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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
本編

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守護者

 こうして、私とレムスは幼馴染の、ティーカーの仇を取った。


 屋上に集まってくれた魔族には魔王が説明したけど、城内の被害はほとんどなかったらしい。

 私にだけ見えた神の柱はスライムの王を引き込む際に、無関係な魔族を灰にしないため魔王が建てたものだった。

 瀕死であっても回復魔法だけで復活出来るよう、戦いに備えていたそうだ。


 史上最強の魔王は、スライムの王によって大切な人を失ったから……誰も死なせないための魔法すら作り上げたらしい。


 厨房に向かったんだけど、料理人たちは皆、元気になっていた。

 勇者パーティのせいでって責められるかと思ってたけど、ゴブローやレミンが「フルルに助けられた」ってお礼を言ってくれた。私も暖かく迎えてもらえて、「みんなが生きてて良かった」って伝えられることが嬉しかった。

 狼男の料理長も真新しいコックコートを着て、包丁を持つ腕にも傷ひとつなく、厨房の片付けや料理の指示を出していた。


「なんだフルル、勇者はしばらく自由の身だって魔王様から聞いたが……まさか早速、手伝いに来たのか」


「ごめんね料理長。そうならいいんだけど、実はお願いがあって。

 忙しいのはわかってるけど……お願いっ、私に猪肉団子の作り方を教えて欲しいんだ」


 私はティーカーのために、改めて弔いがしたかった。

 ずっとレムスが亡くなったと思ってたから、そばにいると信じ込んでるティーカー相手に、お供えなんてしてこなかった。するはずがなかった。


 だから必死になってお願いすると、料理長には快く猪肉団子の作り方や、調味料の分量を教えてもらえた。

 一つ一つ、想いを込めて作った。

 完成したものを味見して確認すると、ちゃんと美味しかったから……以前のように井戸水を汲んで、すぐに魔王城内のどこよりも高い場所へ、物見の平坦な屋根の上へと持っていった。


 目の前には朝がゆったりと昼へ向かう、静かな空が広がっている。


「……今日もいい天気。冒険日和だね」


 声をかけながら、村の方角へ山盛りの猪肉団子を供える。

 汲みたての水も隣に置いた。

 屋根へ座ると、聖剣をお供えの前に置いて……勢いよく手を合わせて、頭を下げた。


「ティーカー、今まで偽物に気づかなくてごめんねっ」


 八年だ。

 私を騙そうとしたスライムの王に気づかず、偽物のティーカーを、ずっと仲間だと思って過ごしてきた。


「ティーカーは目の前でレムスを失ったから、塞ぎ込んだと思ってた。

 でも……記憶がないから、私に合わせようと様子見してただけ、だったんだよね……」


 あの日、生き残ってくれた幼馴染を信じて声をかける私を見て、スライムの王は無くなったはずの聖剣を持ってる私こそが本物の勇者だって気づいた。

 だから自分の姿を利用して、やがて魔王になるレムスにぶつけようと考えた。


 元気のない幼馴染相手に必死になって話す私を放っておけば、『ティーカー』の情報も増えていく。

 戦った時に見た剣士らしく振る舞って、でも自分は魔族とわからないよう、巧妙にレムスの話題を出して「出来ない」ことは避けていた。

 多分前魔王とも内通してて……ずっとそばにいて、監視されてたんだ。

 でも勇者パーティのフリをしてるから前魔王も倒したし、密かに下剋上も済ませてたなんて……野心家だって聞いてたけど、恐ろしい相手だった。


「全部スライムの王の思い通りだったことに、今更になって気づくなんてさ。ほんと、遅いよね。

 ……でも私も八年、必死に頑張ってきたんだよ。

 魔王を倒すためだって、毎日毎日、鍛えてさ。

 冒険も何もかも、……みんなで夢見てた通り、楽しいものじゃなかったけど……前に進まなきゃって、魔王のところに行くことだけを考えて戦ってきた」


 きっと冒険が終われば、みんなもっと仲良くなれる。

 レムスの仇が取れれば……ティーカーも楽になれる。

 村に戻って大切な家族や、幼馴染の墓前で報告したら……肩の荷も降りて、また元の元気なティーカーに戻ってくれるって、信じてた。


 ……そんな日は決して来ないんだって、最後に思い知らされた。


「八年も騙されてるんなんて、ティーカーも私に呆れたかもしれないけどさ。スライムの王のせいですっごく痛い目見たから、許して!

 あっでもやっぱり怒って、殴りに出てきて!

 ……聖剣の中に、いるのならさ。体取り戻して、この落ちこぼれ勇者って叱って、また笑ってよ」


 石床の上に置かれた聖剣は、何も言わない。

 生まれた頃からの相棒を撫でたけれど静かで、今はいつも通りの冷たい感触だった。


 ……聖剣の気配は、スライムの王を倒してから少しずつ変わっていく。

 不思議になって魔王の演説後に振ってみたけど、小さな頃の無垢な白にしか聖剣は光らなかった。


 ……もう役目は終わったんだって、ティーカーあっさりしてるから、眠りについたのかな。

 魔王軍との戦いは終わったから……魔王オルディアになったレムスを倒せない、勇者フルルの冒険はここで終わっちゃったから……安心してティーカーも、新しい自分だけの旅に出られたのかな。


 改めて、聖剣に目をやった。

 太陽の光をキラキラ反射する、金の髪。

 青空みたいに、綺麗な青の瞳。

 やんちゃで、でも優しくて、頼れる剣士。


 最後まで聖剣を握って、戦ってくれたんだね。

 ティーカーを思って、……改めて私のために戦ってくれたティーカーへの苦しさに、涙がこぼれ落ちていた。


「……ずっと、ティーカーだけはそばにいてくれるって思ってたんだ」


 信じたかったんだ。

 ただ一人、ティーカーだけでも生き残ってくれたって、心強く思ってた。


「一緒に成長してさ。

 声変わりもして、背も伸びて……大きくなったティーカーと、姿だけでも、一緒に冒険、してたんだよ……」


 レムスを失って、悲しくて。

 それでもレムスがティーカーを、一人だけでも残してくれたんだって信じてた。


 ……本当は、逆だったなんて、思ってもなかった。

 レムスは食べられたって言ってたのに……自分こそがティーカーを食べて、私のそばで暮らしてたんだ。

 ティーカーこそが、レムスの前で戦って……あとは頼んだって託してくれてたなんて、知らなかった。


 託した相手は、立派な魔王になった。

 ティーカーが聖剣の中にいたのなら、レムスが誰にも負けない強い魔王になったことも、平和のために自分の分まで頑張ってくれたことも知って、安心したんだろうな。

 私だって、自分がいなくなった後の世界が平和で幸せになってくの見たら『戦ってよかった』って、笑顔で次の旅に向かうはず。


 いつも私たちを引っ張って進んでたティーカーは、きっと振り返りもしないよね。

 私はまた置いていかれるのに、ティーカーは一人で先に行っちゃうんだ。


「……っ、ねえ、ティーカーっ……」


 歯を噛み締めても、震えた言葉ばかり出てきて……こんなの弔いじゃないって分かってても、我慢出来なかった。


「なんで……っなんでいつも、私だけ置いて行こうとするの……っ」


 私たちは、いつも隣に立っていた。

 一緒に前衛を守ってた、剣士同士だった。

 突っ走る時があればお互いに守りあって、戦い抜いた時には仲良く拳を合わせた、笑い合った、大切な幼馴染だった。


「聖剣になって一緒にいたって、分かったばかりだよねっ。

 なのに、また、私を残してくの?

 ねえっ、毎回毎回……っ、置いてかれる私の気持ちも考えてよぉっ」


 金色の光を見せて、俺はここにいるぞってしたはずだよね。

 なのに聖剣は、今はもう静かに陽の光を反射するだけだ。

 お供えの肉団子の前でただの剣として佇んだまま、何も答えないから……涙が石床に落ちるのを見ながら、拳を握りしめてた。


 小屋の中に残されたあの日、ティーカーが、レムスが、私を助けてくれたって分かってる。

 でも思い出すたびに辛くて、苦しくて、胸の痛みに押しつぶされそうになるんだ。

 今だって、全部終わったって分かってるのに、悔しくて、悲しくて、たまらなかった。


「聖剣の中にいるんでしょ、ティーカーっ。

 スライムの王を倒す時だけ金色に光ったとか、声が聞こえるとかっ、そこにいるのは分かってるんだからね。

 昔から変に格好つけたがるところあるしっ、仇討てたからって、満足して消えようと思ってるんでしょ……っ?!」


 あの戦いが最後だったんだって、ティーカーは満足して去ろうとしてる。

 砕けたって、折れたって、また明日の朝には私の腕の中に帰ってくる聖剣。

 そのくせ、私の代わりに最後まで戦った幼馴染だけはもう戻ってこないなんて、信じたくなかった。


 ……眠らせてたまるかって、聖剣を掴んで、胸の内に抱えた。

 私は、最後まで諦めない。諦めないのが勇者なんだ。

 祈りながら、必死に呼びかけてた。


「……神様、お願い。ティーカーに「まだ来るな」って言って……っ」


 私は世界に平和を取り戻しきれなかった『落ちこぼれ勇者』だ。

 だけど私が生まれた時の魔王も、四将も、全部倒した。

 神の選んだ勇者として、戦ってきた。


「役目はまだ終わってないって分かってる。

 でもだからこそ、お願い……っ神様、ティーカーを行かせないで。

 まだ勇者と一緒に戦ってって、ここに返してよぉ……っ」


 豪胆な勇者は、神にだってご褒美をねだる。

 不遜でも祈りながら、水滴がたくさん抱えてる聖剣に溢れてくのを見てた。


「ティーカー、ねえティーカーっ。

 ティーカーもおとなしく眠らないでよっ。まだ人間界にいる魔族は討伐できてないし、世界は平和になってない。

 私たちの役目はまだ終わってないっ、終わってないんだよ……っなのになんで答えてくれないのっ、なんで大人しく消えようとしてるのっ、ねえ、なんで……っ」


 暗い月の光が差し込む小屋で、隠し扉の中に私を押し込む指を、今も覚えてる。

 震える、でも勇者を守らなきゃって使命を帯びた……もう一人の勇者が、ここにいるはずなんだ。


 あの日を変えることは、もう出来ないかもしれない。

 でも……聖剣に意思だけでも残ってるのが、ようやく分かった。

 今からでも一緒にいたいのに、もう消えようとしてるなんて……悔しくてたまらないまま、涙で濡らしながら聖剣を抱きしめてた。


「また私だけ置いてこうとしないでよ、ティーカー……っ。

 フルルも一緒に戦おうってっ、今度は最後の瞬間までフルルも一緒に戦おうって、言ってよぉっ」


 私を守るために戦ってくれたのに、私はティーカーを助けてもあげられなかった。

 偽物だって気づいてあげることも、出来なかった。

 聖剣になって、ずっとそばで見守ってくれてた幼馴染に……気付くことも出来なかった。


 ……空には、あの日と同じく、何も出来なかった勇者の慟哭だけが響いている。

 子供の頃みたいに声を上げて泣いてると……聖剣が、淡く青に光り始めた。


「……ティーカー……?」


 青が、仕方なさそうに弱く瞬いている。

 ……小さい頃、お父さんに叱られた私のそばに、泣き声を聞きつけたティーカーが来てくれたのを思い出した。

 そばにいて、泣き止むのをずっと待ってくれてたみたいに……今も居づらそうに隣にいて、慰めてくれてる気がした。

 家の外にいて、レムスと三人並ぶまで、慰めるのが下手なティーカーは困った声で『もう泣くなよ、フルル』って言って、そばにだけいてくれた。


「ティーカー……っねえティーカー。

 ティーカーは、聖剣の中にいる。

 今も私の相棒として、そばにいる。そうなんだよね!?」


 青がさっきよりも強さを増してる。

 聖剣を見つめながら、柄を握った。

 魔界の光景の中で正面に構えて、真っ直ぐに見つめた。


「じゃあこれからは一生、一緒に冒険して。黙って消えるなんて許さないからねっ」


 光はまた消えた。

 けど面倒くさそうにする幼馴染の手でも、私は引っ張ってきたんだ。


「私は生涯、勇者であり続けるんだよ。

 だからこれからも、仲間として一緒に戦うって約束して。ね、お願い」


 手を引っ張るみたいに、聖剣をブンブン振った。

 朝起きた時には腕の中に帰ってくる相棒を、見つめた。


 ……言葉は、ない。

 光も、もうない。


「……あ、そっか。……もしかしてこれって……私の意思に、聖剣が答えてるだけだったのかな……」


 私が聖剣にティーカーであって欲しいって願いをこめているから、光が反応してるだけなのかもしれない。

 金色に光ったのも勇者の決意に呼応してただけで、髪の色と同じだったから、いなくなった幼馴染って思ってただけ、だったのかも。


 ……聖剣を持つ手が、思わず下がってた。

 剣先が石に当たったけど、聖剣は硬い音を響かせただけだった。


「諦めるも何も……死霊系なんて、全部魔属性だった……そうだよね、聖剣に人が宿れるわけ、ないか……。

 聖剣は何度も折ってきたし、神の試練で鍛え直しもした……大切にも扱ってこなかったのに、ティーカーがここにいるわけ、なかったんだ……」


 偽物のティーカーを打ち倒したから、本物がいて欲しい希望に、聖剣を当てはめただけなんだ。

 ……ティーカーはやっぱりあの日、スライムの王に食べられて、いなくなっちゃって……私がティーカーだって思ってるのは、全部、偽物だったんだ。

 今度こそ拠り所も何もかも失った気がして、また悔しくて泣きそうになってうつむくと……ふわふわ、って、聖剣が二回青く光った。


「ティーカー……?」


 呼びかけて掲げると、青が強く光ってる。


「……ここにいるから、泣くなって言ってる?」


 一回、青が明滅した。


 ……聖剣は、光るだけしかしない。明確な言葉が返ってきてるわけじゃない。

 でも……少なくとも白じゃない光が宿って、意思があるようなそぶりは見せてくれる。

 やっぱりティーカーがここにいるかもしれないって嬉しくなって、相棒を腕の中に抱きしめた。


「じゃあ一生そばにいてね、ティーカー。私の大切な相棒なんだから……っ、もう一人でどこかに行かないでね」


 腕の中の聖剣に、頬を寄せた。

 私の体温が移っただけかもしれないけど、温かくなってて……ティーカーがそばにいてくれるって信じようって、青が柔らかく灯るのを見ながら、改めて涙を拭った。


 ……ぐー。


 元気が出たら私もお腹が空いちゃって、そういえば朝ごはんもまだだったなーって思い出した。

 お弁当ぐらいに冷めてきた肉団子を摘んだけど、聖剣にも映すと小麦色の三つ編みおさげの私も笑顔で映ってた。


「へへ、じゃあティーカーのお供え、そろそろ私が頂こうかな。

 そうだ、一緒に食べようよティーカー。これ、本当にレムスの肉団子なんだよ。

 魔王が自分の好きな味付け伝えてるんだって。芋の煮っ転がしも美味しかったよ、おんなじ味!」


 まだ目尻に残ってた涙を拭くと、お供えしていた肉団子を一つ、食べた。

 聖剣を抱いて、吹き抜ける風を浴びて、いいお天気の中で魔界を眺めてる。

 肉団子も食べてるし、子供の頃にみんなで冒険に出たお昼みたいだって思えた。


「うん、美味しい。……今日はあっちむいてほいしなくても、私の方が多く食べちゃうね。

 一緒に食べられるようにさ。冒険しながら、今度はもっと深く文献とか見て回ろうかな。

 死なない魔法があるなら、聖剣の中にいる仲間を助けられる魔法があってもいいよね」


 聖剣の中にティーカーの意識が残ってたって、もうティーカーの肉体自体はどこにもない。

 冒険の合間に死霊系魔族以外の死者蘇生が成功してるのは見たことがない。出来ていたとしても、意識や体、何かが失われている姿ばかりだった。

 失った誰かを取り戻す奇跡なんて……起きないから、奇跡なんだ。


 でも。


「私は勇者として、絶対に見つけてみせるからね」


 空に顔を上げて、神に意識だけでも残してくれた感謝と、必ず奇跡にも辿り着いてみせるって誓いを立てた。


「だって、私は勇者なんだ。

 神にも会えるし、妖精も精霊も見えるし、きっと誰にも起こせない奇跡も起こせる。

 聖剣に宿ってくれたティーカーを戻せないなんて、無理なんて、限界を決めたらそこで終わりなんだ。……よし、今後は遺跡の探索も頑張るぞー!」


 だから今は腹ごしらえしなきゃって、もう一個肉団子を口にした。

 お水も飲んでると、背後に誰かが着地する足音が聞こえた。


「一人でティーカーを弔うなんて、水臭い勇者だな」


 不機嫌そうな魔王の声に、振り返る。

 厨房で料理長たちから聞いたのか、今日も私と同じく皿に山盛りの肉団子を持ってきた魔王は、隣に置いた。


「僕もティーカーのことを弔いたいんだ。

 ……聖剣に宿っているのなら、弔うというのもおかしな話かもしれないが……ようやく全部話せるようになったから、思い出話くらいさせてほしい」


「……レムス……えへへ、そうだよね、誘わなくてごめん。

 座って? 一緒に話そうよ」


 レムスは、偽物のティーカーから亡くなったって知らされてた。

 もういないと思ってたレムスが改めて生きてくれてたんだって思うと、嬉しくて素直に笑ってた。


 魔王が、聖剣を抱える私の隣に座る。

 振り向いたけど、少し怒ってる深緑の瞳が、私の腕の中を見ていた。


「ティーカー。ずっとフルルのそばにいたのか」


 聖剣に話しかけた魔王に、誰からも答えはなかった。

 静かになった空間には、魔王城の下に広がる森から葉擦れの音がする。

 鳥が鳴きながら行き過ぎていく合間も、雲が太陽を少しだけ隠す合間も、魔王は聖剣を見つめてる。

 私も聖剣を見て……ずっと、ずっと二人で待ってると……根負けしたのか、小さく青の光が一度だけ、やんわり灯った。


「いたんだ! ねえティーカー、やっぱりずっと一緒だったの?」


「光だけで判断するのは難しいが……そうか。後は託されたと思っていたから、力が抜けたな……」


「レムスが約束守ってくれてたから、ティーカー余計に恥ずかしがってるんじゃない?

 あっ、ねえねえ、今は何歳になったの? これは光る回数で答えられるよね」


 聖剣がティーカーだと思いたい私の意思に応えてる可能性は、まだあった。

 そうだな……私なら十の位を面倒だから切り捨てて八回光らせる……って強く思いながら、聖剣に答えを急かして揺らした。

 ……聖剣はしばらく待つと、やけっぱちみたいに、パパパパ、って全部で十九回光った。


「えっ、八回でも十八回でもないの? 一回数え間違えた?」


「僕も見ていたが、十九回だったな。

 ……なるほど。フルルの意思で光らせてるわけじゃないのがよく分かった」


「なんで十九回になるの?

 それだと一個上になっちゃうよね……あ、そっか、ティーカーは私よりもちょっとだけ早く生まれたんだ!」


 たまにお兄さんぶられたのを思い出して、ティーカーの誕生日が先に過ぎてることに気付いた。

 魔族だった仲間たちとお祝いする習慣なんてあるはずもなくて、私もすっかり書類以外の誕生日なんて忘れてたけど、私はまだ十八でも、ティーカーは十九に変わってた。


「じゃあやっぱり、ここにいるのはティーカーなんだ。

 私の知らないことも知ってる、勇者の意思だけで光ってるわけじゃないんだ!」


 今はそのおかげで嬉しい事実に気づかせてもらえたから、腕の中の聖剣に改めて抱きついてた。

 私の相棒は疲れたらしく静かにしてるけど、魔界の空を見上げてるのに、今までよりずっと清々しい気分で……安心したらまた出てきた涙を拭ってた。


「本当に、本物のティーカーなんだ……こうやってまた三人で話が出来たらいいのにって、ずっと思ってたから……夢が叶った気分。

 偽物のティーカーを倒せてよかった。そうじゃなかったら、聖剣に本物のティーカーがいるってことにも気づかなかったよね」


「僕もずっと、ティーカーの分まで頑張ってきた。

 ……また会えるなんて、思ってもいなかった」


 魔王が手を伸ばして、聖剣に優しく触れた。

 オルディアは魔族だけど、聖剣に触れても指が焼けたりしない。

 魔法防御も高いのかもしれないけど……ティーカーならレムスを傷つけようとは思わないんだろうなって、何しても魔王を傷つけられないのも納得しちゃってた。


「僕はもう、ティーカーはいないと諦めていたんだ。……聖剣であっても、会えてよかった」


 大切な親友に、レムスが微笑んでる。

 後を託したのに、実は聖剣に潜んでいたのを知られて恥ずかしいみたいで、聖剣は光らない。

 指が離れたけど、風に銀の髪をそよがせながら、レムスが空を見上げて目を閉じた。

 こうして一緒に空を見上げるのは二度目だから、あの夜、魔王が一緒に悼んでくれた理由がわかった。


「レムスはこうやってお供えに来た日、ティーカーの話をして欲しいって言ってくれたね。

 全部知ってたから、私の代わりにティーカーのことお祈りしてくれてたんだね」


 お供えに来た夜、隣に座った魔王は弔いのためにレムスの話をする私に、ティーカーの話をねだった。

 ただの敵情視察じゃなくて、楽しいティーカーの思い出話に笑って、肉団子を供えて……真実を知る自分一人だけでも、祈りを捧げていたんだ。


 魔王になってしまった幼馴染を見上げると、黒髪に若草色の瞳じゃなくて、銀の髪に深緑の瞳になったレムスもこちらを見ていた。


「そうだな。偽物のティーカーとフルルが、ずっと一緒に冒険してることにも気づいていた」


 ぐ。

 刺さる事実に胸が痛む。

 優しい神官見習いの男の子は今や魔王で魔族なんだって、だからこそひどいって、膨れちゃってた。


「ねえレムス……魔王であっても、人間界にちょっと来るくらいは出来たよね。

 教えてくれればいいのに、内緒にしてたなんてひどくない?

 私がスライムの王を本物のティーカーだって信じて戦ってきたの、黙って見てたんでしょ?」


「僕も言えなかったんだ。

 狡猾な相手だから、フルルを仲間に引き込もうとしてるのが分かれば逃げられる。

 最後に僕の元へ来たのを、逃げられないようにして倒す。……スライムの王を滅ぼすには、それしかなかった」


 怒りに我を忘れて覚醒したレムスが倒そうとしても、核があれば生きられるスライムの体を生かして逃げた相手だ。

 神の光で括って、今度こそ逃げ場を無くした。

 勇者が核を聖剣で破壊してようやく、終焉は訪れた。


 ……そう、私の魔界での旅も、これで終わりなんだ。

 神に誓った決意を胸に、爽やかな風に銀の髪を靡かせる幼馴染を見上げた。


「レムスに言わなきゃいけないことがあったんだ。

 ……ずっとお母さんとの約束、守ってくれてありがとう」


 生きて、平和な世界を作ってね。

 お母さんの願いのためにも、私は魔族を倒すしかないと思ってた。


 だけどレムスは、敵対する魔族自体を従えることで世界を平和にしようとしてくれた。

 人間を害さない魔族を増やすことで、攻撃するのをやめさせる……戦わずに改心させるなんて、神官見習いだったレムスらしい方法を目指してくれた。

 魔王オルディアは首を横に振って、穏やかに深緑の瞳を細めてる。


「僕がやりたかったことだから、いいんだ。

 離れていても勇者と志を同じくして戦う……おばさんの言葉は、僕の支えでもあった。

 魔界は平穏が訪れたから、あとは人間界だ。……フルルは、これからどうする」


「私は、魔王を倒す旅が終わった今は世界を巡って、潜んでる魔族を倒したり、人助けして回ろうかなって思ってるんだ。

 いろんな場所を旅すればティーカーを助ける方法も、いつか見つけられるかもしれないよね」


 今度の冒険に、終わりはない。

 聖剣と一緒に、また世界中を巡って……残ってる魔族を追って、狩り続けて……全部終わっても、また誰かのために依頼を受け続ける、新しい旅を始めようって思ってる。


「そうか。

 ……三人一緒に冒険がしたかったな。結局、僕は村から旅立てなかった」


 ティーカーは聖剣にいたって言ってたから、ずっと私と冒険を続けてきた。

 でもレムスだけは魔族に攫われて、村から離されてた。

 今は魔王になって、お母さんとの約束も守って、世界の平和を願ってくれているのに……レムスだけ仲間外れになっちゃったんだって思ったらたまらなくて、石床に置かれてる手を取ってた。


「じゃあ、レムスも一緒に旅立とうよ」


「……? 一緒に?」


「魔族退治の旅。私も一度村に帰りたかったし、レムスもお墓参りしてさ。

 村から旅立つ最初の一歩を、一緒に踏まない?」


 ティーカーとレムスと一緒に、夢見てた通りに村から旅立ちたい気持ちは私も一緒なんだって、考えるだけで笑顔が浮かんでた。


「レムスは魔王として言うこと聞かない魔族は滅ぼしてきたし、まだ人間界から出て行かない魔族も実際に魔王が狩りに来てるって分かったら、次々撤退していくかもしれないよね。

 魔王としてのお仕事の合間だけでもいいからさ。レムスも一緒に冒険しようよ!」


 聖剣を手に立ち上がったけど、世界は私の視界に入ってるだけじゃ全然足りない。

 小さい頃はみんなで、村の近くだけで生きてきた。

 だけど森の外には、カルバ山の向こうには、もっとずっと大きな世界が広がってたんだって、聖剣を抱きながら思い出してた。


「この世界には、いろんな場所があるんだよ。

 風習も、食べ物も違う国がいっぱいある。魔物が住んでるダンジョンも世界中にある」


 国ごとに、地域ごとに発達してきた芸術や文化があるのを、私は旅の合間に見てきた。

 言葉を交わせない魔物は動物と同じで繁殖してて、居心地の良い場所をダンジョン化させて巣食ってるんだ。


「襲ってくる敵は、魔族や魔物だけじゃないんだよ。神の手先とだって戦ってきた。

 森の聖域とか、各地に神と繋がってる場所があるんだけど、そこには魔族じゃなくて聖域の守護者がいてね。

 巨木が言葉を理解してくれたり、ゴーレムが喋ったり、聖域ごとに違ってたのが面白かったなぁ」


「守護者……」


「そう。力試しに襲ってくる守護者もいてね。

 ただの大きな石の塊だと思ってたら分裂して、それぞれに意思を持ちながら向かってきたんだ。

 でも何が傑作かって、倒した場所が広かったから、奥に向かう前に野営してたんだ。

 そうしたら、朝になったら復活してさ。「こんなところで休むな」って大声で怒ってる守護者をまた倒す羽目になっちゃったのは、いい思い出かな」


 魔王は興味深そうに聞いて、何かを考えてる。

 旅の話はいっぱいあるから、また世界を巡るならレムスとも一緒に行きたいって改めて思ってた。


「そんなに興味深いなら、一緒にいこうよ。

 私と、その……一日中色々してた時も、お仕事は回せてたみたいだし。副官さん優秀だし。レムスなら空間移動で、行き来もすぐだよ。ね、一緒に来てっ」


 お誘いした相手は風に銀の髪を靡かせて、深緑の瞳で何かを追ってる。

 ……魔族同士は念波で連絡出来るのを見たことがあったし、オルディアにも仕事の連絡が入ってたりしたこともあったっけ。キスしてる途中で多分副官さんから連絡がきて、オルディアが止まったこともあった気がする。


 ……魔王妃にって誘われてたけど、私はまだ答えを伝えていない。

 つい『今どういう関係なんだろ』って思いながらも、悩んでるみたいだから待ってると、しばらくしてオルディアが顔を上げた。


「フルル、聖剣を貸してもらえるか」


「え? いいよ。はい、どうぞ」


 腕にずっと抱えてたけど、ティーカーも宿ってるってわかったし、レムスが大切にしてくれるのは分かってるから渡すと、細い指が聖剣に触れた。

 ……レムスが、呪文を唱え始めた。

 魔族語で、かなり詠唱が長い。

 私が使える魔法だとそこまで呪文が長いものはないから、渦巻く魔法の気配から『かなり魔力も使ってるけど大魔法で何するんだろう』って思いながら待ってた。


 聖剣が、青白く光った。


 変化に目を見張る私の前で、剣から手のひらほどの丸い玉が生まれる。

 泡が浮かぶみたいに、光の玉が目の前をぷかぷか浮いた。


 玉はオルディアの呪文ごとに、形が変わっていく。

 次第に、小さな人型を作っていく。


 ……弾けたら、金髪に青の瞳の、頭身の高い大人の男性になった。

 倒したばかりの偽物ティーカーと同じ容姿の、でも着ていて楽そうな冒険者服姿の男が、空中にあぐらをかいたまま浮いている。


『……ん? 風?』


 手のひらくらいの大きさで、風が吹く方向に顔を向けたり、自分をまじまじと見てる男が、まだ呪文を唱えてるオルディアを見て、私を見て、また自分を見てる。


「……え。ティーカー? また偽物ぉ?」


『聖剣の中に残されてる俺が魔族なわけないって。

 ……え、フルル。もしかして今、見えてるし、聞こえてる?』


 焦茶の目を見開いて呆然としてる私に気づいたらしくて、ちょっと生意気っぽい青の瞳も丸くなってる。

 詠唱が止まったと思ったら聖剣の発光もおさまって、レムスもティーカーを見ていた。


「聖剣の守護者ティーカー。僕の元まで動けるか」


『え? お、おう、多分』


 空中の何もないところで立ち上がって、ちょっと四苦八苦してるけど小さなティーカーがオルディアのところに辿り着いた。

 ティーカーの指がレムスに……触れた。

 レムスが安心したみたいに息を吐いて、ティーカーを優しく見てた。


「現状の僕が出来る範囲はここまでだ。

 でも実際に動いて表情があって、言葉が交わせるのは嬉しいな。……ん?」


 ねえちょっと。私の幼馴染すごいんだけど。

 私もティーカーも、思わず目の前の魔王に飛び込んだ。

 ティーカーは顔に頭突きしてるし、私もレムスに突進してぶつかったけど抱きしめた。


「すごいっ、すごいよレムスっ!

 え、私、今、聖域の話しただけだよ? なのにティーカーが出てきちゃったよ!?」


『うおー、本当に触れるし、伝わってるし、見守るだけじゃなくなってる。

 レムスすげー。どうやってんのこれ』


「僕の魔力を使って、擬似的に体を作ったんだ。

 フルルの聖剣がなぜ戻ってくるのか、調べたことがあったから……聖剣と同じく『復活する聖域の守護者がいる』と聞いた時に、宿るものを考えて……まあ細かい話はいいな。とにかく応用だ」


 史上最強の魔王オルディアが私の冒険譚を聞いて、その場で自分の思い通りに大魔法を組んだなんて、本当にすごいって興奮して抱きついてた。

 改めて十九歳の自分の体を確かめたティーカーも嬉しそうで、久しぶりの体を動かしながら空中をうろうろしてた。


『俺一人でどこまで行けるんだ? ……あ、これ以上先には進めないのか』


「ティーカーは聖剣と繋がっている。だから聖剣から遠く離れることは出来ない。

 フルルが折ると聖剣は休眠状態に入るが、その時は守護者のティーカーも戻されて体も消えるから、なるべく折らないように頼む」


『フルル壁際でも大振りするし、いつも力加減間違えるんだよなぁ』


「えっ、昔と違ってやらなくなったでしょ?

 私よりも直近で二回砕いた人が目の前にいるんだから、そっちに文句言ってよね」


 レムスは笑って誤魔化してるけど、ティーカーは笑顔で握り拳を差し出した。


『へへっ、レムスはフルルが殴りかかってくるんだから、仕方なかっただろ。

 レムス、体、作ってくれてありがとな!』


 人形みたいに小さな拳と、大人になったレムスの拳が軽く触れ合ってる。

 改めて、また会えたことだけでもすごいことだって、聖剣の柄ほどの大きさのティーカーを見てた。


「幼馴染三人、揃っちゃったね。

 さっきまで偽物のティーカーのせいで、酷い目に遭ってたのに」


 夜明けを迎えた頃には、私の仲間は全員魔族だったなんて現実に打ちのめされてた。

 でも今は目の前に小さくたって本物のティーカーがいて、私の近くに来るとぺんぺん、って頬を叩いてくる。


『ちゃんと俺と違うって気づけよな、フルル。

 なんてな、仕方ないって。こいつら口上手いなーって俺も思ってたんだ。

 フルルはそれでも一人で頑張ってたんだから、やっぱ勇者ってすげえなーって思ってた』


 小さいティーカーを捕まえた。

 胸に抱えたから抱き潰しそうになったけど、ティーカーは本当に八年一緒に過ごしてきた仲間なんだって、嬉しくて震えてた。


「おかえり、ティーカー!」


『おう、ただいまフルルっ』


 笑顔のティーカーと、私も握り拳を合わせた。

 嬉しそうにレムスも見てるけど、姿形は変わったって、私の幼馴染はついに全員揃ったんだって事実に泣きそうになっちゃった。

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