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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
本編

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神のお告げ

 翌日は、相手がのぼせて不完全燃焼だったらしいオルディアに、起き抜けから唇や舌をたっぷり責められた。

 バスローブだけ着てるから、抵抗して動くたびに肌が見えてるけど、それどころじゃない。


「んん、ちゅっ、こら、オルディア……っ」


「魔法で回復させなかったし、のぼせたのをいいことに僕の求婚を保留にしているだろう、フルル」


 うっ、わかっちゃうよね。

 妻になれって言われても、魔王と勇者の関係だから、何も言えないし……まだ戸惑ってる。

 目も合わせられずにそっぽを向いちゃうと、魔王の指に顔を動かされて、まっすぐ向き合わされてた。


 朝の光の中で、覆い被さったオルディアの銀の髪が輝いている。

 淫魔くらい顔の良い魔王が、深緑の瞳で真剣に、私を見つめてた。


「僕は本気で誘っているんだ、フルル。

 僕はフルルを妻に欲しい……魔王妃は、フルルしか考えていない」


 ベッドの上で体を抱き寄せられて、愛情を囁いてくる唇と何度もキスを交わしてる。

 もう抵抗できずに魔王に足を開かされてると、オルディアが首筋に口付けて止まったから、思わず魔王装備の男を見つめていた。


「昨日は仕事を副官に任せたから相手出来たが、……今日は難しそうだ」


 よかった、止まってくれた。


 慌てて起き上がって、着替えの置かれている脱衣所に走った。勇者は撤退も上手じゃなきゃいけない。

 けど……着替えながら、オルディアがいつもよりずっと険しい顔をした理由を考えていた。


 ……何があったんだろう。オルディアの優秀な副官じゃ対処できないって、大ごとなのかな。

 でも魔王は私が村娘の服に着替えて戻った頃には何も感じさせなかったし「食事に行くぞ」って急がせてくるから、聞けなかった。


 異空間にある魔王の部屋から移動して、食事を共にした。

 食後は別行動になったけど、私は神にお告げをもらいたくて、身を清めるために冷たい井戸水を何度も浴びた。


 禊が終わったら、魔王城内に作られてる祭壇に向かう。

 悪魔神官の前だったけど、神の像を前にして真剣に祈った。

 やがて私の知る神と心が繋がった感覚があって、静かで穏やかな声音が響いた。


『勇者フルル。あなたはこれから、辛く厳しい戦いに身を置くことになるでしょう。

 しかし勇者としての正しき心を信じなさい……』


 魔神を祀っていても、神は同じ神界にいるから祈れば伝わるってミエットから聞いてた。

 でも、神は決して答えを出さない。人の営みを導くための道標としてあるのみだ。

 真剣に祈っていると、魔王城に入ってからも確実に強くなっていることは神にも教えてもらえた。

 心が離れたから私も立ち上がったけど、廊下を歩きながらもお告げが頭を離れなかった。


 ……勇者としての正しき心を信じる、か……。


 お告げの解釈は、自分次第だ。

 魔王オルディアとの共存か。

 それとも歴代の勇者同様……討伐するのが正しき心か。

 苦悩しながらも廊下を歩いていると、角を曲がった先から泣き声と諍いの音が聞こえてきた。


「おうおう、スライム族程度が俺様の道を阻むんじゃねえっ」


「ごっごご、ごめんなさい、ごめんなさいっ」


 手で抱えられるほどの大きさのスライムが地面で震えて、プルプルしてる。

 逃げようとしてるのに、足を大きく振りかぶって踏み潰しかけたり、スライムの行く先をわざと上級魔族三体が塞いでいた。

 見かねたから、歩く勢いそのままブラックワイバーンの肩にぶつかって行ってた。


「ねえ、通行の邪魔なんだけど。三人がかりでスライム一匹に何してるの?」


 振り返った巨体相手に堂々とスライムとの間に割って入ったけど、さすが上級魔族、顔を近づけて睨み付けてきた。


「あぁん……? テメェには関係ねぇだろ。勇者が魔族に喧嘩売ってんのか」


「相手はすでに許してって頭を下げてるでしょ。しつこく絡む方が悪くない?」


 勇者としてワイバーンの瞳と、真っ向から睨み合う。

 でもプルプルのスライムには、指だけで『早く行って』って指示を出した。

 私が囮になるって気付いてくれたらしくて、必死にスライムが逃げていく。

 魔族たちも獲物が逃げたことに気づいて、面白くなさそうに舌打ちして去っていった。


 ……魔王オルディアに「理性を持て」って言われた通り、上級魔族は怒ってても襲い掛かって来なかった。

 やっぱり魔族にも色々いるのかな……全員襲いかかってくる相手なら簡単なのに、人間と同じく知性があるから感情も制御出来るんだって、去っていく三人組を見送った。


 人間と魔族の違いを考えながら歩いてたけど、答えはそんなことじゃ出てこない。

 だから今日も魔王城の情報収集をしようと、厨房に向かった。仲良くなるほど貴重な情報も得られるものだし、……何より私も厨房のみんなと働くのが楽しかった。


 お仕着せに着替えたら今日も一生懸命、山盛りの調理道具を洗う。

 お昼になったら魔王に給仕して、城内の食堂へひたすら昼食を提供してようやく落ち着くと、スライムが休憩中に現れた。


「あの、あの、勇者様。助けてもらったお礼にきました」


 一緒に昼食を食べていたオークのおばちゃんは調理場の床にプルプルしているスライムを見つけて、大きな鼻をフンスと鳴らした。


「あら、スライム族だわ。城内にいるなんて珍しいわね」


「珍しい? スライムはよくいる中級の魔物だし、物を溶かして食べるのが得意だから、魔王城なら必ずどこかにいるんじゃないの?」


「魔王様の大切な人を、スライム族が殺してしまったんですって。

 だから、あまりスライム族自体が魔王城に来ないのよねぇ」


 大切な人。

 意外な話が出てきたけど、話好きのオークのおばちゃんに詳細をねだると、興味深い話が聞けた。


 魔王オルディアには王子時代、恋人がいた。

 でも魔王四将の一人だったスライムの王が、彼女を手にかけてしまったらしい。

 スライムの王はオルディアの逆鱗に触れて、遁走して行方しれずになった。

 一族はお咎めを免れたものの、魔王となったオルディアに会うのが申し訳なくて、魔王城勤務よりも周囲の農作物を管理する方を選んで生活しているんだって。


「スライムの王は野心家だったから、四将までのしあがったけれど。魔王様に逆らったのが運の尽きって話よね」


「オルディア、恋人がいたの?」


「いるに決まっているでしょう!?

 凛とした立ち姿に煌めく銀の髪、麗しい深緑の瞳に綺麗なお顔立ち……何より魔族史上もっとも強い魔王オルディアを、誰が放っておくって言うのよ、もう」


 へー、そうなんだ。ふーん。……なんでちょっと面白くない気分なんだろ、私。よくわかんない。

 興味深かったけど、話を聞いて申し訳なさそうに震えるスライムは、私にお花を差し出してくれた。


「勇者様、助けてくださってありがとうございました」


「ううん、助けになれてよかったよ。あまり構われないよう、気をつけてね」


 穏やかに立ち去るスライムが可愛くて、薄紫の綺麗な花に心が和んじゃった。

 ……勇者であってもお礼に来てくれるスライムもいれば、魔王の恋人の命まで奪ったスライムもいる。

 綺麗な花は花瓶に差して邪魔にならない場所に飾らせてもらったけど、人間と同じく魔族にもやっぱり色々いるんだなって……改めて全魔族が悪いわけじゃないって魔王に言われたことを考えてしまった。


 まだ休憩中だから昼食を食べに戻ると、今度は狼男の料理長が大きな箱を持ちながら鋭い目を向けてきた。


「おーい勇者、悪いがちょっと手伝ってくれ。

 力仕事だが、サイクロプスが詰めてきた野菜が重くてな、荷分けするよりお前の方が早い。ゴブローたちの手伝いを頼む」


「任せて。力仕事は一番得意な仕事だからね」


 魔王城の裏手にある勝手口に向かったけど、侵入者対策で廊下が曲がりくねっているから見た目以上に距離があった。これはゴブローたちだけじゃ大変かもしれない。

 サイクロプスが抱えてきた大箱を受け取ると、厨房まで運び入れる。

 山積みになってる荷物を小さな箱に分けて運びやすくしてるゴブリンたちにも「さすが勇者」って感謝されちゃった。

 でもサイクロプスから大箱をもう一個受け取って顔を上げると、違和感があった。


「……あれ? ゴブロー、今日は魔王城の外に変な柱がない?」


「柱?」


「ほら、あそこ」


 辿り着けない城外だから指で示すしか出来ないけど、白くて精緻な彫り込みがされた柱が魔王城の外に忽然と立っていた。

 でも詰め直した箱を持ち上げたゴブローには何も見えないらしくて、首を傾げられた。


「俺にはいつもの風景だけどなー。勇者にしか見えないものがあるのか?」


「たまには、あるかな。精霊や妖精も、私にしか見えなかったし……」


 まさか、神の力を帯びた何か……ってこと?

 厨房に向かって歩き始めたけど、朝から気になることが続いてるから、柱の意味をつい考えちゃう。


 魔王を倒す旅に出てから、聖剣を持つ勇者にしか見えないものがあることには気づいていた。

 精霊や、妖精も私にだけ見えて話が出来た。

 子供の純粋な目には見える時もあるらしいけれど、魔王城には当然魔族と大人しか働いていないから、これ以上尋ねても同じ答えが返ってくる……そっか、今日は神にお祈りしたから何か影響が出てるのかも。


「勇者、ボーッとしてっと壁にぶつかるぞ」


「うわっとと、ゴブローありがとう、見てなかったぁ」


 今は向かえない以上、何かすることも出来ない。

 ただ……お告げのこともあって、つい柱を見ていた。


『あなたはこれから、辛く厳しい戦いに身を置くことになるでしょう』


 ……神は一体、何を始めようとしてるのかな。

 気になったけど柱はその後も消えずに、静かに城外に聳え立っていた。

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