表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/48

賄い

 食後は情報収集のためにも、厨房を手伝わせてもらっていた。


 魔族と会話することなんて今までの勇者ではあり得なかったから、今回みたいに知らない情報が出てくるんだって痛感した。

 私が持ち帰る情報は、魔族を『世界を脅かす凶悪な敵対者』としてしか知らない人間界にとっても重要になるはず。

 まずは厨房の魔族たちの力になるため、せっせと下働きを続けた。


 問題は、すぐに発生した。


「おーい勇者、お前も夜の賄いを一品作れ。

 人間の料理を食うなんて、魔族も滅多にないからな」


「えっ」


 まさかの事態に巻き込まれて、薄切りしていた鹿肉を前に手が止まってた。


「戦いばかりの勇者に料理なんて期待しないでよ、料理長。

 僧侶のミエットに食事は全部任せてたから、私はほとんど料理出来ないし……出来ても、焼くか煮るかだけだよ?」


「じゃあそれでいい。賄いは他の料理人の味の勉強会だ、ふざけてまずいのさえ作らなきゃ誰も文句言わねえ。

 食材の置き場はわかるな、任せたぞ」


 忙しい料理長はすぐに立ち去っちゃった。

 もう他の料理人の味見とか指導してるから、反論すら出来なかった。


 ……仕方ない、私にだって思い出の料理くらいある。

 子供にだってお手伝いで作れた料理だ。

 大人になっても手が覚えてるはずだって気迫を込めて、目の前にある鹿肉に包丁を当てて切った。


 まずは表面積が大きくなるよう、薄切りにした鹿肉を何枚も作った。

 塩で味付けして、一枚ずつ丁寧に焼く。

 雪女の氷室には昼のサラダの残りが下げられているから、生野菜を焼肉の上に置いて、きつく巻いた。

 串を何本も打つと、間を包丁で切り離して……完成だ。


 鹿肉のローストの中に色とりどりの野菜が巻き込まれ、串を持てば食べられるサラダになった。


 お母さんが栄養を考えてよく作ってくれた思い出の料理だし、一品あるだけで彩りも良くなる。

 そうそう、ティーカーは串に刺さってるのを見ただけで大喜びしたし、レムスも「お肉も野菜も両方美味しく感じる」っていっぱい食べてくれたっけ……なんて思い出しながら作るのも、意外に楽しかった。


 一度でたくさん作れるから、かなりの人員がいる厨房のためにも量産する。

 集中して作っていると、狼男の料理長が戻ってきて串を摘んだ。


「さすが勇者、串打ちが早いな」


「指に挟んで投げれば、狙った通りに物を貫けるくらいには鍛錬してるからね。

 忍者のウチカゲよりも正確に出来るみたいだし、串打ちだけなら誰にも負けないかも」


「曲芸か。出来るのはお前くらいだろうな。どれどれ……」


 料理長が串にかぶりついたのを見たから、変に緊張する。

 魔族の口に合うのかまで考えてなかったけど、狼男の料理長が飲み込むと舌舐めずりした。


「うまい。野菜も多く摂れそうだ。にんじん嫌いのゴブローも、これなら食えるはずだな」


 喜んでくれたのを見ると、お母さんまで褒められた気がするのが嬉しくて、さらに勢いよく量産してしまった。

 夜の賄いになるため保管庫へ入れられたけれど、気になっていたらしくゴブリンたちが声をかけてくれた。


「勇者は料理もするって聞いたけど、本当だったのかよ……万能じゃねえか……」


「えへへ、ずっと旅をしてきたからね。

 焼くか煮るか、巻くなら出来るよ」


「あんれま、ほったら焼いて巻いただけで立派な料理こさえただなぁ、たまげたや」


 驚いてくれるゴブリンやコカトリスたちにも、気分よく試食を作って差し出した。

 渡したら「美味しい」って言ってもらえたから、つい鼻を高くしちゃった。


 魔王はお昼ご飯が遅かったから、先に夜間の魔族への配膳を忙しく行う。

 賄いも配り終えて後片付けを始める頃には食堂に現れたから、遅めの夕食を二人で摂った。

 しっかり働いたからまた大食らいしたけれど、静かに食事するオルディアが気になってつい目を向けた。


「……むぐっ!?」


 魔王が今食べているのは、私が作った賄いだって気付いて変な声が出た。

 普段は料理長の作った料理ばかりの男が、調理員たちへ出した余りを食べている。

 確かにいくつか皿が余ったけど、魔王に出すなんて誰かが配膳を間違えたのかもしれない。

 咀嚼して飲み込んだオルディアが目を瞬いて、私を見るから思わず目を逸らしてた。


「今日はフルルが作ったのか」


「う。……魔王城の味付けと違ったんでしょ?

 私の生まれた村の味だから、素朴な味付けなんだよね……料理長の凝った料理とは違うから、残していいよ」


「そうか……僕は気に入った。もう一つもらおう」


 魔王のおかわりが入って、驚いて何も言えなくなっちゃった。

 生野菜のシャキシャキとした食感と、焼いた鹿肉のしっかりした歯応えを楽しんでくれる魔王を、つい見てしまう。

 ……目の前にたまにしか作らない相手がいるから褒めてくれたのかもしれない。ただの料理人にも魔王は優しいって、厨房で聞いたことがあるから。


 私の賄い料理だったのに、いつもよりちょっと多めに食べてくれた魔王をつい眺めてしまう。

 料理長を褒めて声をかけているのを見て、私も旅の最中に各国の王に声をかけられれば宝物をもらえたことを思い出した。


「そうだ、オルディア。おかわりするほど気に入ったなら、料理を作ったご褒美が欲しいんだけど」


 厨房組への賄いを魔王に出して、さらにご褒美もらおうなんて図々しいのは私くらいかもしれないけど、勇者だからコックコートの狼男が笑ってても気にしない。

 オルディアも面白がってるから、期待して見つめ続けた。


「魔王相手にねだるとは、豪胆な勇者だな。

 ……一応聞くが、何が欲しいんだ。『自由』と言われても、城の外には出せないぞ」


「ティーカーたちと合流されたら困るだろうから、お出かけに期待はしてないよ。

 そうじゃなくてさ。今日は一緒にお風呂に入ろう?」


 厨房の辺りが騒がしくなった。

 料理長も魔王に礼を取って、静かに厨房の方に戻って行った。

 けれどオルディアは椅子の背もたれに体を預けた。朝とは違って、仕方なさそうに笑っている。


「どうしても一緒に入りたいのか」


「そう。アイスマンみたいに、お風呂に入れば弱体化する可能性もまだ捨て切れてないからね。弱点探しさせてよ」


「魂胆が透けて見えたな。……わかった。褒美だからな、許そう」


 思わず拳を握りしめて喜んでしまった。

 厨房が賑やかな気もするけれど、攻撃が効かないということは核がある魔族の可能性も高いから、倒すには位置を探す必要がある。

 面白そうにしている魔王に目星をつける方こそ忙しくしてたけど、押し出されてきたやんちゃそうなゴブリンことゴブローがこっそり来て、私の腕を引いた。


「フルル、お前、魔王様の寵妃になるのか」


「……? 何言ってるの、そんなわけないでしょ?」


「え。結婚して魔王城乗っ取って、勇者が魔界も征服するんじゃねえの。みんなそう言ってるけど」


 思わず顔を上げると、厨房組が手招きして待っているから一緒の会議に参加した。

 入り口に固まって全員で床に座ったけど、プチオークのレミンが頬を押さえて興奮に鼻息を荒げている。


「フルルさん、魔王様のことお好きだったんですね!?」


「違うよ。一緒にお風呂に入るだけなのに、好きとか思ったことないよ」


「お風呂って、誰かと一緒に入る場所じゃないですよ。落ち着いて無防備な時に、誰かがそばにいるの嫌じゃないですか。

 でもそれを乗り越えても一緒に入りたい、つまり大好きってことです!」


 レミンの言葉に唖然としちゃったけれど、ようやく、オルディアが最初に渋った理由に気付いた。


 お風呂に一緒に入る習慣がある人間社会と、のんびりしたい場所では敵をそばに置きたくない魔族社会との、種族の違いだったんだ!


 人間は公衆浴場が発達してる国もあるから、布を一枚裸に巻けば男女ともに入る習慣もある。

 私もレミンに最初からお風呂の話をすればよかったんだって、どんどん進む話に呆然とするしか出来なかった。


「魔王様も風呂一緒してもいいって言ってるし。フルルならそばにいても平気ってことだろ。

 結婚したら? 俺らは歓迎するぜ」


「しない。魔王を倒すために、私は今も魔王城にいるんだよ!?

 一緒にお風呂に入るのも、弱点や核を探そうと思ってるだけ。

 それ以外に意味はないし、むしろ弱点を教えてくれたらお風呂も辞退するから」


「魔王様は無敵だって。史上最強。弱点なんて聞いたことないぜ」


「そうですよ、フルルさん。魔王様、嫌いな食べ物すらないんですよ!」


 もう言葉が出ない勇者の肩をゴブローが叩いて、親指をグッと立てて見せた。


「結婚して寵妃になったら『人間界に手を出すな』って魔王妃としてフルルも言えるんじゃね?

 魔王様、別に人間滅ぼそうと思ってないし。人間界も将来安泰だと思うけど」


「そーだそーだ。魔王様倒したって平和になるとは限らね。魔王族はどーせまた生まれるだ」


 レミンからも聞いた話をコカトリスが言い出して、思わず口をつぐんでしまった。

 オルディアを倒したところで歴史が繰り返されるだけだって、厨房の皆も自分たち魔族のこととして話し合っている。


「人間で魔王様の妻になったやついねぇし。

 フルルがオルディア様のそばにいた方が、人間界もながーく平和になるんじゃねえの」


「何を話しているんだ」


「ひっ」


 なかなか戻ってこない勇者に焦れたらしく、魔王が会議を覗きにきた。

 繊細な話し合いの最中だから慌てて押し出そうとしたけど、ゴブローが手をあげた。


「はーい、魔王様。魔王様の妻に勇者がなりたいってあっちゃああああああ」


「わー聖剣を持ってみたかったんだね、ゴブロー。残念だけど無理そうかなー」


 誰もが憧れる聖剣をそっと握らせてあげたけれど、やっぱり魔族には効くらしい。

 ゴブローが手をふうふう吹いているから回復魔法をかけたけれど、『静かにして』って口を真一文字に示した。激しく頷くのが見えた。


「余計なこと言うからだんべ、ゴブロー」


「そうです、フルルさんお風呂の意味にも気づいてないんですから。もしかしたら初恋かもしれないんですよ!?」


 やめてよ魔王、暖かい目で見ないでよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ