨日あんなにしたのに、朝なのに、思いが通じ合ったって思ったら体を重ねたくなって……自分から誘っちゃった。
敵だったはずの勇者と、魔王。
でも本当は幼馴染で、大切な仲間だったオルディアの指を咥えながら、こっそり愛を交わした朝は素敵で……恋してる胸のときめきを感じながら、大人の時間を過ごしたのでした。




