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イベント・春 (2025)

これは未来のひとつです




「これから見る動画の感想を文章にする時間です」

 暗幕を引いた教室で先生が授業内容を説明する。

 教室の外では小鳥のさえずりが聞こえてきた。

 

 先生が端末を操作しだす。

 生徒たちの目線が黒板に集まっていく。

「それじゃ流すわね」

 先生がそう言うと動画が始まった。

 

       ☆          ☆

 

――これは遠い遠い未来の話。

 黒い画面の中ナレーションが語りだす。


――幾多もの分岐の果てにある可能性の物語。

 場面は教室へと変わり子会話の場面を映した。

 

『今日から新学期です。自己紹介をしましょう』

 先生が機械音声で授業を始める。

 

『私の親はふたりとも女性です』

 名乗ったあと女の子が自分の親のことを話す。

『俺は父親と異性クローンで産まれた子です』

 次に男の子がしゃべる。

『僕は細胞を培養して生まれました』

 親は二人ともロボットと男の子は言う。


 自己紹介は続いていく。


『ありがとうございました。私もロボットです』

 自己紹介が終わると先生は身の上を明かす。

『さてご存じの通り今年度で通学制度は終了します』

『来年度からは自宅学習ですか?』

『はい。我々ロボットが個別指導します』

 先生役のロボットが淡々と説明していく。

『一人ひとりに合わせた授業になります』

 よろしくお願いしますとロボットは頭を下げた。

 

 ロボットが顔を上げほほえむと動画は終わる。

 

       ☆          ★


 動画が終わると先生はボタンを押す。

 暗幕が開いていき、教室に光が差し込む。

 その教室では生徒たちのどよめき声が満ちていた。


「え?学校終わるの?」

「なにこれ?科学技術の話なの?」

「わずらわしさから解放されるなら良い未来じゃん」

 

 生徒たちが思い思いに言葉を発していく。

 

「質問の時間を始めるわね。なにかありますか?」

 生徒が落ち着いてから、先生は話を始めた。

「先生、これはなんの動画ですか?」

「科学技術が極度に発達した未来の話よ」

「この動画から感想文を書くんですか?」

「そうね。感想文だから思ったことを文章化してね」

「なにを書けばいいんですか?」

 次から次へと生徒が質問を出す。

 先生はひとつずつ答えていった。


「動画の素直な正直な感想を先生は欲しいです」

 再び教室がざわめきだす。

「なら先生はどんな感想を出しますか」

 ざわめく中、クラス委員の子が大きな声で聞く。

 

「私個人としては真ん中を行ってほしいかな」

 教室が静まるのを待ち先生は自分の答えを言う。

 そのあと黒板にモニター画面が投射される。

 白い画面にタッチペンで線が引かれていく。

 

「かつてアポロ計画がありました」

 引き終えると先生は授業を始めた。

「人々は諸手を挙げて科学技術を歓迎したそうよ」

 先生は片側の線の端に科学技術と書く。


「時を経てクローン羊のドリーが誕生しました」

 生徒たちは先生の話を注意深く聴いていた。

「人々は猛反発したと記録に残されてるわ」

 先生はもう片側の線の端に人の心と書く。

 

「つまり人の心と科学は直線の端と端にあるの」

「この真ん中にいることが先生の答えですか?」

「そういうことになるわね」

 納得したのか、クラス委員の子は席に座る。

 

「人づきあいが減ってラッキーと思う子もいます」

 それを見届けて先生は話を再開した。

「コミュニケーションが減って残念がる子もいるわ」

 生徒の何人かが首を縦に振る。


「これら一つひとつが正解なの」

 直線の端の下にコミュ増とコミュ増が書かれた。

「ちなみに先生ならやっぱり真ん中を選んじゃうな」

 先生はそう言って笑う。

 生徒たちの中からも笑みがこぼれた。

 

(質問の時間は終わってよさそうね)

 先生は生徒たちを見る。

 早い子は下書きを始めていた。

(教壇からだとみんなの動きよくわかるな)

 先生は微笑すると生徒たちに視線を向ける。

 

「ならそろそろ始めよっか」

 一斉に生徒の目が端末に向けられた。

 

       ★          ★

 

「提出期限は明日の朝までです」

 この言葉でほっとした様子の生徒が何人かいた。

「それじゃスタート」

 みんなは思い思いの感想を文章化し始めた。



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― 新着の感想 ―
コロナ禍の時に実施されていたリモート授業とは比較にならない程に進化した、各個人に最適化された家庭学習ですか。 確かに「人づきあいが減ってラッキー」と思う子もいれば、コミュニケーションが減って残念がる子…
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