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3話 寇に兵を藉し盗に糧を齎す 後編

何とかブラックダイヤモンドカードを渡そうとしてくるフェリスちゃんをなだめた私は、話を続けさせた。


「それで……レイズとはどこで出会ったの?」

「この屋敷の前でウロチョロしてたから、脅しました。」

「脅した!?」


私はレイズに目をむくと、彼は頷きながら答えた。


「あの時の私たちは、ここを拠点にしようと考えていたが、彼女に威圧され、私有地だったことに気づき、ここから去ろうとしたのだが……彼女の腹の音が鳴ったため、料理を振舞ったらシェフとして雇われたというわけだ。」

「貴族としてそれでいいの?別の貴族に仕えるなんて……」

「まぁ、アルバイトみたいなものだからそこまで深刻な状況ではないからな……」

「ふーん……ん?」


あれ?聞き間違えじゃなければ、さっき複数形で……


「私”たち”?」

「ああ、そういえば見せてなかったな。アン、出ておいで。」

「……クゥー。」


そして、リビングへ入ってきたのは、体長が30㎝くらいのちょっと太ったネズミのような生物が2本足で立って、ひょっこりと出てきたのだ。私はその可愛さに感嘆していた。


「え~!可愛い!」

「この子はアデロバシレウスのアン、私の忠実なる僕であり、家族だ。」

「ふーん……まぁ、猫様との可愛さは天と地程の差があるけど、少し可愛い……かな。」

「アンに酷い言葉言わないでくれ!?」


そんなやり取りをしていると、フェリスちゃんの携帯が鳴りだした。

フェリスちゃんが私たちに断ってから、電話に出た。


「もしもし?」

《フェリス!無事だったのか!》

《心配したのよ!》

「あ、お父さん、お母さん。」

「「ご両親!?」」


繋がって良かったけど……そういえば何で今まで繋がらなかったんだろう?


「お母さん達はどうして電話に出れなかったの?」

《それは……》

「「それは?」」

《……電池が切れていたからだ!》

「「……………………」」


……あまりの情けなさに手で顔を覆う私とレイズだった。

フェリスちゃんは何とか携帯を落とさずにお父さんに言った。


「……で、電源が入ったから通話できてるの?」

《いや、現地の人のスマホを借りて電話してる。》

「いやそこは充電して自分のを使いなさいよ!?」


思わず私はフェリスちゃんのお父さんの発言にツッコミをしてしまった。


《そこにいるのは誰かね?》

「あ……え、えっと……私!冒険者ギルドで依頼を見つけて、フェリスちゃんのことを探しに来た冒険者です!」

《ああ!冒険者の!本当にご迷惑をおかけしました。フェリスを見つけてくれて本当にありがとうございました。お礼はまた後日、日を改めて追加報酬を渡しますので……》

「いえいえ!そんな!悪いですよ!人助けというかそんな気持ちでやったので……そのぉ……」

「そんなに謙遜しなくてもいいのでは?別に生きるために稼いでいるからもっと報酬の金を要求してもいいんじゃないかね?」

「レイズ!?すみません、娘さんに渡します!……そんなことしたら私は金の亡者として見られるようになってしまうからやめて!」


レイズがとんでもないことを言ったから、私はフェリスちゃんに携帯を渡して慌てて注意した。


「しかし、前話で君は言ってたじゃないか!自分は大丈夫だと決めつけるなと!見たところ君の服はほつれているし、鞘にシミができているじゃないか!ここはメンテナンス代として要求してもいいのではないかね!?」

「うっさい!女の子の服装をジロジロ見んなバカ!そもそも金をたかるようなことしたら私の評判が悪くなってしまうでしょうが!」

「……それが、君の安全が損なうことに繋がっても言えるのかね?」

「……え?」

「確かに私の言い方は語弊を招く悪い言い方だった。謹んで謝罪しよう。だが、その防具や武器で君の命を救ったことは何度もあったはずだ。だけど、武器や防具はモノだから、当然劣化する。劣化した武具をメンテナンスや買い替えなどをして、繋げればいいのだが、メンテナンス代や武具を買うとき、「金がないから」、「時間がないから」などの理由で武具の劣化を蔑ろにして命を落とした人はたくさんいる。……君はそんな風になりたいのかね?」

「それは……」


……レイズの言う通り、的を得た話だ。確かにお金が足りないからとメンテナンス用の砥石や補強を怠れば死ぬ確率が高くなる……そっか、レイズは私の身の安全を心配して、言ってくれたのか……

……だけど、私にも言わなければならないことがある。


「レイズは私が冒険者業を舐めてるように聞こえたかもしれない。だけど、評判については本当に正しいと思っているよ。」

「ほう?それは何かね?」

「それは、”私の冒険者というブランド”を損なわないようにするためだよ。」

「ブランド?」

「そう。冒険者は依頼人から人気がないとお金を稼ぐことはできないの。例えば、レイズがお客さんだとして、ハンバーガーショップに行ったとするでしょ?」

「私、家庭料理が大好きだからジャンクフードはあんまり……」

「例えばの話!!」

「あ、はい。すみません。」

「……話を戻すけど、服装がきちんと整えられて笑顔で温かくお客さんを迎える店員さんと、ガムを噛みながら、服装が乱れて、言葉遣いが良くない不良の店員さん、どっちに接客された方が嬉しい?」

「……何で、ガム噛んでいる人を面接で落とさなかったのかね?」

「いちいち説明されないと分からない未就学児か!あんたは!それは面接の日に、オーナーが体調不良で判断力が鈍っていたから!!」


私は苛立ちながら、レイズの質問に答えると、レイズが答えた。


「そうだとしたら前者のほうだが……あ。」

「そう、冒険者は見た目や経歴で判断されることが多いの。だから、私は休日の時も清掃ボランティアに参加して、印象を良くしたり、住民との会話で威圧的にならないように注意してんの。」


そして私はレイズの目の前に立ち、睨みながら言った。


「なのに、私に墓穴を掘らせるようなことを依頼人の人に聞かせてどうすんの!?下手したら私はクビにされてプータロー(就職できる年齢なのに無職の人のこと)でしょうが!責任取ってくれるの!?」

「分かった。私が悪かった。ごめんなさい。」


レイズが冷や汗をかきながら私に謝ると、フェリスちゃんが言った。


「なら、私がテトックさんを養うよ……そうすればクビになっても死ぬことはないよ!」

「いや!私は人を救いたいから冒険者になったし!第一、フェリスちゃんは重度の猫アレルギーでしょ!」


私はフェリスちゃんの台詞にツッコんだ。いや、まだ10歳の女の子にたかるのは絵面では犯罪だし……それとフェリスちゃんのご両親が外国の病院に行ってまで治そうとしたからおそらく重度の猫アレルギーだと推測したからだ。外国の方が技術力がジャポニカより上回っているからね……


「大丈夫!私に秘策があるから!」


そう言ったフェリスちゃんは携帯を机の上に置くと、リビングから出て行った……


「あ、行っちゃった……」

「まぁ、彼女の別荘だし、このまま彼女の好きにさせればいいのではないかね?」


私はレイズと話していると、携帯から女性の声が聞こえた。


《フェリスちゃんがこんな元気にはしゃいでいるのはいつぶりかしら……》

「フェリスちゃんのお母さん……あの、もしよろしければ詳しく聞かせてもよろしいでしょうか?」

《もちろんいいわよ。》


そして、フェリスちゃんのお母さんの話を聞いた。


《フェリスちゃんは、3年前にリビア種の少女と遊んでいたけど、その子が遠くに引っ越してしまったの。フェリスちゃんは私たちにその子が行くところへ引っ越そうと言ったけど……どうすることもできないと言うと、しばらくは部屋に閉じこもってしまって……今は普通に接してくれるけど、愛想笑いが増えてしまったのよ……》

「そうだったんですね……」

《だから、フェリスちゃんがはしゃいでいる姿を見てホッとしたの。こんなにあなたに慕ってくれるのはそれだけフェリスちゃんと遊んでた子にそっくりだったかもね。もしよろしければフェリスちゃんの姉として接してあげてくれませんか?虫のいいことを言っている自覚はあります。それでも、フェリスちゃんが……》

「もちろんいいですよ。」

《判断が早い……!》



あまりにも早く言ったことで驚いているのは電話越しにでも伝わってくる……だけど、私はお母さんに一刻も早く伝えずにはいられなかった。


「フェリスちゃんとは出会ったばかりですが、彼女と一緒にいると妹ができたようでうれしいんです。ですので、迷惑なんてことはないですよ。」

《……私の娘のお婿さんになる気はないかしら?》

「勘弁してください!私が小児性愛者と認定されて捕まってしまいます!?」

「普通に年齢差が20年離れても結婚してる人がいるが……婿になりたいのなら彼女が成人してからロマンチックな場所でプロポーズをするんだ!猫耳少女よ!」

「結婚する気なんてないんですけど!!?」


そんなやり取りをしていると……


「シュコー……テトッフはん……おはあせひまひた……シュコー」

「フェリスちゃん!お婿さんについては違……う……え?」

「な……何だね、その恰好は?」

「クゥー……」


フェリスちゃんの服装を見て、私たちは絶句した。

なんと、彼女は放射能汚染された場所へ向かう放射能防護服のような格好をし、頭にガスマスクを装着していたのだったのだ。


「よひ」

「「よしじゃない!よしじゃない!」」

「クゥー!」


そのまま近づこうとしてくるフェリスちゃんを制止して、何とかガスマスクを脱がせたのだ。


「何でですか!?これさえあれば一日中抱きついてもくしゃみを連発しないんですよ!」

「私が頭にガスマスクとかの硬いものに当たって痛いの!というかどこで手に入れたの!そんな人を殺す時に使うような恰好は!」

《あ、それ私が手掛けたガスマスクなんです。》

「お母さんが作ったんですか!?」

《ええ、フェリスちゃんが猫アレルギーに苦しんでいるから私が開発したのよ。》

「すみません、もしかしてあなたは軍事機密を持っている科学者か何かですか?」


冷や汗をかきながら、私はフェリスちゃんのお母さんに質問した。


《いいえ、私は図書館などで調べて独学で作ったのよ~。》

「独学!?そんなファンタジーなことできるんですか!?」

「存在自体がファンタジーな私達が言えることなのかね?」

「黙ってて!」


確かに私達は猫耳とかヴァンパイアとか、普通の人とは違うんだけどさぁ!

そう思っているとお母さんが言った。


《それにそうまでして一緒にいたいのはフェリスちゃんがあなたのことを好いているからなのよ。だから、私達は安心して預けようと思えるわ。》

「いえいえ、それは……え?預ける?」


何か不穏なことを言っているお母さんの言葉を聞いて私は問い返した。


《本当は今すぐ帰国したいんだけど、着いた瞬間ハリケーンが発生してしまって……だから、出発できるまでには1か月後になってしまうのよ。》

「ハリケーン!?え、ちょっと大丈夫なんですか!?」


レイズが急いでテレビを点けてくれると、ニュースでフェリスちゃんのご両親がいる国にハリケーン発生中と速報が流れていた。


「あ、本当だ、ハリケーン発生と流れている。凄い大雨だな……」

「お母さんとお父さんは強い人だから大丈夫ですよ。」

「他人事みたいに言っている場合か!下手すればフェリスちゃんもここにいたのかもしれない……」

《まぁ、こんな大雨じゃあ、病院が機能しているか分からないからフェリスちゃんがジャポニカに残ってくれてて良かったわ。》

《うむ、流石私と君の娘だ。》

「子を思う親の鏡!」

《だが、いくらフェリスが強かでも悪意を持つ輩が現れたらどうしようもない。》

《だから、私たちはあなたにフェリスちゃんの面倒を見てほしいの。報酬は言い値で払いますので!》

「いやいやいや!子どもを育てたことないですし、それにもしも私が悪人だったらどうしてたんですか!?」

《フェリスがそんなに懐いてくれてるから、君は優しい人なのだろう。だから、信じる!》

《フェリスちゃんはきちんとした子だから、あなたのことを信頼してくれてるはずよ!だから私も信じます!》

「お母さん!お父さん!ありがとう!テトックさんは良い人だからね!あ、後レイズさんっていう貴族出身のヴァンパイアの男がいるけどその人も信じてあげて。一応!」

「一応って何でかね!?私は家事をしたから信じる要素あるだろう!」

「いや、財布をわざと落としたり、初対面の人にラスボスのような登場をしてた人を信じれると思う?……私もあなたにナイフ向けちゃったけどさ……」

「へぶっ!?」

《とにかく、フェリスのことを頼みます!》

《お願いね~!》


そう言った瞬間、通話が終了した。


「はぁ……とりあえずフェリスちゃん、家に来る?冒険者ギルドで依頼を終えたと報告してからだけど。」

「行きます!行かせてください!行かせてほしいです!」

「では、私も……」

「アンタもついてくんのかよ!?」


こうして私は少女と男性とネズミを連れてくことになったのだ。





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