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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
本編

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魔王討伐のヒント

 ……キュゥ、なんてお腹が鳴るのが聞こえた。

 ベッドの上でキスしてた魔王と見つめ合ってる。

 私は知らんぷりしてたのに、自分じゃないって分かってる魔王がだんだん面白そうに笑い始めるのを見たから、変に顔が熱くなっちゃってた。


 恥ずかしくなったから、急いでお風呂に逃げ出そうとする。

 けど楽しそうに笑う魔王にまたベッドに引き戻されて、手まで繋がれてた。


「悪かった、大食らいに随分と無理をさせてしまったようだ。

 ……僕に食べに行くよう促したが、自分こそ腹が空いていたのか」


「くぅ……っ違うもん。

 冒険の間に食べられないことなんて何度でもあったし、今更数日食べなくたって平気だからねっ」


「勇者は体が資本だろう、食べないことがあるのか」


「四人分の武器防具って、結構お金がかかるんだよ。

 ……まあそれ以外にも、原因はあったんだけどさ……」


 依頼をこなしても、ずっと生活は苦しかった、なんて嫌なことを思い出しちゃった。


 ティーカーは私一人でこなせる依頼なら、実は手伝いに来ない。

 勇者に実力を近づけるための自主鍛錬がしたいって言い出して、私が何も言えないうちに一人で出かけることが多かった。


 ミエットはお金が好きなのに、慈善活動だって言いながら変な団体に寄付しちゃう。

 ウチカゲも光り物が好きだから、コインとか、忍び道具があったらつい買ってきちゃうんだよね。


 必死に「勇者だけでも」って依頼をこなして貯めて、必要な物資だけ買って、駆け足で先に進む生活長かったなぁ……って思い出すと、魔王の腕の中であっても沈んでた。


「早く魔王を討伐しなきゃって気持ちが強かったから、みんな先に進みたくて。

 船代とかもかかるし、その分食費は抑えなきゃどうにも回らなくて……雑草でもキノコでも生えてればなんでも食べたし、洞窟内で食料が尽きれば何も食べずに数日歩くこともあったかな……」


 そのせいで多分魔王城で孤立したのかな、なんて思わなくもない。

 野草に詳しいウチカゲが拾ってきたから大丈夫だって思ってたけど、知らないキノコは毒があるから危険だね。みんなお腹を壊しただけで済んで良かったって思うしかない。


「……」


 魔王は複雑そうにしてるけど、私が振り返ったのに気付くと抱きしめられた。勇者なのに魔王に極貧生活を憐れまれてるのが分かって悲しい。


「だから私は大丈夫。しばらく食べなくても神のご加護か、平気だから。

 むしろ魔王こそ、食べないのに体がもつの? いつも少食だよね」


「僕は……昔からあまり食べないんだ。体も食べないことに慣れている。

 先に風呂に入れ。支度が終わればすぐ食堂に送る」


 最強の魔王なのに、ティーカーと私では考えられないくらい食事量が少ない。

 聖剣も効かないし、食事もほとんど必要ないなんて、やっぱり魔王には何か特別な力があるのかもしれない。


 ……もしかして美形の人型魔族だし、囁き声に魅了効果もあるし、淫魔なのかな? 私の精気を吸って生きているのかも。

 いやでも、子供の頃からずっと少食なら違う……? 他の誰かの精気を吸って生きてるのなら、夢魔の可能性もあるよね……。


 考えてると、魔王が体を離してベッドに起き上がった。

 私も急いで逃げ出したけど……お風呂場の扉に手を掛けても『厨房の皆は魔王にこそ、いっぱい食べてもらいたがってたな』って思い出しちゃう。


 ……一緒に食堂に連れて行かなきゃ、魔王はいつも通り、ちょっとしか食べないんだろうな。


 そう思ったからベッドに改めて戻ると、不思議そうにしてる男の手を握り直した。


「よし、お風呂くらい一緒に入ろうよ。そのほうが二人とも早く食事に行けるよね」


「……え?」


「食堂の皆からも、魔王は私に釣られたほうが『たくさん食べてくれるから嬉しい』って言われたんだ。

 だから、ね? 一緒に行こう?」


 どうせ裸だし、見せるのなんて今更だから魔王の手を引いた。

 でも……オルディアは深緑の瞳を揺らすだけで、ベッドから立ち上がらない。

 手をまた引いたけれど、細い指からも力が抜けてしまった。


「え、どうしたの。私と一緒にお風呂に入るのが嫌?」


 うつむいて、銀の髪に表情が隠れたのを見ている。

 すると、首が小さく横に振られた。


「……先に行っていろ。大食らいがすぐに食事を終えられるとは思えないからな。

 一緒に風呂に入らなくても、同じ時間に食事は出来るはずだ」


 どうやら本気で、オルディアは私と一緒にお風呂に入るのが嫌らしい。

 今だってお互いに肌を見せてるのに、なんで頑なに嫌がるんだろう。さっきまで雰囲気も和らいでたのに、今は拒絶されてるみたい。

 ……って膨れながら考えてたら、魔族ならではの理由に思い至った。


 魔族には、種族ごとに弱点属性がある。

 氷系の魔族はお湯が嫌いで、火系の魔族は冷たい水が嫌い。

 過去には水をかけられたら弱点の核が剥き出しになって、弱体化する魔族もいた。

 お風呂場では湿気で体が溶けて、うまく人間に化けていたのに本性を表す魔族もいた。


 つまり……魔王もお風呂に入ると『核などの弱点を露出する』、『見せたくない姿になる』可能性があることに、なんで気づかなかったんだろう!?


 魔王のお風呂姿は、確かに見たことがない。

 水を浴びると、もしかしたら人型じゃなくて、元の種族の姿に戻るから見せたくないのかも!


「ほ、ほらっ、早く行こう?

 裸なんて、どうせ今も見せてるし。今更じゃないかなー」


 意気揚々となって、またオルディアの手を引いた。

 でも魔王が動かないから、弱点に近づいたんだって気付いて、ますます得意になっちゃった。


「ティーカーとは昔、よく一緒にお風呂に入ってたんだ。

 村を出てからは男女別になったけど、幼馴染三人で浸かるのも楽しかったなぁ。

 魔王もたまには一緒に入ろうよ。意外に楽しいかもしれないよ?」


 冒険の最中に川で水浴びする時も、ミエットにすら「僧侶として肌を晒したくないんです」って言われて全員別々だったから、誰かと入るのは久しぶり。

 でも私は、誰と入っても構わない。魔王相手であっても、裸でも戦えちゃうくらいだからね。

 魔王はまだ引っ張られても悩んでて……ため息を吐いたと思ったら、ようやく立ち上がってくれた。


 私のお尻を、撫でた。


「風呂場でまた襲われたいのか」


「え」


「僕は綺麗になったばかりの勇者を汚したくなると思うが……誘っていると解釈していいんだな」


「え? ちっ、違うよ、そうじゃなくて」


「空腹の勇者に遠慮したつもりが、食べたいものが別だと言うのなら、食わせてやろうか」


 反論しようって開いた唇に、指を突っ込まれた。

 気づいた時には、舌を撫でられてゾクゾク震えてる。

 唾液を使って滑りながら前後する指と、食べさせられるものを合わせて想像しちゃったら、魔王が妖しく笑った。


「可愛い顔をするな。いますぐに相手させるぞ」


 必死に指に噛み付いたけれど、魔王は相変わらず傷一つつけられない。

 指が抜けると顔が近づいて、唇を吸ってきたから……弱点探しは諦めて、囁かれて本格的に捕まる前に急いで逃げ出した。


 慌ててシャワーを浴びたけれど……『魔王がお風呂に秘密を隠してる』っていうのは重要な情報だって、ついに出てきた弱点に拳を握りしめてる。

 一人で先に食堂に行けるのは、逆に好機かもしれない。レミンやゴブローたちに探りを入れれば何か掴める気がする。


 魔王に赤い痕をつけられた体を洗いながら……でもやっぱり負けっぱなしが悔しいって、改めて経験値を稼げない状況に歯を噛み締めてしまった。

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