0:世界の指標
初めまして。別サイトもやっているので知っている方もいるかもしれませんが、その方は知らんぷりしてください。
とりあえずこの小説は比較的自暴自棄です。プロットも書いてありますし、文章も誤字脱字などないよう注意してはおりますが保障はしておりません。
何かありましたら感想言いにくい事はメッセで遠慮なくどうぞ。
「見ろよ、あの真っ白な髪。化物だぜ」
「いや、あれは病気だ。近寄ると病気が移って皆髪が真っ白になっちまう」
何気ない一言が、真っ赤な空に吸い込まれるように消えていく。
数人の少年達が、数メートル離れた少女を愉快そうに指さす。その口から出る言葉は間違いなく遊び半分。それが齎す効果をそいつらは知らない。それはこいつらにとって単純なごっこ遊びなのだ。異端を排除し優越感に浸るごっこ遊び。そしてその少女には不幸にもその興味の対象となって然るべき大きな特徴があった。
純白の髪。白髪ではなく、輝くような銀髪は、映画やドラマで外人を見ることも少なくない子どもたちに取っても、異常といってもいいものだった。この年頃に美醜はそれほど意味をなさない。異常であることが大切なのだ。そして、その少女の髪は漫画やアニメでしかまず見る事ができない異端だった。
からかわれるような声を上げられてもその少女は気丈にこちらを睨みつけてくる。
しかしそんなものは集団心理の前では無意味。相手は一でこちらは五。一対一なら怯むであろう威圧もこの数の差の前では何の役にも立たない。そして、例え相手が暴力で来たとしても同じように敵わないだろう。あれはそういうものだ。いつかは手が届かなくなるが、今現在は簡単に蹂躙できる、そういうもの。こいつらは千載一遇の機会を蹂躙に使い、俺は逆にそのチャンスを未来に生かす。
やがて、メンバーの中の一人、無意味にぐるぐる廻っていた背の高い少年がつまらなそうに言う。
「あーあ、つまんね。かくれんぼでもやんね?」
「鬼ごっこがいいな」
「それよりも――」
銀髪が翻る。
軽く扱わねば折れてしまいそうな体躯。まるでガラス細工で出来ているような繊細な体つきをした少女が身体を翻し去っていく。その肩は軽く震えていた。いくら英才教育を受け大人びているとはいえ、まだ外界からの負の感情に慣れていない手前、その本心はその身体同様折れそうになっているのだろう。動揺をあからさまに表に出さないだけ、年不相応とも言える。
俺はその予想通りの姿を見て、表情を崩さないよう軽く微笑んだ。それでこそ網を張っていた甲斐があるというもの。
一期一会は大切にするべきだ。特に彼女は俺が数カ月の間待ち望んでいた者でもある。この機会を逃したら次の機会を得るまで何ヶ月かかるか。ともすれば数年かかってしまうかもしれない。もしこれを教訓に館から出るのをやめてしまえば、それでゲームオーバー。俺の望みは永遠に潰えてしまう可能性すらある。
じっちゃんとばっちゃんととうちゃんとかあちゃんが俺に今まで腐るほど教えてくれた言葉。
『金持ちは大切に』
子供である手前、お金持ちと知り合う手段は限られている。
父は言った。この世は金が全てだと。
母は言った。この世は愛が全てだと。
祖父は言った。この世は力が全てだと。
祖母は言った。この世は運が全てだと。
愛は金に繋がり、それは力をもたらす。その三つを得たものには程なくして強運がついてくる。
ポケットの中から、一枚の写真を取り出す。くしゃくしゃになっているそれを、小さな手のひらの上で平にした。
何が楽しいのか、アホ面で微笑む銀髪の少女の写真。見ていると腹が立ってくる天使のような少女の写真。
アングルからしてカメラ目線ど真ん中。いい腕をしていると腹の中で哂う。
総資産額が一兆ドルを超えるという超大金持ち。
半導体部品からスポーツ用品まで、多種多様な分野を網羅するワールドクラフトグループ会長の嫡子。
今現在この世で最も恵まれているお人形。
アイシャ・ストルヴェラス
心の中の悪魔が呟く。やつを手に入れろ。利用しろ。彼女は金の成る木、というより金そのものだ。ちょっと騙すだけで一生安泰になれるだろう。
心の中の天使が呟く。彼女と友達になれ。彼女は可哀想な娘だ。生まれついての銀髪に、その身分。どちらも幼少の身からしてみれば重荷でしかない。安全な箱庭を出てこんな公園にやってきたのがその証拠。うまくこませば一生金には困らない。
良心と悪心が肩を組んで踊る。くるくるくるくる複雑なステップ。金に貴賎はない。どのような手段で手に入れてもそれはただの財だ。
特注の革靴。つま先でとんとんと地を叩く。雑談に興じていた仲間に告げた。
「悪いけど、抜けるわ」
「あ、おい――ちょっとどこに……」
「あの娘追いかけてくる」
喜んで金で買われよう。今ならとてもお買い得。アフターサービスもばっちり。気取られるヘマはしない。
走るのは苦手ではない。あっという間にアイシャの背中が見えてくる。
「おーい! ちょっと君!」
アイシャの歩みが止まる。銀髪が風もないのに翻る。
真っ赤な夕日の下。お人形のようなその相貌は喩えようもないほど美しかった。
もしそれを買うとしたら相当な値段がつくだろう。だが買うつもりはない。金などない。俺は売る側だ。
おーい! ちょっと君!
友人を買わないかい?
今なら飴玉もついてくる。
ポケットから出す。メロン味の飴玉。俺の大好物。市販品。一パック二十二個入り百五十円也。
手の平に乗ったエメラルドグリーンの飴玉。
友人を買ったらもれなくついてくるおまけを見て
彼女は泣いた。
多忙で小説書いてなかったら、就活の小論文に小説みたいな描写を使ってた。
更新速度はできるだけ頑張ります。