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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
本編

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滅するべき敵

「ティーカー、が……もう、いない……?

 でも、今、私の前に……」


 魔王城の城門を背景に、四角く切り立つ光の壁の中には苦しむティーカーが、いる。

 共に村を旅立って、世界中を冒険して、魔王城まで共に到達した仲間は、今も生きて苦しみ続けている。


「騙されるな、フルル……っそいつが、魔王が、嘘をついてるんだ……っ」


 魔王は静かに、仲間のために聖剣を構えて立ちはだかる私を見ていた。

 動揺に剣の切先が揺れる勇者を深緑の瞳で見て、唇を開いた。


「冒険の準備に必要なのは、ティコの実三つと、ポーション五つ」


 カルバ山に登りに行く日、レムスが私と一緒に詰めてくれた。

 お母さんのお弁当箱と、いつもぐちゃぐちゃになっちゃう道具。

 幼馴染たちと冒険に行く思い出の中に、ある言葉だった。


 剣を構えていた手が、どうしたって緩まる。

 ……魔王は、懐かしそうに……私に目を細めていた。


「フルルは道具を詰めるのが苦手だった。

 だから一日戦える準備を、詰め方を……僕が教えたはずだ」


 ……いつもレムスが、私のカバンに道具を詰めてくれた。

 ティーカーは苦手だからそばで剣を振るばかりで、私の準備なんて手伝う気がなかった。


 銀の髪に深緑の瞳の魔王は、思い出に淡く笑っている。


「本当はあの日、僕が……レムスが生き残ったんだ、フルル。

 ティーカーは、僕の目の前で……前魔王の将に、スライムの王に、飲み込まれた」


 信じられない。

 ティーカーが偽物だなんて、認められない。

 でも、魔王は……震え始めた私の聖剣を示した。


「ティーカーが本物なら、聖剣を振れるはずだ。

 ……あの戦いの後、一度でも握ったことがあったか?」


 ティーカーが戦いに持っていった聖剣は、目覚めた頃には私の腕の中へ戻ってきていた。

 でも、魔王の言う通り……戦いの後、ティーカーが再び握ることはなかった。

 レムスを守れなかったことを思い出すから……そう言って、もう欲しがることはなかった。


「覚醒した僕への復讐のため、ティーカーの体を選んだ偽物には触れもしない。

 だから聖剣を使った鍛錬も、しなくなっただろう」


 勇者ならもっと重いもので鍛錬すべきだって、言ってた。

 ティーカーは私が『サイクロプスの棍棒よりも重い武器』を持たないと「ずるい」って言い出して、戦わなくなった。


 ……光の中で、膝をついて……苦しみに息を荒げる金髪に青の瞳の幼馴染を、見つめた。

 戦うために魔法の青鎧を着ているティーカーに、手にしていた聖剣を、足元へ投げ込んだ。


 八年、一緒に旅をしてきた仲間だ。

 今も私を「フルル」って、いつもみたいに呼んでる。


「ティーカー……魔王の嘘だよね、握って見せてよ。

 いつも振ってたよね。

 魔王軍との戦いに行く時も、私の聖剣、持って行ったよね」


 最後までレムスを守って戦った、たった一人生き残った、私の幼馴染のはずだ。

 ……レムスの死で、変わってしまったと思っていた。

 なのに本当はティーカーの仇だったなんて……苦しみに顔を歪めて、私相手に必死に無実を訴える仲間をそれでも信じたくて、見つめた。


「そんなの、子供の頃の話だろ……っ!?

 大人になったら妖精も見えない、聖剣だって握れない、なのに、っ、どうしてフルルは、魔王に騙されるんだ……っ」


 ティーカーは、自分を幼馴染だって主張する。

 隣にいる魔王も、あの日を知ってる。……自分はレムスだって、言ってる。


 小さく溜息した魔王が、近づいてきた。

 私に握り拳を出したから、つい合わせた。


「誓い、その一つ。勇者の名に恥じぬ行いをしよう」


 冒険の前は、三人で誓いを言いながら握り拳を合わせた。

 顔をみんなで見合わせて、気合を入れて冒険に出発した。

 生き残ったティーカーは……「そんな恥ずかしいことはもうやらない」って言った。


「お前が僕たちの幼馴染なら次を言えるはずだ、ティーカー」


「何年経ったと思ってるんだ、そんなのもう、忘れた……!」


 やめてよ。

 膝から、崩れ落ちそう。

 信じていたものが全部壊れていく私の隣では、魔王が首を傾げている。


「おかしいな。この誓いに次はないんだ」


 お父さんが作った誓いは、元から一つだけだった。

 あとで作るって言ったまま、結局、未完成なままだった。

 次は「えいえいおー」で、私たちはいつも冒険に出発した。


「一つなのに二つ目がないって、子供用の誓いを作ったフルルのおじさん相手に騒いだのも忘れたのか」


 思い出のないティーカーと、思い出を知っている魔王。

 どちらを信じるべきか、なんて……苦しくたって、隣に立つ相手を認めるしかなかった。


「じゃあ……あの日、いなくなったのは……レムスじゃ、なくて……っ」


「僕たちの代わりに戦って、戦い抜いて……目の前で消えたのは、ティーカーだ」


 金髪に青い瞳の、私よりも勇者らしい幼馴染。

 明るく笑って、勇敢で、震える手でも私を小屋の中に押し込んだ、幼馴染。

 戦いの後、村を旅立ってからも、一緒に成長してきたはずなのに……ティーカーは姿だけ借りた別物に、変わっていた。


「ミエットも、ウチカゲも魔族だ。

 人数を増やすことでフルルから情報を引き出すため、騙すために連れてきて、姿だけ人に見せかけた……どちらも配下の魔族だ」


 ミエットも、ウチカゲも光の中にいるけれど、言葉をかける前に倒れた。

 魔族と同じ、灰になって……光の中にはティーカーだけが残った。


「溶かして食べた人間のふりをして、ずっと騙していたんだ」


 一緒に冒険をしていた仲間が、灰になって消えていく。

 私を連れ戻しにきた仲間が、一緒に魔族を、魔王を倒そうってさっきまで言っていた仲間が、砕けて灰に変わっていく。


「スライムの王はティーカーのふりをしてフルルをそそのかし、僕と戦わせるつもりだった。

 弱った勇者も何もかもを、最後に全て平らげようと計画していた。

 戦いの中で覚醒出来れば、王にもなれただろう。……だが、そうはいかなかったな」


「俺と、ずっと冒険してきただろ、フルル……っ聖剣くらい、振って見せてやる……っだからもう、魔王に、騙されるな……っ」


 聖剣を握ったティーカーが、苦しんでる。

 柄を、それでも振ろうとする。

 手が、灰になって……聖剣が振られた勢いのまま、私の足元へ転がって、戻ってきた。


「っくそ、くそぉっ、魔王の魔法のせいだ、魔族と同じ灰になるように、俺も、ミエットも、ウチカゲも……っ体を魔族に変えられてるんだっ。

 魔王がフルルを騙そうとしてるのに、助けてやれない、なんて……っフルル、頼む、魔王を、倒してくれ……っ」


 私に残った左手を伸ばすティーカーの前で、聖剣を拾い上げた。

 相棒は、何よりも強い光を放った。


 ……金色の光だ。

 今まで青かった光が、暖かく包みこむみたいに……太陽を浴びて弾けるように笑ってた幼馴染みたいに、輝いた。


 ……ティーカーが、ここにいるって言ってるみたい。

 私と一緒に育った勇者が、最後まで離さなかった聖剣。

 起きた頃には必ず手元に戻ってくる相棒は「この時をずっと待ってた」って言っている気がした。


 幼馴染の姿をした相手に、聖剣を構えた。

 私と一緒に成長してきた金の髪に青の瞳をした男は、今も少しずつ灰になっている。


「フルル、やめろ、魔王に騙されてるんだ……っ」


 神に鍛え上げられて、さらに力を増した聖剣が、勇者の意思とともに光を放つ。

 信じてきた仲間へ、……ずっと騙してきた仇へ、天へ向かって、構えた。


「ずっと生き残ってくれてたと、思ってた。

 待たせてごめんね、ティーカー。……一緒に倒そう」


 八年間、魔族に騙されてきた。

 苦労を共にしてきたはずの男へ、魔を滅する剣を振るった。

 ティーカーの姿をした魔族が、……核を切り払った感触と共に、灰になる。

 私の本当の敵が、醜い声を上げて……光の壁の中で、何もかも灰に変わった。


 ……信じていた仲間は、全て崩れて、消え失せた。


 灰が風に攫われるのを見送りながら……光の落ち着いた相棒に、優しく青の光が瞬くのを見た。


『やったな、フルル』


 ティーカーはいつも笑顔で振り返って、握り拳を二人で合わせた。

 聖剣に、拳を当てる。


『俺たち勇者パーティの勝利だ!』


 青の淡い輝きに……幼馴染の満足した笑い声さえ、聞こえた気がした。

 今まで悼むことすら出来なかったティーカーは、……きっと、ずっとここにいたんだって、胸に抱えていた。


「ティーカー……っ」


 一緒に旅をするはずだった、幼馴染の少年の名前だった。

 もっと怒って、笑って、楽しい大冒険をしたはずの仲間だった。

 私よりずっと勇者らしく前を歩いて、何もかもに立ち向かえる、頼れる相棒だった。


「俺がいないとダメだな、落ちこぼれ勇者って……っ怒ってよ、ティーカー……っ馬鹿だなフルル、なんで騙されちゃうんだよって、怒って……っ殴ってもいい、許すから帰ってきてよぉ、ティーカーっ」


 失った仲間はもう、戻らない。

 腕の中の聖剣が、青が寄り添って慰めるように光るのだけが、救いだった。


 夜だった空にはやがて、朝焼けが立ち込め始めていた。

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